あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます

おぜいくと

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3章 ~ロイス視点~

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俺は兵士長室の一角で行ったり来たりを繰り返している。

「こうしている間にも、エアリーの身に何かあったらと思うと……」

「少しは落ち着いたらどうですかな。焦ってもどうにもなりませんぞ」

ソイメル兵士長に説得されて尖塔から離れたものの、落ち着けるわけがない。

「何か情報は入っていないのか」

「そうですなあ」

ソイメル兵士長は手元の資料を引き寄せた。平時でも行っている城下町巡回の報告書だ。

「食品の窃盗が数件、住民の喧嘩が一件。それと、街の井戸が枯れかかっているそうです」

「どこかでエアリーが絡んでいるかもしれない。関係者全員に話を聞いてくれ」

「この程度の犯罪などは日常茶飯事なのですがね……おや?」

しぶしぶといった態度で部下への指示内容をまとめ始めたソイメル兵士長の手が止まった。

「どうかしたのか?」

「今日はアーランドからの伝令役が来た記録が無いなと思いまして。毎日一言書いていくのですよ、労いの言葉なんかを」

「そいつは何という名前だ」

「確かレイという名前の若造でしたな。どうも頼りなさそうな」

ソイメル兵士長は顎を摩りながら答えた。

「なぜそれを早く言わないんだ!」

俺は兵士長の部屋を飛び出し、城の居住区へと駆け出した。


「ミシュアはいるか!?」

居住区の談話室のドアを開けて叫ぶ。

「うるさいわね、どうしたのよ」

顔をしかめながらミシュアは椅子から立ち上がった。

「レイという奴を知ってるか。アーランドの伝令役らしいんだが」

「あー、何度か見かけたことがある。エアリーと楽しそうに話していたわね。彼がどうかした?」

「奴がエアリーをさらったに違いない。今日は伝令役としての報告業務をしていないんだ」

「ちょっとまってよ」

ミシュアが両手を前に出して宥めてくる。

「それだけでエアリーがさらわれたと考えるのは軽率じゃないかしら。しっかりと状況を精査してみないと」

「なんでそんな悠長な事を言っていられるんだ。ミシュアはエアリーが心配じゃないのか」

「もちろん心配してる。だけどロイスが慌てたってしょうがないでしょ」

ミシュアは両手を腰に当てて子供を叱るように言った。


俺とミシュアは幼馴染で子供のころからこの城で育った。ミシュアの家系は我が王家に負けず劣らず歴史があり、遥か昔には両家の間に子が生まれたこともあるらしい。ミシュアはエアリーの世話係を買って出て、城に来たばかりのエアリーを案内してくれた。二人は親友のように仲が良かった。

「ミシュアはエアリーから何か聞いてなかったのか」俺が尋ねる。

「いいえ何も」ミシュアは首を横に振る。

「そうか……」

俺は思わず膝に手を付きうなだれた。どっと疲れが押し寄せて来た。あとは誰が手がかりを持っているだろう。今になって考えると、エアリーのことを碌に知らないのだと思い知らされる。自分が情けなくて腹立たしい。

「ねえロイス、あなたはどうなの?」

頭の上からミシュアの声が降ってくる。

「何がだ」

俺は下を向いたまま答える。

「エアリーはあなたに何も告げずに出ていったの?」

俺はゆっくりと体を起こした。

「そういえば言ってなかったな。書き置きが残されていた。指輪と一緒に」

ポケットからエアリーの書き置きを出してミシュアに見せる。

「うーん、秘密ってなんのことかしら。ひょっとして浮気でもしたの」

ミシュアはにやつきながら言った。この状況で冗談を言えるミシュアが信じられない。

「ふざけるな、そんなことするわけないだろう。エアリー一筋だ」

「ああそう」

ミシュアは素っ気なく答えた。

「指輪を残していくってことは、ロイスに愛想を尽かしたからだと考えるのが普通だと思うけど」

ミシュアの指摘はごもっともだ。俺だって他人からそういった話を聞かされたら同じように考える。だがエアリーに対する思いは本物だし、浮気なんてしていない。

「指輪になにかあるのか……」

俺はエアリーの顔を思い浮かべながら自分の手の指輪を触った。すると、

「うわっ!」

咄嗟に俺は目を閉じた。強烈な光が目に飛び込んできたからだ。腕を伸ばして指輪を遠ざけてから再び目を開けると、指輪から一筋の光が出ていた。

「急に光り出したわね」

冷静にミシュアが言う。

「なんなんだこれ。指輪が光るなんて知らなかった」

「そういえば昔おばあ様から聞いたことがある。『王家の指輪は真の花嫁を指し示す』って」

ミシュアが遠くを見つめながら言った。

「なんだよ真の花嫁って。正しいもなにも、俺はエアリーと結婚するんだ。わけの分からない言い伝えなんてどうでもいい」
 
初めて聞いた話だ。俺がおとぎ話に疎いからだろうか。暇さえあればソイメル兵士長と剣術の特訓に明け暮れていたから。城の女子たちは王家にまつわる真偽不明の伝説の数々に心躍らせていたのかもしれない。

「この光、私のほうを指しているみたい」

意識が過去に飛んでいた俺はミシュアの言葉で我に返った。

「なんでミシュアなんだよ」

そう言って俺は指輪のはまっている手を高く挙げた。光はミシュアのほうに向いているように見える。

「ほらやっぱり」

ミシュアが嬉しそうに言った。俺は納得がいかず、そのままの姿勢でミシュアの周りを回った。すると、光はミシュアに追従せず一方向を指し示し続けていることが分かった。

「どうして……」

ミシュアが小さく呟いた。

「分かったぞ。この光の先にエアリーがいるんだ。間違いない!」

そうと決まれば話は早い。すぐにエアリーを探さなければ。

「あ、ちょっと!」

ミシュアの呼びかけには答えずに俺は自分の部屋に戻った。素早く荷造りをして兵士長に向かう。


「急に出ていったと思ったら今度はなんですか、大きな荷物をぶら下げて」

ソイメル兵士長は眉をひそめて言った。

「エアリーの大まかな行き先が掴めた。これから向かう」

「我々も先程情報を入手しました。食料の盗難の件、伝令役のレイの犯行だと分かりました」

「なるほど。そうすると厄介だな。もし馬で移動しているなら、既に遠くまで行っているかもしれない」

すぐさま追いかけようと背を向けた俺の肩をソイメル兵士長はがっちりと掴んだ。

「待ってください、我々が対応しますから。王子がわざわざ出向かなくても……」

「気にするな。王子が尖塔に入り浸っていても問題ない国だ。ソイメル兵士長たちのおかげでな。あとはよろしく頼む。父上にも上手いこと伝えておいてくれ」

「あまり国王を煩わせないでくださいな。お忙しいのですから」

ソイメル兵士長は段々とトーンダウンしてきた。もう俺を止められないと考えているのだろう。長い付き合いだからお互いのことはよく分かっている。

「すまないな。いつも迷惑かけて」

「そう思うなら、部屋でじっとしていてほしいのですがね……馬が必要なら補給部隊の馬を使ってください」

ソイメル兵士長は腕を降ろした。俺の肩が軽くなる。

「助かる。数日でエアリーを連れて戻って来るよ」

「お気を付けて」


ソイメル兵士長に労われた数時間後。日の暮れかけた空の下で俺は馬を走らせ続けている。指輪の指し示す光を頼りに。

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