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62.娘の願い
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「酷いわ!」
アリシアは自室に入るなり、感情を爆発させた。王女としてどんな時も感情を抑えるよう教育された彼女にとっては、禁忌に近い振る舞いであった。
けれど今度ばかりは仕方がない。
(どうして、どうしてわたくしを引き止めてくれないの!?)
リアンは誓ってくれた。アリシアだけの騎士になると。それは彼が自分を愛してくれているからだ。それなのに他の男との結婚を勧めた。アリシアが出て行くことを許した。苦しんで悲痛に顔を歪ませることすら、彼はしなかった!
「どうして!」
どうして平気な顔をしているのだ。アリシアの騎士なら絶望して、どうか行かないで欲しいと懇願しなければならないのに。それなのにどうして結婚して当然だという顔をしているのだ。どうして――
(わたくしの幸せがあなたと共にいることだと気づいてくれないの!?)
アリシアはリアンにそばにいて欲しかった。守って欲しかった。いつも隣にいて、アリシアと名を呼んで欲しい。騎士としてではなく、ただ一人、アリシアの夫として。忠義心はいらない。愛さえあればよかった。
(……まだ、諦めていないというの?)
自分ではなく、あのみすぼらしい少女に想いを残しているというのか。
(そんなこと、許せない……!)
心臓が痛いほど高鳴っている。頭が痺れたようにくらくらする。嫉妬でどうにかなってしまいそうだった。こんなにも自分はリアンが好きなのだ。
それなのに彼は違う。アリシアをこんな思いにさせておきながら……ひどく屈辱であった。
(そうよ。心が手に入らないなら形だけでもわたくしのものにすればいいわ)
アリシアに今まで叶えられない願いはなかった。彼女が望んだものは最後には必ず手に入れることができた。今回もそうすればいいだけだ。
「ふふ……」
アリシアは立ち上がり、ふらふらと部屋を出て行く。行き先は決まっていた。
「――お父様。お加減はいかが?」
「おお。アリシア。もうだいぶいいよ」
聖女の力は完璧である。国王にはもうどこも悪いところはなかった。だが大事を取って彼はいまだ寝台の上で休んでいた。
「アリシア。おまえのおかげだ。おまえが聖女を呼んでくれたから、本当に助かった」
「いいのよ。お父様はわたくしのたった一人のお父様ですもの」
自分の願いを何でも叶えてくれる人間の一人でもあった。
「ね、お父さま。わたくしがユグリット国へ嫁ぐというのは本当なの?」
父は目を瞠って、息を呑んだ。だがすぐに悲しげな表情を浮かべる。やるせない、といった感じでもあった。
「アリシア。私とておまえをユグリットへなどやりたくない」
「本当?」
「当たり前ではないか。おまえは私にとって大事な大事な一人娘だ。誰よりも幸せになって欲しいと思っている。できれば私の近くでな」
「ではお父様。どうか此度の申し出、お断りして下さい」
父のそばに座り込み、アリシアは父に懇願する。彼は眉間の皺をさらに深くさせながら、唸るような声で「それは難しい」と答えた。アリシアは「どうして?」と泣きそうな顔でたずねる。
「お父様はわたくしが遠くへ行ってもいいの?」
「アリシア、これはラシア国とユグリット国の平和を守るためでもあるんだよ」
「わからないわ。今でも十分平和じゃない。わたくしが嫁ぐ必要なんかないわ」
「アリシア……どうかわかっておくれ。ラシアのためなのだ」
国王は愛娘の頭を撫でながらユグリット国の内情を教える。アレクシスの王としての正当性を確かなものにするために同じ王族であるアリシアが選ばれたのだ。
「……ねぇ、お父様。それは絶対にわたくしでないとだめなの? 他に誰かいないの?」
「すまない。王族の血を引いている適齢の娘はおまえしかおらぬのだ。私が王妃との間にもっと娘を作っていればよかったんだがな……」
まさかこんなことになるとは思わなかった、と後悔に滲んだ声で父はつぶやく。
「お父様。でしたらわたくしに考えがありますわ」
「なんだい、アリシア」
アリシアはふわりと微笑んだ。
アリシアは自室に入るなり、感情を爆発させた。王女としてどんな時も感情を抑えるよう教育された彼女にとっては、禁忌に近い振る舞いであった。
けれど今度ばかりは仕方がない。
(どうして、どうしてわたくしを引き止めてくれないの!?)
