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10、お兄様の家出
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(まさかお兄様に求婚されてしまうとは……)
イザベルは一瞬、冗談かと思ったが、フェリクスは覚悟を決めた表情で本気だと告げた。
「私とお前は兄妹ではあるが、血は繋がっていない。法的には結婚しても問題ない。体裁が気になるならば、私がどこかの家の養子となり、婿入りするかたちでお前と結婚すればいい」
「いえ、そういうこと、ではなく……」
「結婚はするが、今まで通りに暮らしていけばいい。家の管理も、私が引き続き行う。面倒なことは何もしなくていい。お前は今まで通り、好きなことをして、この家でのびのびと暮らしていけばいい」
(えっ、なにそれ最高)
と、一瞬乗ってしまいそうになったが、そもそも結婚する目的を思い出してやはりだめだとイザベルは思った。
(だってわたしが結婚するのは、異性と身体を繋げて、他の攻略キャラたちに傾かないようにするためだもの)
兄に妹である自分を抱けるのだろうか。
いくら血は繋がっていないとはいえ、兄妹として育ってきた。
何よりフェリクスの今の言動からは、どうもイザベルとそういうことをするという考えがすっぽり抜けているように見える。
(お兄様は、わたしを妹としてしか見ていない)
仕方がないし、当然だと思っても、なぜかとても悲しくなって、イザベルは泣きそうな顔をしてしまった。
彼女のその表情を見て、フェリクスも我に返ったようだ。瞠目して、口元に手を当てると、「俺はなんてことを……」と呆然としたように呟く。
「あの、お兄様?」
「すまない、イザベル。急に、変なことを言ってしまって……私は、お前の兄でなければならなかったのに……」
「えっと……」
フェリクスはイザベルの顔を見ないまま椅子から立ち上がると、今日はここまでにしようと言って、逃げるように部屋を出て行ったのだ。
(――……お兄様、本当はわたしのことどう思っているのかしら)
ずっと家族だと思っていたけれど、違うのだろうか。
どんな気持ちから、自分が婚約者になると口にしたのだろうか。
(わたしはお兄様ではないから、いくら考えてもわからないのは当然よね)
よし、イザベルは寝そべっていた体勢を起こすと、フェリクスに突撃することを決めた。
(あくまでも明るく訊いちゃえばいいのよ。お兄様はご自分を責めてしまう性格だから、わたしが暗くならないようふざければ大丈夫!)
頭の中でばっちりシミュレーションを果たし、イザベルはいざ兄のもとへ参った。
……つもりだったのだが、兄は執務室にも、談話室にも、図書室にも、食堂にも、浴室やトレイにも、どこにもいなかった。
「ちょっと! お兄様はどこにいるのよ!」
せっかく腹をくくって話し合おうと決めた矢先に肝心の本人が見つからず、イザベルは腹を立てる。
「お嬢様。実は、旦那様の机にこのような書き置きが……」
兄の優秀な補佐役でもある執事がスッと一枚の紙を差し出した。
「頭を冷やすため、しばらく屋敷を留守にする。……もう、お兄様ったら!」
とんでもない申し出をしてしまって、パニックになって家を出るとは、実に困った兄である。
「家出しようとしたって、そうはいかないわよ。わたし、お兄様を探し出して連れて帰ってくるわ。夕食までには戻るから、よろしくね!」
「はい。承知いたしました」
イザベル一人だけで行かせるのかと他の使用人たちは慌てるが、執事が足止めしてくれる。これは兄妹二人の問題だと優秀な彼はよく心得ているのだ。
(……さて、どこにいるのかしら)
馬車を出してもらい、イザベルは適当な場所で下りると、ぶらぶらと通りを歩いて兄の姿を探す。
(お兄様のことだから、いきなりそう遠くまでは行けないはず)
そして頭を冷やすとあれば、静かな場所で物思いに耽るはずだ。
この辺で静かな場所といえば……。
「あ、いた」
ベンチに沈んだ表情で腰かける兄の姿を見つけ、イザベルはほっと胸を撫で下ろす。
兄がいたのは第二広場だった。
