爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介

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第37話 春の種まきと魔牛と従属魔法

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 肥料作りが一段落付き、畑に精を出している村人の応援に駆けつけることにした。土は、柔らかく耕され、すぐにでも、種まきを始められそうだ。村人総出で行っているおかげで、100メートル × 100メートルの畑一枚を耕すのに、1日とかからない。人力も集まれば、すごい力である。

 現在、畑は、春植え用に20枚ほど用意しているので、一ヶ月もあれば、種まきまで進めることが出来るだろう。去年までは、畑が点在していたものを、区画整理をして、一箇所にまとめたおかげで、効率化が進み、無駄がかなり少なってきている。それに、苦労を分かち合っている分、村人の連携がよく取れているし、不満を漏らすものもいないのだ。本当に、この村はいい村になろうとしている。

 20町歩の畑は、本当に圧巻だな。日本の山間で農業を営んでいた時は、そもそも一町歩の畑すらなかったからな。それが、20町歩……本当にすごいな。まさに、一面、畑!! って感じだもん。まだまだ、土地はある。今後、人口が増えてきたら、徐々に増やしていこう。今の人数では、春の植え付けとしては、この20町歩が、限界になるだろう。

 植える野菜は、大根や甜菜、人参などの根菜、ほうれん草などの葉菜、ジャガイモを予定している。今後も種が入り次第、植える種類を増やしている予定だ。玉ねぎやネギ、さつまいも、ソバ、大豆が欲しいところだな。特に大豆は、欲しい。土壌改良にも使えるし、魅力的な加工品も作れる万能野菜だ。

 僕は、皆と汗水を垂らし、畑にクワを入れていた。若い体は素晴らしい。いくら、クワを振るっても、疲れを知らない。これは、楽しくなってきたぞ。やはり、魔法で畑を耕すのもいいが……実際にクワを振るわなければ、農業をした気がしない。僕が、夢中になっていたせいで、ゴードンが近付いてきたのに気付かなかった。

 「ロッシュ村長。おはようございます。ロッシュ村長のクワさばきには感心しますな。まるで、熟練の農夫ですぞ。一体、どこで、それほどの技術を学びになりました。腰使い、腕の振り上げ、タイミング……感服いたしました」

 急に話しかけてこられて、びっくりした。ゴードンが大絶賛してくれているようだ。その周りで、聞いていた村人たちも同意するかのように、こくこく頷いている。そりゃあ、60年もクワを握っていたんだ、当たり前だろ!! それに、村人たちに遅れを取るわけにはいかない!! なんて、思っていたが、思い出せば、僕はロッシュだった。源吉ではないのだ。やってしまった……

 「そ、そうか? みんなの見様見真似でやっていたら、出来ていたんだ。この方法だと、楽だし、早く出来るからな。そんなに、良かったか? ……いやぁ、嬉しいもんだな」
 
 ものすごくわざとらしかったか? でも、これで誤魔化……

 「いやぁ、さすがはロッシュ村長ですな。農業の申し子とでもいいますか……短時間でこれを身につけられる者などいるものではありませんよ」

 誤魔化せたな。僕を信じている瞳がすごく胸に突き刺さる。しかし……ゴードン、ちょろいな。村人たちと昼飯を食べ、午後の作業を続けた。久しぶりに一日、農業をすることができたので、僕は、満足しながら、一日を終えた。

 次の日になり、魔牛牧場の方でも、畑を耕していると聞いて、手伝いに赴いた。ついに、魔牛の効果を見ることが出来るのか……楽しみだな。

 サヤ達が、魔牛たちを使って、畑を耕していた。すごいな。魔牛の登場は、農業革命と言ってもいいくらいだった。100メートル × 100メートル の一枚の畑を、村人総出で一日で終わるところを、魔牛三頭で10時間程度で終わってしまうペースだ。魔牛牧場には、100頭からの魔牛がいる。これだけで、村人総出の労力を確保したことになるのだ。

 耕しと畝を作るのを、魔牛でやり、手作業の種まきを村人で行うという分業制をぜひ確立したいものだ。そのためにも、魔牛の信頼性をなんとか、確保することは出来ないものか。こればかりは時間のかかることだが、今のままだと、十年かかっても、できる見通しがつかない。この問題は根深いだけに、解決策を模索するのも簡単なことではないな。それにしても、目の前に魔牛がいるのに……

 一段落着いた時に、サヤ達に、相談をしてみた。すると、サヤ達が言うには、魔界には、使役魔法というのがあって、使役者の言うことは、絶対遵守になる魔法みたいだ。魔界の牧場主はこの魔法が使えないと、牧場を維持できないらしい。魔界の魔獣は、とにかく気性が荒く、食味は良いが、飼育には全く向かない。そのための使役魔法となるらしい。

 ほお。魔界には便利な魔法があるものだな。ちなみに、サヤ達の中に使えるものがいないか聞くと、誰もいなかった。サヤがふと、ロッシュ様なら使えるんじゃありませんか? と聞いてきたので、理由を聞くと、僕の様に多様な魔法を使える者は、あとで、魔法を取得することがあるみたいだ。

 たしかに、品種改良の魔法は後から、スキルの一覧に追加されていたことがあったな。しかし、そんな都合のいいことなど……一応、確認すると……あったよ。従属魔法って名前だったけど、似たようなものだよな。
 サヤに、確認すると、従属魔法は、使役魔法より使い方に広がりがあるみたいだ。使役魔法は、使役者のみの命令しか聞かないが、従属魔法は、命令者を指定することが出来るようだ。

 つまり、魔牛を各農家に貸し与えて、命令者をその農家にしておけば、魔牛は農家の命令を聞くということか。それはすごいな。ただ、命令を聞くと言うが、一度、試してみよう。ただ、魔の森の魔牛は、穏やかで、従順だ。実際、魔法を使う必要もないんだよな。

 とりあえず、サヤに、魔牛牧場で、一番性格の荒い魔牛を連れてきてもらった。おお、サヤから逃げ出そうと暴れているな。これなら、使えそうだ。僕は、魔牛に意識を集中して、従属魔法を掛けた。すると、品種改良のような画面が頭に浮かぶ。


名前

種類 魔牛

命令者

使役者 ロッシュ村長


 今までも、何とかなったから、思いつくままに、意識を集中していった。名前ってこの魔牛の名前か? とりあえず、いろはの『い』にしておくか。それと、命令者は、サヤにしておこう。すると……

名前 い

種類 魔牛

命令者 サヤ (魔牛牧場長)

使役者 ロッシュ村長

 見事に変更された。サヤに魔法の行使が終わったことを告げ、サヤが、暴れる魔牛に落ち着くように命令すると、すぐに落ち着き始めた。これは、すごい効果だな。これなら、村で魔牛を使えることができるのではないか。サヤは、当たり前のような顔をしていたから、魔界では然程珍しい魔法ではないのだろう。

 今は、春の植え付けでみな忙しい。ここでの魔牛投入は、徒に混乱を招くだけだろうから、植え付けが一段落着いてからにしよう。サヤ以外にも、魔牛牧場の従業員? の眷属達にも、命令者になってもらって、一気に耕作面積を拡大してもらおう。

 魔牛牧場の周りの畑にも、村と同じものを植えることにして、サヤに頼み、魔牛牧場を後にした。
 
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