ひろいひろわれ こいこわれ【完結済み】

九條 連

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第8章

第1話(3)

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 多恵はやがて、レナードとのあいだに生まれた娘を連れて日本へ帰国し、それっきり、ふたりが会うことは二度となかった。

『だけどお祖父さまはずっと、日本に帰国したその女と子供のことを気にかけていた』

 レナード・スペンサーは、昨年の十二月に持病の心疾患が原因で亡くなっている。だがその後、公開された遺言書の内容に一族は騒然となった。自分の所有する持ち株すべてを、多恵とのあいだに生まれた子供に譲り渡すとあったからだ。

 PSグループ会長の座にあったレナードの保有する株式は、全体のおよそ五分の一にあたり、莫大な額にのぼる。これは、PSグループで発行している全株式の三分の一を占める現社長兼CEO、ダニエル・スペンサーの所有株には及ばないものの、社内でなんらかの問題が発生したとき、ダニエルに次ぐ発言権を有することを意味した。
 ほかに、創業一族に連なる者たちの株式を持ち寄れば四分の一程度にはなるが、ひとりひとりの権限はレナードに遠く及ばない。これは由々しき事態になったと一族全体で頭を抱えることになった。

「でも僕、レナード・スペンサーなんて人、知りません。たしかに祖母の名前は多恵だけど、祖母からも、母からも祖父のことは聞いたことがないし、僕に関係のある話だなんて思えないです」

 莉音の言葉に、ヴィンセントの婚約者であり、ダニエルの娘でもあるシャーロット・スペンサーは意地悪く口のを上げた。たとえ莉音にその気がなくても、法的効力が有効である以上、なんらかの対応と手続きは踏まなければならないのだと。

 レナードは多恵がスペンサー家を去る際、ひそかに生まれてくる子供のためにとダイヤの指輪を贈っていたらしい。認知することができなかった我が子に、せめてもの父親らしいことを。
 指輪も遺言状も、レナードのそんな思いが込められていたのだろう。レナード・スペンサーの所有株を相続できる資格のひとつに、その指輪を所有している者であることという条件が添えられていた。
 多恵の子供が見つからなかった場合、あるいはなんらかの事情でその子供への譲渡がかなわなかった場合、その条件を満たす者に相続権が移行するとのことだった。

 自宅を空き巣に荒らされた理由、自宅アパートで莉音が攫われそうになった理由が、ようやくわかった気がした。
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