第一広場は広くて大きく、綺麗な噴水があるためちょっとした観光場所となっている。貴族御用達の店がある通りの先にあるので、貴族も多く、お洒落な気分を味わいたい庶民にも人気でいつも人が多いのだ。
そんなところでは落ち込めないだろうと、イザベルは平民が暮らす通りにある第二広場の方へ足を運んだ。
第一広場の設計に力を入れすぎて予算不足になったのか、第二広場はベンチくらいしかなく、閑散としていたから沈んだ気持ちを深めるにはぴったりだと思って。
案の定フェリクスはベンチにぽつんと座っていたのでイザベルの勘は当たっていた。
気配を殺して近づき、兄を見下ろしてやろうと思ったが、その前に顔を上げられて驚愕の顔をされる。
「イザベル。どうしてここに……」
「家出したお兄様を連れ戻しにきたの」
「一人でここまで来たのか? 何かあったらどうする」
早速自分の心配をする兄に、イザベルはしれっとした表情で答える。
「大丈夫。お兄様の目からはわたししかいないように見えるけれど、どこかに隠れて様子を見守っている護衛たちがいるはずだから」
我が家の執事はとても優秀なのだ。イザベルやフェリクスの邪魔をしないように護衛をつける気遣いもばっちりできるのだから。
フェリクスもそれは理解しており、納得した様子で……しかし、まだ何か言いたげな顔でイザベルを見た。
「……帰らないつもりはなかった」
「そう? でも、何日かは宿屋で過ごすつもりだったんじゃない? お兄様、神経質そうだし、寝床が変わると体調まで崩しそうだから、心配してしまうわ」
「私はそんな柔な人間じゃない」
ググッと眉間に皺を寄せてフェリクスは抗議する。
イザベルはその文句を無視して兄の隣に座ると、何気ない口調で話し続けた。
「それから、落ち込んでいるお兄様を慰めなきゃと思って」
そう言って隣を見れば、フェリクスと目が合う。
動揺したように青い瞳が揺れて、何かを恐れているように見えた。
ふいとイザベルから目を逸らし、下を向く。
「なぜ、お前が私を慰める必要がある。……謝らなければいけないのは、私の方だろう」
「突然自分が婚約者になると言い出したから? 確かに驚いたわ。でもそれは別に、いいの。……お兄様は、口にして後悔した? やはりわたしとは結婚したくないと思ったの? わたしが嫌い? わたしのような女は嫌?」
あえてそんなふうに訊けば、フェリクスはすぐにこちらを見て違うと否定した。
「お前と結婚したくないなんて……そんなことは、思っていない」
フェリクスはそう言うと、また苦しそうな顔をした。
「お前が嫌だと思ったんだ。ずっと兄として接してきたくせに、いきなり自分と結婚しろと言われて、急に異性の、男の顔を出して……汚らわしく思ったに違いない。家族としての信頼も裏切ったんだ。本当に最低なことをした。お前の両親にも、顔向けできない」
「……わたしの両親は、お兄様の両親でもあると思うけれど」
イザベルは自分を見るフェリクスに微笑む。
「お兄様って、本当にわたしのことばかりね……。きっとお母様たちが生きていらしたら、ご自分の幸せをもっと優先しなさいって言うはずよ」
「私の幸せは、お前が幸せでいることだ。……お前と、ずっと一緒にいることだ」
「だから、私と結婚したいと言った。……よかった」
どうして? という表情をする彼にだってイザベルは笑顔で伝えた。
「わたしも、同じだもの。お兄様とずっと一緒にいたい」
フェリクスはイザベルの笑顔に目を奪われたように見ていたが、まだ心が晴れない様子で、苦々しい顔で嘘だと言うように否定した。
「お前が抱いている気持ちは……家族としてだろう。私のとは……違う」
「異性として意識していないって言いたいの? 確かに近すぎて、まだよくわからないけれど……でも、お兄様のこと、好きよ」
「だが、他の男のもとへ嫁ごうとしていたじゃないか」
フェリクスは責めるように言った。
彼がこんなふうに感情的になる姿は初めて見る。なぜか嬉しかった。
「わたしが余所へ行けば、お兄様も自由になれると思ったから。お兄様とずっと一緒にいたいと思ったのは本当だけれど、お兄様にいつまでも甘えていてはだめだと思ったの。お兄様は今までたくさん頑張ってわたしを幸せにしてくれた。だから今度は、わたしがお兄様を幸せにしたいと思ったの」
「イザベル……」
それに、とイザベルは次の言葉を言うのに躊躇いを覚えた。
しかし、避けられないことでもあったので勇気を出して伝える。
「お兄様は結婚してくれるとおっしゃったけれど……白い結婚、というのは、だめ……嫌なの。わたしはきちんと夫婦になりたい」
身体を繋げることもしたい、と兄である人に伝えるのはシャルルの時と違い、かなり恥ずかしい。フェリクスも動揺した様子を晒す。
「でも、それはできないかもしれない。お兄様にとってわたしと結婚するということは、清い関係のまま、今の家族としての関係をずっと続けていくものかもしれないと思って……それで、何だかすごく悲しくなって、傷ついてしまった自分がいるの」
そんなふうに考えてしまうことが、イザベルの答えだ。
「わたしも、お兄様と同じよ。ううん。お兄様よりも、もっと欲深い女かもしれない。兄妹として育ってきたくせに、夫婦にもなりたい……子どもができてもいいと思っているのだから」
兄は幻滅するかもしれない。
現にフェリクスはイザベルの告白を聞いて呆然としている。
「……ごめんなさい。頭を冷やすのは、わたしの方かもしれないわ」
兄はもう、自分を屋敷に留めることはしないだろう。
ここで冷静になり、次からはお見合いの話を勧めてくれるはずだ。
「先に帰っているわ。お兄様も気まずいかもしれないけれど、夕方までには戻って――」
イザベルは腕を引っ張られて、気づけばフェリクスの腕の中にいた。
身じろぎすればさらに抱擁が強まり、耳元で告げられる。
「私も、同じだ」
驚いて顔を上げれば、フェリクスはとうとう言ってしまったというような苦しそうな顔をしていた。しかしいつも冷たく見える瞳の奥には熱が灯っていた。
イザベルは一瞬、冗談かと思ったが、フェリクスは覚悟を決めた表情で本気だと告げた。
「私とお前は兄妹ではあるが、血は繋がっていない。法的には結婚しても問題ない。体裁が気になるならば、私がどこかの家の養子となり、婿入りするかたちでお前と結婚すればいい」
「いえ、そういうこと、ではなく……」
「結婚はするが、今まで通りに暮らしていけばいい。家の管理も、私が引き続き行う。面倒なことは何もしなくていい。お前は今まで通り、好きなことをして、この家でのびのびと暮らしていけばいい」
(えっ、なにそれ最高)
と、一瞬乗ってしまいそうになったが、そもそも結婚する目的を思い出してやはりだめだとイザベルは思った。
(だってわたしが結婚するのは、異性と身体を繋げて、他の攻略キャラたちに傾かないようにするためだもの)
兄に妹である自分を抱けるのだろうか。
いくら血は繋がっていないとはいえ、兄妹として育ってきた。
何よりフェリクスの今の言動からは、どうもイザベルとそういうことをするという考えがすっぽり抜けているように見える。
(お兄様は、わたしを妹としてしか見ていない)
仕方がないし、当然だと思っても、なぜかとても悲しくなって、イザベルは泣きそうな顔をしてしまった。
彼女のその表情を見て、フェリクスも我に返ったようだ。瞠目して、口元に手を当てると、「俺はなんてことを……」と呆然としたように呟く。
「あの、お兄様?」
「すまない、イザベル。急に、変なことを言ってしまって……私は、お前の兄でなければならなかったのに……」
「えっと……」
フェリクスはイザベルの顔を見ないまま椅子から立ち上がると、今日はここまでにしようと言って、逃げるように部屋を出て行ったのだ。
(――……お兄様、本当はわたしのことどう思っているのかしら)
ずっと家族だと思っていたけれど、違うのだろうか。
どんな気持ちから、自分が婚約者になると口にしたのだろうか。
(わたしはお兄様ではないから、いくら考えてもわからないのは当然よね)
よし、イザベルは寝そべっていた体勢を起こすと、フェリクスに突撃することを決めた。
(あくまでも明るく訊いちゃえばいいのよ。お兄様はご自分を責めてしまう性格だから、わたしが暗くならないようふざければ大丈夫!)
