いなくなった伯爵令嬢の代わりとして育てられました。本物が見つかって今度は彼女の婚約者だった辺境伯様に嫁ぎます。

りつ

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6、突然の求婚

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 しかしマリアの予想はどれも外れた。

「――お父様、本当ですか? その、ヒルデが……王家から結婚の打診を受けたと……」
「ああ、本当だ。隣国へ留学していた王子殿下が帰国なされてね。先日の舞踏会で、ヒルデを見初めたそうだ」

 第二王子であるアロイスは情熱的な方で、ヒルデをその場で口説き、彼女が結婚できない相手だと知ると、直接父王に打診した。

 最初は当然先約があるからと国王も突っぱねっていたのだが、どうあっても諦める気のない息子の様子に折れるしかなかった。王太子にはたいそう厳しいそうだが、王妃に似た次男には弱いとの噂もあった。

 ヒルデの気持ちは、と気になるところだが、彼女は意外にも素直に受け入れている。

 もちろん最初は戸惑っていた。相手のこともほとんど知らず、何よりヒルデが本当に愛しているのはエルヴィンである。

 王子がいくら情熱的に口説こうが心には響かない……と思われたが、アロイスは足繁くヒルデに会いに来ては求婚し、愛を捧げたので、さすがのヒルデも申し訳なく思うようになったのかもしれない。王子と結婚すると伯爵夫妻に告げたのだ。

「あの子に妃の役目が務まるか少し不安ではあるが、まぁ、何とかなるだろう」
「ヒルデは明るくて優しい子ですもの。アロイス殿下だけでなく、他の方々とも上手くやっていけますわ」

 なんにせよ、ヒルデが嫌がっている様子ではないので伯爵たちは安堵したようだ。

 マリアもヒルデには不幸な目に遭ってほしくないと思っていたので、急な話ではあったがよかったと思った。エルヴィンの心中を思うと、複雑ではあったが……。

 それはそれとして、もう一つ気になることがあった。

「では、カリウス辺境伯との結婚は白紙になったということでしょうか」

 王家からしてもヒルデを嫁がせることは重要な意味があったはずだ。

(誰か別の人間を嫁がせるのかしら)

 そう考えてマリアは伯爵とヨゼフィーネが何か言いたげに自分を見ていることに気づいた。

(まさか)

「マリア。辺境伯には、お前に嫁いでほしいんだ」

 辺境伯のことも気がかりであった王家は、マリアの存在に目をつけ、代わりに嫁ぐよう命じたという。

「でも……わたしは、お二人の本当の子どもではありませんわ」

 孤児であるマリアが嫁いでも意味がないのではないか。

 やめた方がいいのではないかと不安がるマリアに、二人は楽観的な様子で答える。

「まぁ、マリア。あなたは私たちの可愛い娘よ」
「そうだ。それに血の繋がりはさほど問題ではない。要は、王家寄りの人間が向こうへ行くことに意味があるのだから」
「でも……」

 マリアに政治の話はよくわからない。

 しかし歴史の授業で、王侯貴族の血がいかに重要かは学んできたつもりだ。

 平民である自分が差し出されて、それで牽制になるのだろうか。

(むしろ怒りを買ってしまうんじゃ……)

「あちらは……カリウス辺境伯は納得しているのですか」

 二人は顔を見合わせて、黙り込んだ。もしかして、よく思っていないのだろうか。

 不安な顔をするマリアに、伯爵は慌てて言った。

「いや、その、実はまだ、事情を説明していないのだ。なにぶん、急な話だったからね」
「では、きちんと了承を得た上で、婚姻の話を進めた方が……」
「それはその通りなのだが、この話は王家が主導で進めているからね……私も強く意見することはできないんだ」

 どうやら花嫁が変わることは、マリアが辺境伯へ嫁ぐ数日前に告げるそうだ。

(そんなことして、大丈夫なの?)

 揉め事に発展するのではないかとマリアは不安で仕方がない。

「まぁ、何とかなるさ。お前はヒルデとよく似ているし、以前向こうに贈った姿絵も、実は自分だったと言い張ればいい」
「そんな……」

 あまりにいい加減な言い訳にマリアはカリウス辺境伯に代わって呆然としてしまう。

 どうしてそんな考えで上手くいくと思えるのだろう。不安にならないのだろうか。

「マリア。あまり真剣に考えすぎるのもよくないわ。もっと気楽に考えなさいな。何かの行き違いであなたの情報ではなく、ヒルデのことが伝わっていたとか、ね」

 ヨゼフィーネの励ましがどこか他人事のように聞こえた。

 いや、彼らにとっては他人事なのかもしれない。

「あなたはヒルデに似てとても可愛いから、きっと辺境伯様も気に入ってくださるはずよ」
「ああ。ヒルデに似ているから、きっと大丈夫だ」

 言葉を失うマリアに止めを刺すように二人は告げた。

「マリア。頼む。我が家を救うためだと思って、嫁いでくれないか」
「ヒルデも王家のために結婚するわ。あなたにもどうか、同じ役目を担ってほしいの」

 二人の縋るような眼差しに、孤児院で初めて会った時のこと、自分たちを本当の両親だと思って呼んでほしいと言われた時のことが思い出された。

「……はい、わかりました」

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