39 / 93
第5章
第1話(6)
しおりを挟む
「分別のある大人として、君を守るべき立場の人間として、私は雇い主の責任を果たすべきなのに、こんなふうに君が弱っているところにつけこむような真似をしてしまった。それどころかいまも、私を求めてくれる君に応えたいとさえ思っている」
思わず莉音は顔を上げた。そんな莉音に、ヴィンセントは心底困ったような笑みを浮かべた。
「君を愛おしいと思う気持ちが止められない。私は、雇い主失格だな」
莉音はくしゃりと顔を歪めた。
「そんなこと、ないです。僕、アルフさんが好きです。すごく、好き……。全然釣り合わないし、男だし、迷惑ばかりかけてしまってそばにいるべきじゃないってわかってるけど、でも、やっぱりそばにいたい。アルフさんに、そばにいてほしい……」
「そうだな。私も手放したくないと思っているよ。だからいっそのこと、自分のものにしてしまうことで繋ぎ止められたらという狡い計算も働いた」
「ずるく、ないです。僕も、アルフさんのものになりたい。アルフさんのものにしてほしい。アルフさんが、もし嫌じゃないなら。今日だけでいいから」
頬に手を添えると、ヴィンセントは莉音の額に口づけた。
「嫌なわけがない。欲望に負けて、最初に手を出してしまったのは私のほうだ。君はいま、自分が私に釣り合わないというようなことを言っていたが、私はむしろ逆だと思っている。莉音、君は若くて、とても魅力的だ。だから早瀬がときどき『おじさん』呼ばわりしているような私では、相手として申し訳ない気がしている」
「そんなことないです」
莉音は即座に否定した。
「アルフさんは、全然おじさんなんかじゃないです。さっきも、すごく嬉しくて幸せでした」
「本当に? じゃあ、つづきをしてもいい? 最後まで抱いても?」
抱きしめられて、莉音は肩口に顔を伏せたままうんうんと何度も頷いた。
「はじめての相手は、私ということになってしまうね。本当は、女性のほうがいいのだろうけれど」
「アルフさんがいいです。アルフさんじゃなきゃ、やです……」
「莉音、あまり煽らないでくれ」
加減ができなくなると苦笑しながら、ヴィンセントは抱き寄せた莉音の首筋を思わせぶりにそっと撫でた。
「あ…っ」
「莉音、スキンは持っているか?」
艶のある声で囁かれて、莉音はゾクリと背筋をふるわせた。
「スキ、ン……?」
「あ~、つまりその、コンドームのことなんだが」
言われて、莉音はカァッと耳まで熱くなった。
「な、ないです。持って、ませ、ん……」
「そうだな。当然だ」
そんな莉音を見て、ヴィンセントはやわらかく笑んだ。
「最後までするのなら、ここは狭い。おいで」
ヴィンセントは莉音を抱き上げると、客間を出て部屋を移動した。
思わず莉音は顔を上げた。そんな莉音に、ヴィンセントは心底困ったような笑みを浮かべた。
「君を愛おしいと思う気持ちが止められない。私は、雇い主失格だな」
莉音はくしゃりと顔を歪めた。
「そんなこと、ないです。僕、アルフさんが好きです。すごく、好き……。全然釣り合わないし、男だし、迷惑ばかりかけてしまってそばにいるべきじゃないってわかってるけど、でも、やっぱりそばにいたい。アルフさんに、そばにいてほしい……」
「そうだな。私も手放したくないと思っているよ。だからいっそのこと、自分のものにしてしまうことで繋ぎ止められたらという狡い計算も働いた」
「ずるく、ないです。僕も、アルフさんのものになりたい。アルフさんのものにしてほしい。アルフさんが、もし嫌じゃないなら。今日だけでいいから」
頬に手を添えると、ヴィンセントは莉音の額に口づけた。
「嫌なわけがない。欲望に負けて、最初に手を出してしまったのは私のほうだ。君はいま、自分が私に釣り合わないというようなことを言っていたが、私はむしろ逆だと思っている。莉音、君は若くて、とても魅力的だ。だから早瀬がときどき『おじさん』呼ばわりしているような私では、相手として申し訳ない気がしている」
「そんなことないです」
莉音は即座に否定した。
「アルフさんは、全然おじさんなんかじゃないです。さっきも、すごく嬉しくて幸せでした」
「本当に? じゃあ、つづきをしてもいい? 最後まで抱いても?」
抱きしめられて、莉音は肩口に顔を伏せたままうんうんと何度も頷いた。
「はじめての相手は、私ということになってしまうね。本当は、女性のほうがいいのだろうけれど」
「アルフさんがいいです。アルフさんじゃなきゃ、やです……」
「莉音、あまり煽らないでくれ」
加減ができなくなると苦笑しながら、ヴィンセントは抱き寄せた莉音の首筋を思わせぶりにそっと撫でた。
「あ…っ」
「莉音、スキンは持っているか?」
艶のある声で囁かれて、莉音はゾクリと背筋をふるわせた。
「スキ、ン……?」
「あ~、つまりその、コンドームのことなんだが」
言われて、莉音はカァッと耳まで熱くなった。
