囚われ王子の幸福な再婚

高菜あやめ

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第二部

11. 交わす吐息*

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 たぶん、いや絶対に……気遣われてる。

「んくっ……ふっ、ふっ」

 後ろをかき回す水音が、体の内側から聞こえてくる。
 おそらく、絶対に手加減してくれてるはず――カシュアは、そう自分自身をはげましながら、なんとか力を抜こうとしていた。

「もう少し、力を抜いて」
「ひゃあっ!」

 突然、尻たぶに濡れた感触がして、驚いたカシュアは腰を落としそうになった。しかしバージルの腕でしっかり支えられていたので、指がぬけることはなかった。

「ここも、あなたにとって感じる部分なのだな」
「ううんっ……あ……」

 バージルの舌が、まろみのある肌をなぞる。そのあいだも、後ろを暴いていく長い指は止まらなかった。
 感じる部分はとっくにバレている。
 奥をさぐりながら同時にそこを攻められるから、カシュアの口からは細い嬌声がひっきりなしにこぼれていた。

「そろそろ、迎え入れてくれるか?」
「はっ……くっ」

 抜けようとした指が、入り口で止まって、そこを大胆に広げた。
 ひんやりした空気が、奥へともぐりこんでくる――カシュアが身震いすると、それを合意と見なしたようだ。熱いかたまりが入り口をふさぎながら、ゆっくりと中に押し入ってきた。

(なにこれ、重い……これって苦しいってこと? あ、あああっ……やだ、なにこれ!)

 後ろは、重いものを押しつけられたような感覚がしたものの、特になにも感じない。
 しかし前のほうは、まったく違った。
 引きしぼられるような、甘い感覚がたまらない――言葉にできない気持ち良さに、腹の奥をゆさぶられる感覚があいまって、しびれるほどの快感を生みだした。

「くっ……これは、たまらないな。すまない、あなたにとって苦しいだけだろうか」
「……あっ、だめ! ああっ!」
「まさか……感じるのか?」

 カシュアは、なんと答えたらいいのか分からなかった。

「私は、この上なく気持ちがいいが」

 知ってる。今、嫌というほど感じてる。
 カシュアは熱くなる顔を両手で隠して、何度もうなずいた。

(もし俺が、後ろでも感じるようになったら……)

 不感症だったら、今の快感レベルにとどまるが……もしも、後ろで快感を拾う体になったら。
 いきすぎた快感で、カシュアがどうしようもない『淫乱』になってしまったら。

「や、やだ、それはやだ!」
「ん、ここが感じるのか」

 そうではない。そこではないのだが、ある意味そこでいい。そのまま感じないところを攻めてほしい。

 それにしても挿れる側が、最初からこれほど気持ちいいとは思わなかった――カシュアは恍惚とした表情でゆさぶられていたが、ふと別の可能性が頭によぎった。

 もしかして、いや絶対にバージルは経験がある。しかも女性だけではなく、男性経験も……。

 最初に抱かれそうになったとき、途中でやめてくれたのは、なにもカシュアを気づかっただけじゃない。
 閨についてあまり詳しくないが、あのタイミングで止めるのは、男としてかなりつらかったはずだ。
 その理由は――。

(俺が、はじめてだって分かったから)

 はじめての相手は、とても手間がかかると聞く。たとえ早くことを進めたくても、体が準備できてないから、それだけ我慢を強いられる。
 バージルはやさしさから、面倒なカシュアでも、世話を焼いてくれるが……閨では物足りなく感じても、無理もない。

「……なぜ、泣いてる?」
「えっ、あ……」

 気がつくと、カシュアは涙を流していた。
 バージルに両手をつかまれて、顔からどかされると、視界が開けた……そして彼の、どこか悲しげな瞳とぶつかって、息をのむ。

「そんなに、この行為が嫌なのか……?」

 嫌かどうかなんて、まだ分からないくらい『自分の』快感は拾えてない。
 バージルが感じてくれてるのは、嫌というほど分かる。でも、それはたぶん、カシュアが相手じゃなくても感じるはずだ。

「あなたの、正直な気持ちを知りたい……」

 これはきっと、誤解を解くチャンスだ。
 ここで間違えたら、後々引きずる気がする――カシュアは喉を鳴らすと、慎重に口を開いた。

「殿下……バージル様には、その、いろいろ我慢してほしくないんです……」

 カシュアと結婚したからといって、カシュアではバージルを満足させられない。おそらくだが、経験豊富なバージルには物足りないどころか、我慢ばかりさせてしまう。

「俺以外のひとと、経験があるのでしょう……?」

 だから、バージルはもっと経験がある相手が必要なのだと思う。慣れた相手ならば、きっとバージルも我慢を強いられることもない。

「あなたはっ……!」

 バージルは、ガッとカシュアの腰をつかむと、激しく奥を攻めてきた。カシュアはわけが分からず、ものすごい圧迫感に耐えながらゆさぶられているうちに、だんだん奇妙な感覚がしてきた。それはうずくような、むずがゆさからはじまって、少しずつ強さと存在感を増していく。快感と呼ぶにはあまりにも強すぎて、暴力的とも言える容赦なさがあった。

「あ……ああ……や……」
「あなたがっ……煽るから、私は」

 煽ったつもりはない。

「な、なにを……うあっ……」
「ふっ……我慢するなと、言うからっ……やさしくしたいのに、無理させたくないのに……!」

 なんか、とてつもない誤解をされてるような……?

「ちがっ……だって、他のひと、とも、経験があるからっ……」
「またそのようにっ……かわいい嫉妬をされたらっ……止めてあげられない」

 さらに誤解が深まってる!
 これはとても、まずいのでは……?

「私も、あなたに、私のはじめてを捧げたかった……いとしいひと……もう、これからは、あなただけだ」
「ちがっ……あああ……っ……」

 もう無理、これ以上考えられない。
 強烈な快感は、カシュアの言葉も思考も奪ってしまった――今はただ、バージルに身をまかせるしかなかった。



 最悪だ。
 カシュアはシーツに突っ伏したまま、疲労困憊の体をバージルにさすられていた。

 痛みは感じなくても、疲れは感じる。
 クタクタな体を、バージルは申し訳なさそうな表情を作りつつも、抑えきれないうれしさを全身からにじませていた。

「ミルク粥くらいは食べられないか。糖蜜を垂らしてあるから、口あたりがいい」

 今だって、どこか浮かれた様子で、背中からカシュアを抱きこんで食事の世話を焼いている。
 スプーンですくわれた粥は、湯気が立っていて熱そうだ。バージルはそれにフーフーと息を吹きかけて、うれしそうにカシュアの口もとへとはこぶ。
 口のはしからはみ出そうな粥を、親指でぬぐって舐めとる様は、普段の彼のストイックな姿とのギャップが激しくて、クラクラした。

(なんで俺が嫉妬して、よろこぶんだよ……我慢するなっていうのは、そういう意味じゃなかったのに)

 しかし逆に、カシュアの伝えたかったことが、正しく彼に伝わっていたら?
 少なくとも今ごろ、こんなふうに甘やかされることはなかったはずだ。
 きっとカシュアをひとりベッドに残して、他の経験豊富な男のもとへいってしまっただろう。

(そんなの、いやだ)

 分かってる、もうどうしようもないのだと。

「どうした? どこか気分がすぐれないのか?」

 カシュアはとうとう両手で顔を覆って、泣き出してしまった。

(このひとが、好きだ)

 自分のような欠陥だらけの人間が、どうして政略結婚の相手に本気になってしまったのか。
 いつかこの国の新しい御代に平穏が訪れて、やがてバージルがすばらしい妃を迎えるまでの、いわば『繋ぎ』でしかないのに。

 カシュアが大泣きする中、バージルは複雑な表情で、カシュアを抱きしめていた。
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