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第38話 田植え
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村や魔牛牧場の周辺の畑では、少しずつ、芽が出始めた頃、僕は、念願の米の栽培を始めることにした。水田に直接、種籾を撒く方法も考えたが、あとの管理を考えると、最初は大変でも、移植で栽培するようがいいと思った。現代のように、苗箱がないので、水田に一旦、蒔いた後に、それを苗として収穫した後、植え直すという作業をする。
こうすれば、面積あたりの収量は増えるし、隙間が出来づらい分、雑草も生えにくい。結果的に、土壌の栄養も効率的に使え、雑草抜きのための労力も削減できる。あの、真夏の草取りは、命に関わるほど大変なんだよなぁ。
水田に水路から水を土が湿る程度に引き、その後に、種籾をばら撒きにする。すると、50日もすれば、移植が出来るほどの苗が作れるはずだ。僕は、村人に指示を出しながら、種まきをした。種籾には、品種改良の魔法を使ってみたが、ポイントは『0』だったため、何もすることが出来なかった。
自生しているものには、ポイントは付与されないみたいだ。収量くらいは、増やしておきたかったが、こればかりは仕方ないな。僕は、一段落着いて、村人と休憩をしていた。エリスが、皆の分の水を持ってきて、配っている。村人は、エリスに対して非常に好印象なのが分かるな。
リバーシの一件でエリスは、子供からかなり慕われているようだ。
「ロッシュ様、稲というものは、どういうものなのですか? 」
「エリスは、稲というものを知らなかったな。稲は麦と同じ仲間で見た目も似ているんだ。稲の変わったところは、水を張った畑で栽培するってところかな。稲を栽培する畑を水田とか田んぼとか言うんだ。肥料も大して必要とせず、肥料がなくったって、収量もそこそこ穫れるんだよ。食べ方は、お湯で炊いて、そのまま主食として食べることが多いかな。麦をパンにするより、うんと楽に食べられるところが利点だよね。」
「麦と同じような物なら、麦を増やすというだけではだめなのでしょうか? 米を作るために、たくさんの工事を必要としていましたし、麦なら畑に撒くだけですから……米の良さがあまり伝わってこないんですが」
「そうだね。多分だけど、村のみんなも同じように考えていると思うな。これについては、後で皆に伝えておいたほうがいいみたいだな。これからも、当然、麦を増やしていくけど、米も増やしていくよ。それはね、麦が不作だった時の保険なんだ。麦が不作でも、米がある。米が不作でも、麦がある。こういうふうにしておけば、急に気候が変わっても、みんなが飢えずに済むだろ? そのための、米なんだよ。もちろん、僕が米を食べたいって理由もあるし、それ以外にもあるしね。なんにせよ、色んな種類の作物を作ることが重要なんだ」
エリスが、目をキラキラさせて、僕を尊敬の眼差しで見ていた。僕には、ちょっと眩しかった。
「すごいです!! 私は、そこまで考えが至りませんでした。以前、麦が不作になった時はすごく悲惨な状況になりました。そのときは、今我慢すればそれいいんだとしか思いませんでしたが、それを回避するための米なんですね。すごく、わかりました。他の理由ってなんですか? とても気になります 」
この辺は、技術的な話かな。要は、米の導入による連作障害の軽減、病害虫発生の抑制、農地の肥沃化などが上げられる。米の導入は、肥料の乏しく、効果的な農薬が少ない、この世界では革命的なのだ。さすがに、エリスには理解できず、首を傾げていた。まぁ、このあたりは、水田を何年も導入して、周りと比較して初めて分かるようなことだし、効果を実感することは難しいことだからね。こういうのは、理屈を理解してないと、頭に入らないものだよ。
