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第8章
第1話(1)
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あとどれくらいで帰してもらえるのだろう。
莉音はぼんやりと思って、窓の外にひろがる景色を見やった。
左頬が熱を持って、ジンジンと脈打っていた。
豪奢なベッドルームにただ独り、外に出ることも許されず、時間ばかりが過ぎていく。
これまでの経緯を思い返して、その口から重い吐息が漏れた。
自宅近くで車に乗せられ、莉音が連れてこられたのは、六本木にある高級ホテルのスイートルームだった。
部屋で待っていたのは、やはりヴィンセントの婚約者で、莉音の顔を見るなり、怒りを露わになにごとかを英語でまくし立てた。それを訳して莉音に説明したのは、車で迎えにやってきたスーツの男だった。
自分の行動はずっと監視されていたようで、莉音が今日、ヴィンセントのマンションを訪れたことも筒抜けになっていた。
あれほど身を引けと忠告したのに、まだヴィンセントの周りをうろついて誑かす気なのか。そう罵られ、その流れで突然、思いもしなかったことを告げられた。
ダイヤのことさえなければ、ヴィンセントが莉音に手をつけることなどなかったのだ、と。
「ダイヤ?」
『彼がおまえに近づいたのは、ダイヤの在処を探るため。そうでなければ、あのアルフがおまえのような者を相手にするわけがないのだから。これ以上彼の恋人を気取ってつけあがるなら容赦はしない。卑しい妾腹風情に好き勝手させるつもりはないから、さっさと観念してダイヤを渡しなさい。お金なら、望むだけ払ってあげる』
シャーロットの言葉を、莉音はただ呆気にとられて聞いていた。
なにを言われているのか、さっぱり理解できなかった。
ひょっとして通訳の男が間違えて訳しているのではないかと思ったが、いつまで経っても訂正が入る様子はない。
「あの、ごめんなさい。ダイヤってなんのことですか? 宝石のダイヤモンドのことですよね? 僕、持ってません。よくわからないんですけど、もしかしてなにか誤解されてませんか?」
通訳を介して莉音の言葉を聞くなり、シャーロットは意地の悪い笑みを浮かべた。
『そう。そうやってアルフのことも煙に巻いて、のらりくらりと躱しつづけたわけね。さすがお祖父さまを誑かした女の孫だけあるわ。可愛い顔して、やることがえげつないこと』
悪意に満ちた嘲弄を浴びせられて、莉音の顔はみるみる硬張っていった。
シャーロットは、自分のことのみならず、亡き祖母まで引き合いに出して貶めた。なにより発した言葉の中に、聞き捨てならない箇所があった。
お祖父さまを誑かした女――
ヴィンセントの婚約者である彼女は、世界有数の大企業、PSグループの令嬢だと聞いた。創始者はピーター・スペンサーで、現在は三代目、ダニエル・スペンサーが社長兼CEOを勤めていると記憶している。そういった方面にまったく縁のない莉音のような一般人でさえ、その程度の情報なら知っている。つまりは、それほどまで有名な企業ということだ。
彼女の言う『お祖父さま』というのは、おそらく、話の内容からしてそのスペンサー一族の中心的立場にあることは間違いないだろう。だが莉音は、そんな人物にまるで心当たりがなかった。亡くなった祖母からはもちろん、母からもいっさい聞いたことがない。ダイヤ云々に至っては、さらにわけがわからず困惑するばかりだった。
莉音はぼんやりと思って、窓の外にひろがる景色を見やった。
左頬が熱を持って、ジンジンと脈打っていた。
豪奢なベッドルームにただ独り、外に出ることも許されず、時間ばかりが過ぎていく。
これまでの経緯を思い返して、その口から重い吐息が漏れた。
自宅近くで車に乗せられ、莉音が連れてこられたのは、六本木にある高級ホテルのスイートルームだった。
部屋で待っていたのは、やはりヴィンセントの婚約者で、莉音の顔を見るなり、怒りを露わになにごとかを英語でまくし立てた。それを訳して莉音に説明したのは、車で迎えにやってきたスーツの男だった。
自分の行動はずっと監視されていたようで、莉音が今日、ヴィンセントのマンションを訪れたことも筒抜けになっていた。
あれほど身を引けと忠告したのに、まだヴィンセントの周りをうろついて誑かす気なのか。そう罵られ、その流れで突然、思いもしなかったことを告げられた。
ダイヤのことさえなければ、ヴィンセントが莉音に手をつけることなどなかったのだ、と。
「ダイヤ?」
『彼がおまえに近づいたのは、ダイヤの在処を探るため。そうでなければ、あのアルフがおまえのような者を相手にするわけがないのだから。これ以上彼の恋人を気取ってつけあがるなら容赦はしない。卑しい妾腹風情に好き勝手させるつもりはないから、さっさと観念してダイヤを渡しなさい。お金なら、望むだけ払ってあげる』
シャーロットの言葉を、莉音はただ呆気にとられて聞いていた。
なにを言われているのか、さっぱり理解できなかった。
ひょっとして通訳の男が間違えて訳しているのではないかと思ったが、いつまで経っても訂正が入る様子はない。
「あの、ごめんなさい。ダイヤってなんのことですか? 宝石のダイヤモンドのことですよね? 僕、持ってません。よくわからないんですけど、もしかしてなにか誤解されてませんか?」
通訳を介して莉音の言葉を聞くなり、シャーロットは意地の悪い笑みを浮かべた。
『そう。そうやってアルフのことも煙に巻いて、のらりくらりと躱しつづけたわけね。さすがお祖父さまを誑かした女の孫だけあるわ。可愛い顔して、やることがえげつないこと』
悪意に満ちた嘲弄を浴びせられて、莉音の顔はみるみる硬張っていった。
シャーロットは、自分のことのみならず、亡き祖母まで引き合いに出して貶めた。なにより発した言葉の中に、聞き捨てならない箇所があった。
お祖父さまを誑かした女――
ヴィンセントの婚約者である彼女は、世界有数の大企業、PSグループの令嬢だと聞いた。創始者はピーター・スペンサーで、現在は三代目、ダニエル・スペンサーが社長兼CEOを勤めていると記憶している。そういった方面にまったく縁のない莉音のような一般人でさえ、その程度の情報なら知っている。つまりは、それほどまで有名な企業ということだ。
彼女の言う『お祖父さま』というのは、おそらく、話の内容からしてそのスペンサー一族の中心的立場にあることは間違いないだろう。だが莉音は、そんな人物にまるで心当たりがなかった。亡くなった祖母からはもちろん、母からもいっさい聞いたことがない。ダイヤ云々に至っては、さらにわけがわからず困惑するばかりだった。
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