頭の中でばっちりシミュレーションを果たし、イザベルはいざ兄のもとへ参った。
……つもりだったのだが、兄は執務室にも、談話室にも、図書室にも、食堂にも、浴室やトレイにも、どこにもいなかった。
「ちょっと! お兄様はどこにいるのよ!」
せっかく腹をくくって話し合おうと決めた矢先に肝心の本人が見つからず、イザベルは腹を立てる。
「お嬢様。実は、旦那様の机にこのような書き置きが……」
兄の優秀な補佐役でもある執事がスッと一枚の紙を差し出した。
「頭を冷やすため、しばらく屋敷を留守にする。……もう、お兄様ったら!」
とんでもない申し出をしてしまって、パニックになって家を出るとは、実に困った兄である。
「家出しようとしたって、そうはいかないわよ。わたし、お兄様を探し出して連れて帰ってくるわ。夕食までには戻るから、よろしくね!」
「はい。承知いたしました」
イザベル一人だけで行かせるのかと他の使用人たちは慌てるが、執事が足止めしてくれる。これは兄妹二人の問題だと優秀な彼はよく心得ているのだ。
(……さて、どこにいるのかしら)
馬車を出してもらい、イザベルは適当な場所で下りると、ぶらぶらと通りを歩いて兄の姿を探す。
(お兄様のことだから、いきなりそう遠くまでは行けないはず)
そして頭を冷やすとあれば、静かな場所で物思いに耽るはずだ。
この辺で静かな場所といえば……。
「あ、いた」
ベンチに沈んだ表情で腰かける兄の姿を見つけ、イザベルはほっと胸を撫で下ろす。
兄がいたのは第二広場だった。
第一広場は広くて大きく、綺麗な噴水があるためちょっとした観光場所となっている。貴族御用達の店がある通りの先にあるので、貴族も多く、お洒落な気分を味わいたい庶民にも人気でいつも人が多いのだ。
そんなところでは落ち込めないだろうと、イザベルは平民が暮らす通りにある第二広場の方へ足を運んだ。
第一広場の設計に力を入れすぎて予算不足になったのか、第二広場はベンチくらいしかなく、閑散としていたから沈んだ気持ちを深めるにはぴったりだと思って。
案の定フェリクスはベンチにぽつんと座っていたのでイザベルの勘は当たっていた。
気配を殺して近づき、兄を見下ろしてやろうと思ったが、その前に顔を上げられて驚愕の顔をされる。
「イザベル。どうしてここに……」
「家出したお兄様を連れ戻しにきたの」
「一人でここまで来たのか? 何かあったらどうする」
早速自分の心配をする兄に、イザベルはしれっとした表情で答える。
「大丈夫。お兄様の目からはわたししかいないように見えるけれど、どこかに隠れて様子を見守っている護衛たちがいるはずだから」
我が家の執事はとても優秀なのだ。イザベルやフェリクスの邪魔をしないように護衛をつける気遣いもばっちりできるのだから。
フェリクスもそれは理解しており、納得した様子で……しかし、まだ何か言いたげな顔でイザベルを見た。
「……帰らないつもりはなかった」
「そう? でも、何日かは宿屋で過ごすつもりだったんじゃない? お兄様、神経質そうだし、寝床が変わると体調まで崩しそうだから、心配してしまうわ」
「私はそんな柔な人間じゃない」
ググッと眉間に皺を寄せてフェリクスは抗議する。
イザベルはその文句を無視して兄の隣に座ると、何気ない口調で話し続けた。
「それから、落ち込んでいるお兄様を慰めなきゃと思って」
そう言って隣を見れば、フェリクスと目が合う。
動揺したように青い瞳が揺れて、何かを恐れているように見えた。
ふいとイザベルから目を逸らし、下を向く。
「なぜ、お前が私を慰める必要がある。……謝らなければいけないのは、私の方だろう」
「突然自分が婚約者になると言い出したから? 確かに驚いたわ。でもそれは別に、いいの。……お兄様は、口にして後悔した? やはりわたしとは結婚したくないと思ったの? わたしが嫌い? わたしのような女は嫌?」
あえてそんなふうに訊けば、フェリクスはすぐにこちらを見て違うと否定した。
「お前と結婚したくないなんて……そんなことは、思っていない」
フェリクスはそう言うと、また苦しそうな顔をした。
「お前が嫌だと思ったんだ。ずっと兄として接してきたくせに、いきなり自分と結婚しろと言われて、急に異性の、男の顔を出して……汚らわしく思ったに違いない。家族としての信頼も裏切ったんだ。本当に最低なことをした。お前の両親にも、顔向けできない」
「……わたしの両親は、お兄様の両親でもあると思うけれど」
イザベルは自分を見るフェリクスに微笑む。
「お兄様って、本当にわたしのことばかりね……。きっとお母様たちが生きていらしたら、ご自分の幸せをもっと優先しなさいって言うはずよ」
「私の幸せは、お前が幸せでいることだ。……お前と、ずっと一緒にいることだ」
「だから、私と結婚したいと言った。……よかった」
どうして? という表情をする彼にだってイザベルは笑顔で伝えた。
「わたしも、同じだもの。お兄様とずっと一緒にいたい」
フェリクスはイザベルの笑顔に目を奪われたように見ていたが、まだ心が晴れない様子で、苦々しい顔で嘘だと言うように否定した。
「お前が抱いている気持ちは……家族としてだろう。私のとは……違う」
「異性として意識していないって言いたいの? 確かに近すぎて、まだよくわからないけれど……でも、お兄様のこと、好きよ」
「だが、他の男のもとへ嫁ごうとしていたじゃないか」
フェリクスは責めるように言った。
彼がこんなふうに感情的になる姿は初めて見る。なぜか嬉しかった。
「わたしが余所へ行けば、お兄様も自由になれると思ったから。お兄様とずっと一緒にいたいと思ったのは本当だけれど、お兄様にいつまでも甘えていてはだめだと思ったの。お兄様は今までたくさん頑張ってわたしを幸せにしてくれた。だから今度は、わたしがお兄様を幸せにしたいと思ったの」
「イザベル……」
それに、とイザベルは次の言葉を言うのに躊躇いを覚えた。
しかし、避けられないことでもあったので勇気を出して伝える。
「お兄様は結婚してくれるとおっしゃったけれど……白い結婚、というのは、だめ……嫌なの。わたしはきちんと夫婦になりたい」
身体を繋げることもしたい、と兄である人に伝えるのはシャルルの時と違い、かなり恥ずかしい。フェリクスも動揺した様子を晒す。
「でも、それはできないかもしれない。お兄様にとってわたしと結婚するということは、清い関係のまま、今の家族としての関係をずっと続けていくものかもしれないと思って……それで、何だかすごく悲しくなって、傷ついてしまった自分がいるの」
そんなふうに考えてしまうことが、イザベルの答えだ。
「わたしも、お兄様と同じよ。ううん。お兄様よりも、もっと欲深い女かもしれない。兄妹として育ってきたくせに、夫婦にもなりたい……子どもができてもいいと思っているのだから」
兄は幻滅するかもしれない。
現にフェリクスはイザベルの告白を聞いて呆然としている。
「……ごめんなさい。頭を冷やすのは、わたしの方かもしれないわ」
兄はもう、自分を屋敷に留めることはしないだろう。
ここで冷静になり、次からはお見合いの話を勧めてくれるはずだ。
「先に帰っているわ。お兄様も気まずいかもしれないけれど、夕方までには戻って――」
イザベルは腕を引っ張られて、気づけばフェリクスの腕の中にいた。
身じろぎすればさらに抱擁が強まり、耳元で告げられる。
「私も、同じだ」
驚いて顔を上げれば、フェリクスはとうとう言ってしまったというような苦しそうな顔をしていた。しかしいつも冷たく見える瞳の奥には熱が灯っていた。
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