去年、採っておいた種籾を全て撒き終えた。約100キログラムくらいの種籾を、100メートル × 30メートルの水田に蒔けた。あとは、苗が出来るのを待って、移植するだけだな。
50日後
思ったより、立派な苗ができた。これなら、稲も期待できそうだな。すぐに、村人を集め、苗を土と一緒に採取し、木箱に収めていった。水田では、土に少しかぶるくらいの水を張っておいた。さあ、村人を横一列に並べ、間隔を取りながら、苗を植えていった。今回は二本植えにしてもらった。貴重な苗だから、一本植えにしたかったけど、枯れてもいいように二本植えにした。ちなみに、日本のときは、三~五本っていうのが多いかな。
僕は、試したことがあるが、一本植えと三本植えをやってみて、収量に差があるのかを比較したんだ。そうすると、一株あたりの収量は変わらなかったんだ。その結果はすごくびっくりした。分けつと言って、一本の苗からたくさんの穂が出来るんだけど、三本植えは分けつが抑制されて、結局一本植えと分けつ数は変わらなかったんだ。ただ、水田全体で捉えると、一本のほうが、少なくなってしまった。というものも、一本だから枯れたらおしまいなのだ。三本植えは予備苗という位置づけで、有効だってわかったんだ。それ以降、僕は三本植えにしているんだけど。
苗を植える予定の水田は、100メートル × 100メートルのものが10枚ある。毎日、少しずつ植えることにした。初めてやることだから、村人は、泥に足を取られて、倒れるハプニングが続出した。ゴードンもその一人だ。
「だっはっはっ。ロッシュ村長、田植えというものはいいものですな。童心に返るようで、心身ともに若返る気がしますわい。しかし、ロッシュ村長の足さばきは立派なものですな。まったく、振れず、よくもそこまで真っ直ぐと植えることが出来ますな。私の列なんて、ほれ……クネクネしてます。いやぁ、お恥ずかしい限りで」
周りも、倒れる人がいる度に、笑いが生まれていた。田植えってこういう雰囲気になるんだよな。しかも、皆、農業に携わっているものばかりだ。何日もしないうちに、熟練の腕に達していた。倒れるものはいなくなり、黙々と作業をこなしていく。予定より、何日か早く終わらせることが出来てしまった。これなら、来年は、もっと面積を大きくしても大丈夫そうだな。
稲というのは、植えられる期間が意外と短い。数週間という期間で植えていかなければ、満足の出来る収量は確保できない。しかも、この地域は、冬が早く訪れる。その分、秋が短いのだ。尚更、早植えを徹底していかなければならない。
今回の面積では、この人口でも少し少ない感じがしたのだ。来年は、倍くらいに挑戦してもいいだろう。今後、順調に面積を増やしていくと、どうしても水不足は避けて通れなくなりそうだな。今年の夏にダム建設を本格的に検討してみよう。
苗を植え終わり、水田に水を入れた。川から水路に、水路から水田に水が流れていく。しかし、その勢いは思ったより強く、補強していない水田では、水口(水路と水田の接合部)が壊れてしまい、水が止まらなくなる自体が発生してしまった。そのせいで、水が水田を埋め尽くし、苗が完全に水没してしまった。僕と村人は、水口をすぐに補修し、僕は水魔法で排水をした。なんとか、事なきを得た。と思ったら、次々と他の水田の水口が壊れてしまった。
ちょっと、計算が甘かった。ここまで、水量が多いとは思っていなかった。水路には、水量を調整する弁のようなものを取り付けなければ、いけなかったな。今回は、水口周りを補強して、何とかなりそうだが、来年までの宿題にしよう。
田植えが終わった。僕とエリスの目の前にはきれいに整列した苗が植えられた水田があった。堤防の上から、それを見て、僕はつい涙を流してしまった。この世界で、日本の風景を見ることが出来るなんて……こういう景色をみると、日本に戻りたくなるのぉ。
「ロッシュ様……いかがしましたか? お加減でも優れませんか? 」