「な、ないです。持って、ませ、ん……」
「そうだな。当然だ」
そんな莉音を見て、ヴィンセントはやわらかく笑んだ。
「最後までするのなら、ここは狭い。おいで」
ヴィンセントは莉音を抱き上げると、客間を出て部屋を移動した。
33
あなたにおすすめの小説
愛を知らない少年たちの番物語。
あゆみん
BL
親から愛されることなく育った不憫な三兄弟が異世界で番に待ち焦がれた獣たちから愛を注がれ、一途な愛に戸惑いながらも幸せになる物語。
*触れ合いシーンは★マークをつけます。
白金の花嫁は将軍の希望の花
葉咲透織
BL
義妹の身代わりでボルカノ王国に嫁ぐことになったレイナール。女好きのボルカノ王は、男である彼を受け入れず、そのまま若き将軍・ジョシュアに下げ渡す。彼の屋敷で過ごすうちに、ジョシュアに惹かれていくレイナールには、ある秘密があった。
※個人ブログにも投稿済みです。
【完結】最初で最後の恋をしましょう
関鷹親
BL
家族に搾取され続けたフェリチアーノはある日、搾取される事に疲れはて、ついに家族を捨てる決意をする。
そんな中訪れた夜会で、第四王子であるテオドールに出会い意気投合。
恋愛を知らない二人は、利害の一致から期間限定で恋人同士のふりをすることに。
交流をしていく中で、二人は本当の恋に落ちていく。
《ワンコ系王子×幸薄美人》
黒に染まる
曙なつき
BL
“ライシャ事変”に巻き込まれ、命を落としたとされる美貌の前神官長のルーディス。
その親友の騎士団長ヴェルディは、彼の死後、長い間その死に囚われていた。
事変から一年後、神殿前に、一人の赤子が捨てられていた。
不吉な黒髪に黒い瞳の少年は、ルースと名付けられ、見習い神官として育てられることになった。
※疫病が流行るシーンがあります。時節柄、トラウマがある方はご注意ください。
愛しの妻は黒の魔王!?
ごいち
BL
「グレウスよ、我が弟を妻として娶るがいい」
――ある日、平民出身の近衛騎士グレウスは皇帝に呼び出されて、皇弟オルガを妻とするよう命じられる。
皇弟オルガはゾッとするような美貌の持ち主で、貴族の間では『黒の魔王』と怖れられている人物だ。
身分違いの政略結婚に絶望したグレウスだが、いざ結婚してみるとオルガは見事なデレ寄りのツンデレで、しかもその正体は…。
魔法の国アスファロスで、熊のようなマッチョ騎士とツンデレな『魔王』がイチャイチャしたり無双したりするお話です。
表紙は豚子さん(https://twitter.com/M_buibui)に描いていただきました。ありがとうございます!
11/28番外編2本と、終話『なべて世は事もなし』に挿絵をいただいております! ありがとうございます!
あまく、とろけて、開くオメガ
藍沢真啓/庚あき
BL
オメガの市居憂璃は同じオメガの実母に売られた。
北関東圏を支配するアルファの男、玉之浦椿に。
ガリガリに痩せた子は売れないと、男の眼で商品として価値があがるように教育される。
出会ってから三年。その流れゆく時間の中で、男の態度が商品と管理する関係とは違うと感じるようになる憂璃。
優しく、大切に扱ってくれるのは、自分が商品だから。
勘違いしてはいけないと律する憂璃の前に、自分を売った母が現れ──
はぴまり~薄幸オメガは溺愛アルファ~等のオメガバースシリーズと同じ世界線。
秘密のあるスパダリ若頭アルファ×不憫アルビノオメガの両片想いラブ。
巣ごもりオメガは後宮にひそむ【続編完結】
晦リリ@9/10『死に戻りの神子~』発売
BL
後宮で幼馴染でもあるラナ姫の護衛をしているミシュアルは、つがいがいないのに、すでに契約がすんでいる体であるという判定を受けたオメガ。
発情期はあるものの、つがいが誰なのか、いつつがいの契約がなされたのかは本人もわからない。
そんななか、気になる匂いの落とし物を後宮で拾うようになる。
第9回BL小説大賞にて奨励賞受賞→書籍化しました。ありがとうございます。
忘れられない君の香
秋月真鳥
BL
バルテル侯爵家の後継者アレクシスは、オメガなのに成人男性の平均身長より頭一つ大きくて筋骨隆々としてごつくて厳つくてでかい。
両親は政略結婚で、アレクシスは愛というものを信じていない。
母が亡くなり、父が借金を作って出奔した後、アレクシスは借金を返すために大金持ちのハインケス子爵家の三男、ヴォルフラムと契約結婚をする。
アレクシスには十一年前に一度だけ出会った初恋の少女がいたのだが、ヴォルフラムは初恋の少女と同じ香りを漂わせていて、契約、政略結婚なのにアレクシスに誠実に優しくしてくる。
最初は頑なだったアレクシスもヴォルフラムの優しさに心溶かされて……。
政略結婚から始まるオメガバース。
受けがでかくてごついです!
※ムーンライトノベルズ様、エブリスタ様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる