バッドエンド回避のために結婚相手を探していたら、断罪した本人(お兄様)が求婚してきました

りつ

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28、ヤンデレ化

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 それからまた兄にたっぷりと注がれて、イザベルはいつ眠ったか覚えていない。

(お兄様……珍しい……)

 いつも抱いた後、眠ったイザベルの身体や衣服を綺麗にしているのに、今回のフェリクスは力尽きた様子でぐっすりと眠っていた。

(ごめんなさい、お兄様)

 ゲームの強制力とはいえ、兄のことを嫌いだと言って、ひどいことを口にしてしまった。兄が起きたら改めて謝らないといけない。

(その前に、シャワー、浴びたい……)

 互いの体液でどろどろで、ひどい有様であった。

(シャワー室……)

 自分を抱き込むようにして寝ていた兄の腕の中からどうにか抜け出してイザベルはシャツとスカートを着る。

 いつもはほんの些細な物音でも起きるというのに兄は起きず、よほど疲れさせてしまったように見える。

(ごめんね、お兄様。すぐ、戻るから)

 さすが貴族の学院というべきか、学内には生徒も利用できるシャワー室が完備されていた。イザベルはドキドキしながら一人そこへ向かう。

 外はあと少しで日が昇るという景色だった。

(ずっと何ともなかったのに、どうしていきなりゲームのイザベルになりかけたんだろう)

 平静さを取り戻した今だからこそ、レーモンを頑なに愛そうとしていた自分にゾッとする。

(でも、わたしはきちんと戻れた。お兄様がわたしを愛してくれたから)

 イザベルはまずそのことに安堵しながらシャワーを浴びた。兄はよっぽど注いだのか、中から溢れて太股を伝っていく。

 生々しい情事の跡に少し恥ずかしさを覚えるも、身体を洗い終えて洗濯された新しいシャツに腕を通す。まるでホテルのように常備されているのだから助かった。

(ふぅ……とりあえず、もう少しだけ眠りたいかも)

 授業は二限目からだったので、大丈夫だろう。兄ももう少し寝かせてあげたい。もしかするとイザベルがいないことに気づいて今頃慌てているかもしれない。早く戻らなくては。

 イザベルは兄のもとへ戻ることが頭がいっぱいになっており、背後から近づいてくる人物に気が付かなかった。

「見つけた」
「えっ、むぐっ」

 後ろから身体を取り押さえられて一瞬硬直する。振り返って相手の顔を見ると、さらに驚愕した。

(どうして、あなたが……)

     ◇

「――イザベル。起きてくれ」

 優しく肩を揺らされて、イザベルは頭が痛む思いで目を覚ました。なぜか椅子に座らされており、手足は縛られて身動きできない状態だ。

 薄暗くて最初どこにいるのか理解するのに時間がかかったが、どうやら学院で一番大きな大講義室だと理解する。

 ……ゲームのイザベルを断罪した場所だということをなぜか思い出し、嫌な予感がする。

「イザベル。痛いだろう。すまない。あと少しの辛抱だ」

 自分をこんな所に連れてきて手足を縛った目の前の男の顔を、イザベルは困惑した気持ちで見つめた。

「殿下。なぜ、こんなことを?」

 レーモンは微笑んでいる。その表情はゲームでマリオンに微笑む時と同じもの。ただし、緑の瞳はどこか虚ろで、ぼんやりしている。

(まさか)

「イザベル。何を考えているんだ。僕にも教えておくれ」

 するりと優しく頬を撫でられて、何より甘ったるいレーモンの表情と声にイザベルは「ひっ……」と情けない声を上げてしまう。普段の彼を知っているだけに違和感が凄まじい。

「で、殿下。どうか正気に戻ってください。今のあなたは正常ではありません」

 よくわからないが、彼も恐らくフェリクスに抱かれる前の自分のような状態になっている。この世界に操られている。

「はは。何を言っているんだ。僕は正常だ。いや……きみのことを考えると、頭がおかしくなってしまいそうになるから、そういう意味では正しいのかもしれないね」

 どうしよう。彼の今の状況はマリオンを口説く時と似ている。他の男と親しくしていたマリオンを見て、ゲームのレーモンは激しく嫉妬するのだ。

(でも、なんでわたしにっ)

 友人として気を許してしまったのが間違いだったのだろうか。

「ふふ。最初はそっけない態度を取るきみのことが許せなくて、もうその時に消しちゃおうかなと思ったんだけど、謝ってくれたからね。その後も笑顔を向けてくれるようになったから許してあげたくなったんだ」

(ひいっ。危なかった!!)

 あの時追いかけて謝っておいて心底よかった!

「そのうち、僕のものにしたいなぁ、なんて思って、でも恋愛対象としては見てくれないだろう? どうしてなんだろうって何回も何十回も何百回も考えているうちにね、ようやく答えを見つけたんだ」
「そ、それはよかったですね。後で聞きますから、とりあえずこの縄を解いでください。手足が痛いんです」

 レーモンは笑みを深めたまま何も言わない。怖すぎる。

「ごめんね。後で優しく介抱してあげる。きみを餌にするのは申し訳ないと思っているんだが、害虫は駆除しておかないと」
「意味がわからないことはおっしゃらないで。殿下は……そう、疲れているんです。生徒会の仕事のしすぎですわ。休んでください。寝てください。そうすれば、頭がクリアになるはずです」
「はは。じゃあ、あの男を片付けたあとに、そうするよ。その時はイザベル、きみが膝枕になってくれ。抱き枕でもいい」
「殿下。きっと正気に戻ったら自分の言った言葉に吐血しますから、それ以上話さない方が賢明です」

 あの男、という部分にイザベルは内心焦る。推察するに恐らくフェリクスのことだろう。彼は兄を排除するつもりなのだ。ゲームのレーモンのように……。

「殿下。お願い。わたしの言うことを聞いてください」

 泣きそうな表情で懇願すれば、レーモンは「可愛いな」と真顔で言った。

「普段は勝気で生意気な口ばかり叩くというのに……そんなに縄を解いてほしい?」
「はい。解いてほしいです」

 解いてくれれば、レーモンの顔面に拳を振るうか、頭突きをして目を覚まさせることができる。無理でも、とにかく彼から距離を取るべきだ。

「じゃあ、僕が言うことを聞きたくなるような、条件をつけてくれ」
「縄を解いてくれたらこれから一生殿下のことを褒め称えます! 失礼な口は二度と利きません!」

 大声で宣言するイザベルにレーモンは呆れた顔をする。

「そんなこと望んでいない」
「な、なら、生徒会の雑用を卒業まで手伝います。他にも――」

 唇に指を押し当てられてびくりとする。

「キスすることを許してくれたら、縄を解いてあげる」

 イザベルは目を真ん丸にして凝視したのち、首を横に振っていた。

「いやです、そんなの」
「……そんなにあからさまに絶望した表情をされると、傷つくなぁ。決めた。あの男が来るまで口づけしよう」

 反論する暇を与えず、顎を捕えて固定された。そして整った甘い顔立ちがゆっくり近づいてきて――

「イザベル!」

 バーンと扉が開け放たれると同時に、シュンと自分とレーモンの間を何かが飛んでいった。ビイインと音が鳴った方を見れば、壁に矢が刺さっていた。

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