「心配してくれて、ありがとう。大丈夫だよ。僕は、この風景が大好きなんだ」
「そうでしたら、来年も再来年も、毎年この風景を見ましょうね。その度に、ロッシュ様は泣いてくださるのかしら? 」
エリスは、僕を小馬鹿にしたような言い方をした。僕達は、笑った。エリスとまた、この風景を見てみたいな。
こうすれば、面積あたりの収量は増えるし、隙間が出来づらい分、雑草も生えにくい。結果的に、土壌の栄養も効率的に使え、雑草抜きのための労力も削減できる。あの、真夏の草取りは、命に関わるほど大変なんだよなぁ。
水田に水路から水を土が湿る程度に引き、その後に、種籾をばら撒きにする。すると、50日もすれば、移植が出来るほどの苗が作れるはずだ。僕は、村人に指示を出しながら、種まきをした。種籾には、品種改良の魔法を使ってみたが、ポイントは『0』だったため、何もすることが出来なかった。
自生しているものには、ポイントは付与されないみたいだ。収量くらいは、増やしておきたかったが、こればかりは仕方ないな。僕は、一段落着いて、村人と休憩をしていた。エリスが、皆の分の水を持ってきて、配っている。村人は、エリスに対して非常に好印象なのが分かるな。
リバーシの一件でエリスは、子供からかなり慕われているようだ。
「ロッシュ様、稲というものは、どういうものなのですか? 」
「エリスは、稲というものを知らなかったな。稲は麦と同じ仲間で見た目も似ているんだ。稲の変わったところは、水を張った畑で栽培するってところかな。稲を栽培する畑を水田とか田んぼとか言うんだ。肥料も大して必要とせず、肥料がなくったって、収量もそこそこ穫れるんだよ。食べ方は、お湯で炊いて、そのまま主食として食べることが多いかな。麦をパンにするより、うんと楽に食べられるところが利点だよね。」
「麦と同じような物なら、麦を増やすというだけではだめなのでしょうか? 米を作るために、たくさんの工事を必要としていましたし、麦なら畑に撒くだけですから……米の良さがあまり伝わってこないんですが」
「そうだね。多分だけど、村のみんなも同じように考えていると思うな。これについては、後で皆に伝えておいたほうがいいみたいだな。これからも、当然、麦を増やしていくけど、米も増やしていくよ。それはね、麦が不作だった時の保険なんだ。麦が不作でも、米がある。米が不作でも、麦がある。こういうふうにしておけば、急に気候が変わっても、みんなが飢えずに済むだろ? そのための、米なんだよ。もちろん、僕が米を食べたいって理由もあるし、それ以外にもあるしね。なんにせよ、色んな種類の作物を作ることが重要なんだ」
エリスが、目をキラキラさせて、僕を尊敬の眼差しで見ていた。僕には、ちょっと眩しかった。
「すごいです!! 私は、そこまで考えが至りませんでした。以前、麦が不作になった時はすごく悲惨な状況になりました。そのときは、今我慢すればそれいいんだとしか思いませんでしたが、それを回避するための米なんですね。すごく、わかりました。他の理由ってなんですか? とても気になります 」
この辺は、技術的な話かな。要は、米の導入による連作障害の軽減、病害虫発生の抑制、農地の肥沃化などが上げられる。米の導入は、肥料の乏しく、効果的な農薬が少ない、この世界では革命的なのだ。さすがに、エリスには理解できず、首を傾げていた。まぁ、このあたりは、水田を何年も導入して、周りと比較して初めて分かるようなことだし、効果を実感することは難しいことだからね。こういうのは、理屈を理解してないと、頭に入らないものだよ。
去年、採っておいた種籾を全て撒き終えた。約100キログラムくらいの種籾を、100メートル × 30メートルの水田に蒔けた。あとは、苗が出来るのを待って、移植するだけだな。
50日後
思ったより、立派な苗ができた。これなら、稲も期待できそうだな。すぐに、村人を集め、苗を土と一緒に採取し、木箱に収めていった。水田では、土に少しかぶるくらいの水を張っておいた。さあ、村人を横一列に並べ、間隔を取りながら、苗を植えていった。今回は二本植えにしてもらった。貴重な苗だから、一本植えにしたかったけど、枯れてもいいように二本植えにした。ちなみに、日本のときは、三~五本っていうのが多いかな。
僕は、試したことがあるが、一本植えと三本植えをやってみて、収量に差があるのかを比較したんだ。そうすると、一株あたりの収量は変わらなかったんだ。その結果はすごくびっくりした。分けつと言って、一本の苗からたくさんの穂が出来るんだけど、三本植えは分けつが抑制されて、結局一本植えと分けつ数は変わらなかったんだ。ただ、水田全体で捉えると、一本のほうが、少なくなってしまった。というものも、一本だから枯れたらおしまいなのだ。三本植えは予備苗という位置づけで、有効だってわかったんだ。それ以降、僕は三本植えにしているんだけど。
苗を植える予定の水田は、100メートル × 100メートルのものが10枚ある。毎日、少しずつ植えることにした。初めてやることだから、村人は、泥に足を取られて、倒れるハプニングが続出した。ゴードンもその一人だ。
「だっはっはっ。ロッシュ村長、田植えというものはいいものですな。童心に返るようで、心身ともに若返る気がしますわい。しかし、ロッシュ村長の足さばきは立派なものですな。まったく、振れず、よくもそこまで真っ直ぐと植えることが出来ますな。私の列なんて、ほれ……クネクネしてます。いやぁ、お恥ずかしい限りで」
周りも、倒れる人がいる度に、笑いが生まれていた。田植えってこういう雰囲気になるんだよな。しかも、皆、農業に携わっているものばかりだ。何日もしないうちに、熟練の腕に達していた。倒れるものはいなくなり、黙々と作業をこなしていく。予定より、何日か早く終わらせることが出来てしまった。これなら、来年は、もっと面積を大きくしても大丈夫そうだな。
稲というのは、植えられる期間が意外と短い。数週間という期間で植えていかなければ、満足の出来る収量は確保できない。しかも、この地域は、冬が早く訪れる。その分、秋が短いのだ。尚更、早植えを徹底していかなければならない。
今回の面積では、この人口でも少し少ない感じがしたのだ。来年は、倍くらいに挑戦してもいいだろう。今後、順調に面積を増やしていくと、どうしても水不足は避けて通れなくなりそうだな。今年の夏にダム建設を本格的に検討してみよう。
苗を植え終わり、水田に水を入れた。川から水路に、水路から水田に水が流れていく。しかし、その勢いは思ったより強く、補強していない水田では、水口(水路と水田の接合部)が壊れてしまい、水が止まらなくなる自体が発生してしまった。そのせいで、水が水田を埋め尽くし、苗が完全に水没してしまった。僕と村人は、水口をすぐに補修し、僕は水魔法で排水をした。なんとか、事なきを得た。と思ったら、次々と他の水田の水口が壊れてしまった。
ちょっと、計算が甘かった。ここまで、水量が多いとは思っていなかった。水路には、水量を調整する弁のようなものを取り付けなければ、いけなかったな。今回は、水口周りを補強して、何とかなりそうだが、来年までの宿題にしよう。
田植えが終わった。僕とエリスの目の前にはきれいに整列した苗が植えられた水田があった。堤防の上から、それを見て、僕はつい涙を流してしまった。この世界で、日本の風景を見ることが出来るなんて……こういう景色をみると、日本に戻りたくなるのぉ。
「ロッシュ様……いかがしましたか? お加減でも優れませんか? 」
「心配してくれて、ありがとう。大丈夫だよ。僕は、この風景が大好きなんだ」
「そうでしたら、来年も再来年も、毎年この風景を見ましょうね。その度に、ロッシュ様は泣いてくださるのかしら? 」
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