ノースキャンプの見張り台

こいちろう

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22.もちつき

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 十二月二十八日が来た。リューイチの家が一番忙しい日だ。
 リューイチの家では、毎年この日にモチつきをする。年々近所の家からたのまれる数が増えてきて、たくさんのおモチをつかなくちゃならない。この日は、隣のタッちゃんの家からもみんなが手伝いに来る。近所のおばさんたちも手伝いに来て、リューイチの家の庭先はとてもにぎやかだ。
 ふだんはほとんど閉まったままの納屋の中で、一年間眠っていたモチつき機。それを、みんなで中庭のど真ん中に引きずり出してくる。『ダイガラ』っていう古い道具だけど、年に一度の晴れ舞台だ。
 ダイガラは、長いキネの先を足でふんでモチをつく機械で、片足でふみこむのにけっこう力がいるのだ。リューイチのお父さんとタッちゃんのお父さんが交代でふむ。思いっきりふんでキネを高く上まであげる。キネが真上に上がったところで足をはずす。するとまっすぐウスの中に落ちて、ドスン。ウスの中の蒸したご飯の上でペッタン。それを繰り返し、ドスンペッタンとやってモチをつく。
 じーちゃんが、ウスの中のモチをしゃもじでひっくり返す役だ。ときどき近所のおじさんたちが交代してくれる。
 中庭には、ハガマが二つ置かれて、モチ米が次から次へ蒸し上がる。そのそばに大きな台があって、モチとり粉を敷いた上につきあがったモチが運ばれてくると、母さんやばーちゃんが、近所のおばさんたちと一緒に、小さくちぎっては丸めていく。
 おじさんたちはお酒を飲みながら、うれしそうにダイガラを囲んでいる。おばさんたちはよくしゃべる。手より口の方がよく動いている。
 今年はユーイチの家からもたのまれた。リューイチは絵画教室の時、
「もちつきを見に来いよ」
と、ユーイチを誘った。
 ユーイチは、朝から真法寺橋を渡ってやってきた。初めて見るモチつきにびっくりしたみたいだ。
「馬が思いっきり前足を上げた姿に似とるね。これでヒヒーンと鳴いたらまるで西部劇みたいじゃ!」
足で踏むモチつきに目を丸めてそう言った。
「なるほど!西部劇か」
いつも面白いことを言い出すユーイチだ。言われて見ると、モチに向かって振り下ろすキネが台座から長くのびていて、まるで馬が高くいなないているみたいだ。
「こりゃあ、ダイガラというてのう、昔はお米のだっこくにも使うておった。農家には大事な道具じゃったんよ。ユーイチくんの言うように、『うま』というておる地方もたしかにあるみたいじゃ。どうじゃ、ちょっとうまに乗ってやってみるか?」
リューイチたちの話を聞いていたじーちゃんが言った
「えっ!いいの?」
ユーイチは喜んでさっそくふみ台に上がった。右足で思いっきりふみ込んで、うまの首をぐっと持ち上げる。
「わあっ、馬の頭が上がった!簡単に持ち上がったよ!」
「そうそう、その調子で首を上げたら今度は足をはなす。そしたら馬の頭がウスの真ん中にドスンと落ちるんじゃ!」
ウマの首はまっすぐウスの中のモチにドスンで、ペッタン。
「つけたぞ!つけたぞ!モチがつけた」
「うまいうまい。今度はまた思い切り足でふみこんで、頭が上がったら、もう一回ドスンとやってごらん」
周りのおじさんたちがおだてるものだから、ユーイチはますます調子にのった。
 でも、
「あっ、あれ?今度は踏んでも上がらんよ。もちがキネにくっついてしもうて、うまく上がらん!」
ウスの中のモチをしゃもじでこねていたじーちゃんが、キネからくっついたモチをはずして助けてくれた。
「ようし、これでもう一回上にあげて、ぺったん・・・。あれ思い切り踏んだけど、今度もまた上がらん。一つも動かんぞ。モチにモチャッとつかまってしもうた」
お調子者のユーイチでも、ぺったんこぺったんこと調子よくはモチがつけないんだ。
「ああ、もう力が出ないよ。モチつきって、ずい分力がいるんじゃね。モチにつかまってしもうて、足がモチの中に吸い込まれるような感じじゃった」
ユーイチは二回目でもうダウンだ。
「よしっ!」
交代だ。こんどはリューイチがやってみる。
 うまくついてユーイチにいいところを見せてやろう。去年も少しやっていたから、コツは分かっている。そう思ったのに、
「あれっ、でもうまく上がらないぞ。本当に、モチのねばり腰って強いや。去年は出来てたんだぞ」
これじゃユーイチの前で自慢できない。
 今度はタッちゃんがやってみた。さすが名投手タッちゃん。まっすぐうまを上にあげて真っすぐぺったん。あれっ、やっぱりここからが上がらない。
「うまがうまく上がらんのぉ。ふんでもふんでも動きゃあせん。うまがうまいこと動かん」
力持ちのタッちゃんでもだめか。三人ともウマが合わないんだ。

 つきたてのモチにきな粉をつけて食べていると、テンテケ、テンテケ、タイコの音がする。
「あれは何の音なんじゃろ?」
ユーイチは知らないらしい。リューイチたちには聞きなれた『紙芝居屋』のおっちゃんが鳴らすタイコの音だ。
「あれは紙芝居屋の合図じゃ。ユーイチくんは紙芝居屋を知らんの?」
「紙芝居の店屋が来るんかあ。うわあ見てみたいよ。百番地にはそんなの来ない」
リューイチとタッちゃんは、ユーイチを連れて真法寺の境内まで行った。ベロンも一緒に散歩だ。
「真法寺ってこの寺なんか。リューイチくん、ここの寺の鐘の音は、やっぱり『帰りたい、帰りたい』って鳴るんかねえ?」
 大川の上流から流れてきたという大グモ伝説の鐘だ。
「いいや。百番地の子はよく大グモの話をするけどね。でも、ぼくらには『ここがええ!ここがええ!』と、楽しそうに響いて聞こえるんじゃ」
 真法寺の門前に広い空き地があって、もうたくさんの子どもが集まっていた。
テンテケテンテケ、トトントン。紙芝居屋のタイコが鳴りやんだ。
「さあさあ、おっちゃんに会えるのは、今年は今日でおしまいだ!しまいにしっかりアメを買っとくれ」
紙芝居のおっちゃんは、自転車の荷台に大きな駄菓子の箱をのせている。
「おっちゃん、今日は水あめとスルメをちょうだい」
城田さんが一番最初に買った。
 それに続いて次から次へと駄菓子が売れていく。水あめやソースせんべいが一番よく売れるみたいだ。カルメラやニッキやスコンブなんかも売れていって、いろんなにおいが一緒になって鼻をくすぐってくる。子どもが欲しくてたまらなくなる匂いだ。ベロンはこの甘い匂いにとても弱い。すぐに城田さんにくっついておねだりをする。忍者犬ベロンはどうも女の子の方が好きみたいだ。
「さあ、じゃあ紙芝居を始めるよ。買ってくれた子たちは前に集まって見てちょうだい。買ってくれなかった子は後ろに行って」
「なんじゃ、買ってくれた子ばっかりひいきするんか!」
初めて見るユーイチは不満そうにそう言った。
「ちょっと声が大きいよ!そういうことに決まっとるんよ。おっちゃんもアメを売るのが商売なんじゃから」
リューイチは小声でそう言って、後ろから紙芝居を見た。
 おっちゃんが拍子木をたたく。
「さあさあ、今年一番人気の『快傑黒潮丸』だよ。お姫様を連れて、城を抜け出した黒潮丸。さてその行く手はいかに!始まり始まりィー。カチカチカチカチ」
いつの間にか、ユーイチは一番前の真ん中に立っていた。

 帰り際、土手を歩きながらユーイチが言った。
「どんな悪事も黒頭巾が解決ダア、江戸の平和は守ってみせる、だって。でも、なんで日本が平和じゃないとモチがつけんのじゃろうか?」
さっきじーちゃんがもちを食べながら言っていた。それを思い出したんだろう。
「今年も平和な一年じゃった。平和はありがたいのう。平和じゃからこうやってモチがつけるんじゃ」
じいちゃんは、たしか去年も同じことを言っていた。
 川の向こうに監視塔が見えている。夕陽があたってまぶしい。
「あっ、リューイチくん。ほらまた見張り台から赤い光が出とるぞ!」
「あれはね、夕陽が反射して光ってるんよ」
「いや、その光とは違うんじゃ。特別な光じゃ。ほら、一本の赤いすじがスーッと見張り台の中から、今こっちに向かって光った。間違いない。やっぱりあそこからだれかがぼくらを見張ってるんじゃ!」
 相変わらず、ユーイチは不思議な少年だ。
川北小学校には、まずいないタイプだ。でも、変わってるけど面白いやつだ。

 不思議な少年は真法寺橋を渡って、不思議な世界に帰って行った。
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