リアンは誓ってくれた。アリシアだけの騎士になると。それは彼が自分を愛してくれているからだ。それなのに他の男との結婚を勧めた。アリシアが出て行くことを許した。苦しんで悲痛に顔を歪ませることすら、彼はしなかった!
「どうして!」
どうして平気な顔をしているのだ。アリシアの騎士なら絶望して、どうか行かないで欲しいと懇願しなければならないのに。それなのにどうして結婚して当然だという顔をしているのだ。どうして――
(わたくしの幸せがあなたと共にいることだと気づいてくれないの!?)
アリシアはリアンにそばにいて欲しかった。守って欲しかった。いつも隣にいて、アリシアと名を呼んで欲しい。騎士としてではなく、ただ一人、アリシアの夫として。忠義心はいらない。愛さえあればよかった。
(……まだ、諦めていないというの?)
自分ではなく、あのみすぼらしい少女に想いを残しているというのか。
(そんなこと、許せない……!)
心臓が痛いほど高鳴っている。頭が痺れたようにくらくらする。嫉妬でどうにかなってしまいそうだった。こんなにも自分はリアンが好きなのだ。
それなのに彼は違う。アリシアをこんな思いにさせておきながら……ひどく屈辱であった。
(そうよ。心が手に入らないなら形だけでもわたくしのものにすればいいわ)
アリシアに今まで叶えられない願いはなかった。彼女が望んだものは最後には必ず手に入れることができた。今回もそうすればいいだけだ。
「ふふ……」
アリシアは立ち上がり、ふらふらと部屋を出て行く。行き先は決まっていた。
「――お父様。お加減はいかが?」
「おお。アリシア。もうだいぶいいよ」
聖女の力は完璧である。国王にはもうどこも悪いところはなかった。だが大事を取って彼はいまだ寝台の上で休んでいた。
「アリシア。おまえのおかげだ。おまえが聖女を呼んでくれたから、本当に助かった」
「いいのよ。お父様はわたくしのたった一人のお父様ですもの」
自分の願いを何でも叶えてくれる人間の一人でもあった。
「ね、お父さま。わたくしがユグリット国へ嫁ぐというのは本当なの?」
父は目を瞠って、息を呑んだ。だがすぐに悲しげな表情を浮かべる。やるせない、といった感じでもあった。
「アリシア。私とておまえをユグリットへなどやりたくない」
「本当?」
「当たり前ではないか。おまえは私にとって大事な大事な一人娘だ。誰よりも幸せになって欲しいと思っている。できれば私の近くでな」
「ではお父様。どうか此度の申し出、お断りして下さい」
父のそばに座り込み、アリシアは父に懇願する。彼は眉間の皺をさらに深くさせながら、唸るような声で「それは難しい」と答えた。アリシアは「どうして?」と泣きそうな顔でたずねる。
「お父様はわたくしが遠くへ行ってもいいの?」
「アリシア、これはラシア国とユグリット国の平和を守るためでもあるんだよ」
「わからないわ。今でも十分平和じゃない。わたくしが嫁ぐ必要なんかないわ」
「アリシア……どうかわかっておくれ。ラシアのためなのだ」
国王は愛娘の頭を撫でながらユグリット国の内情を教える。アレクシスの王としての正当性を確かなものにするために同じ王族であるアリシアが選ばれたのだ。
「……ねぇ、お父様。それは絶対にわたくしでないとだめなの? 他に誰かいないの?」
「すまない。王族の血を引いている適齢の娘はおまえしかおらぬのだ。私が王妃との間にもっと娘を作っていればよかったんだがな……」
まさかこんなことになるとは思わなかった、と後悔に滲んだ声で父はつぶやく。
「お父様。でしたらわたくしに考えがありますわ」
「なんだい、アリシア」
アリシアはふわりと微笑んだ。
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