【完結】龍王陛下の里帰り

笹乃笹世

文字の大きさ
27 / 55

27

しおりを挟む

 
 ――緑春祭の五日前。
 春鈴が祭に出す料理が、どうにか納得のいく出来栄えになったころ、緑春祭に参加する者たちの受け入れが始まり、たくさんの者たちが続々と龍宝宮へとやって来ていた。
 それは普段は理由があって里以外で暮らしている龍族であったり、龍族が招いた他種族の代表、芸人や一座であったり――龍王陛下の見舞いと称した人間の役人たちの姿もあった。
「あっウサギ族だ! すっご……耳長ぁ……あ、垂れ耳の人もいる――どっちにしても長い!」
 今日は様々な種族が見られるから……と、龍宝宮の正門が良く見える場所に陣取り、青空の下で心地よい風に吹かれながらお茶会を楽しんでいる春鈴たち。 
 
 ――といっても、言い出したのは橙実であり、春鈴は「見てみたくはないか?」という問いかけに「見たいです!」と答えただけだったのだが。
 その言葉に紫釉が当然のように同行する旨を蒼嵐に伝え、蒼嵐が一言も発しないままに今回の見学会は決まっていた――

 ……しかし渋々といった態度で同行した蒼嵐だったが、沢山のお菓子に暖かな日差しとひんやりとした風――
 それら全てを全力で楽しんでいたのだったが。
 
「見るのは初めてか?」
 蒼嵐が、目をキラキラと輝かせて龍宝宮の正門前に並ぶ、多種多様な種族を眺めている春鈴に問いかける。
「うん!」
 視線はウサギ族から動かさず、元気よく答える春鈴。
 紫釉や橙実の前では最低限の敬語を使っていたはずなのだが、今回は興奮しすぎてそんなことを考える余裕もないらしい。
「おっ春鈴、もっと珍しい一族が来たぞ」
 遠くを眺めていた浩宇がニヤリと笑いながら声をかける。
「パ、パンダ族……! ふぁー……ぷよぷよでかわゆ……」
「――実際は憲法の達人だがの……」
 成人男性ばかりの集団を、野兎でも愛でるかのように眺める春鈴に、橙実はどこかたしなめるような口調で、そっと付け加える。
「可愛くって強いのか……」
 しかし当の本人は、はふん……とほほを緩め、相変わらず愛でるような視線を向けていた。
 橙実が、本格的にたしなめなくてはいけないのだろうか……? と迷い始めた頃、それまではにこやかな顔つきで喜ぶ春鈴を愛でていた紫釉が、なにかに反応し、そちらに顔を向ける。
 そしてある一点を見つめ顔をしかめる。
「――来ましたか……」
 低く不機嫌そうな紫釉がイヤそうにもらす。
「――え?」
 紫釉の反応に、春鈴は驚きながらもその視線をたどるように見つめ……そして見つけた。
 ――そこにいたのは、人間たちの姿だった。
 見慣れた服装の役人たちが、贅を凝らした豪華な馬車からぞろぞろと出て、そのまま門の中へ歩いて行くーー
(……え? 人間……? ――だって緑春祭まで五日もあって、お祭り自体は三日間で? ――あのおっさんたち魅音より不健康そうな体形してるけど……一週間以上ももつ……? あ、体力はある……のか?)
「……あの人たち、大丈夫なの?」
 迷った春鈴は声をひそめ、こっそりと蒼嵐にたずねた。
「……何でも先に入った孫娘が平気なのだから大丈夫だろう……とのことらしい」
 肩をすくめながら大きなため息とともに答える蒼嵐。
 こちらはこの会話を誰に隠すつもりもないようで、大げさに鼻を鳴らしてみせた。
「――え? だって魅音たちもうすでに三日に半日くらいしかココにいないのに⁉︎」
(酷いときなんか、自分たちは温泉でのんびりしといて、凛風だけこっちに偵察に寄越してるんだよ⁉︎ ……凛風が丈夫なで本当に良かった……)
「……どんな話がどう伝わったのか、詳しく聞きたいところだな」
(報告、連絡、相談……本気で命に関わるよ……?)
「そこまで心配することもあるまい。 どうせ真っ先に潰れるのはその孫娘を送り込んだおろか者であろう? 人間の役人が三日も持った記録は無いからなぁ」
「……あれ? 人間ってそんなに弱い……?」
(あの女、意外に頑張ったほう……? いや、一週間は固い的な話なかったっけ……?)
「昔、交渉だなんだと、うるさかった人間の役人どもを里に入れ、ここに滞在出来る料理人をよこすならば、もっと妖力をくれてやると言ったこともあったが……あの時も早い者は三日――あぁ、龍族の血を引いていると言っていた護衛の一人は十日は持ったんだったかの?」
(……――聞いてた話と大分違うような……――でも、うちの父ちゃんだって一週間ぐらい家でのんびりできてるけど……仙術師だから普通の人よりもめっちゃ体力ある……? )
「――なんなら昔のように、寝込んだ状態で死ぬ間際まで滞在してくれても、こちらとしては構わんしな?」
 とんでもないことを、なんでもないことのように冷たい瞳で言う橙実に、少しだけ恐怖を感じた春鈴は、そのほほを引きつらせた。
「橙実様、本当に人間が嫌いなんですね……?」
 結構仲良くなれたと思ってたんだけどな……と思いながらションボリと眉を下げる春鈴。
「――そんな顔をするでない。 春鈴は正真正銘の龍の子であるとも。 自信を持つのじゃ。 なにせ、これだけ長い間里で暮らして、かように元気でおるんじゃからの」
(……仲良しではいたいけど、龍族認定はいらなかったっていうか……――いや、無理か。 橙実様本当に人間嫌いだもんな……)
「――赤の他人である橙実殿に認められたところで、春鈴になんの得があるというのか……――宝よ、案ずるでない。 そなたのことは私が守ろう。 ――何なら家族も里に呼ぶがいい。 みなで暮らそう?」
「……半分は衰弱死が待っていそうなので、ご遠慮いたしまーす……」
(紫釉様、今日も絶好調に言ってること分かんないや……好かれてることだけは間違いなさそうだけど……)
「そう言わず……」
「――あきらめの悪い男よの……」
 茶器を傾けながらポソリと呟く橙実。
「――なにか?」
 たいして大きくも無かったその声の主を威嚇するとうに、ギロリと鋭い視線を向ける紫釉。
「――春鈴、お茶を入れてくれ」
「はーい! 俺、肉パオズお代わり!」
「私も貰えるだろうか?」
 険悪になってしまった紫釉と橙実の会話をかき消すように、蒼嵐たちはたて続けに春鈴に話しかける。
「はいはーいっと――?」
(……あれ、凛風? 案内してるのは誰だろう? 人間……だよね? ――つーか……あの娘、案内人の真似事までさせられてるの? かわいそうに……明日、なんかお菓子送ってあげよう……)
 蒼嵐たちに肉パオズを差し出したり、お茶を入れたりしながらちらりと行列を盗み見ている春鈴の瞳には、商人風の男性を案内して龍宝宮の中へ入っていく凛風の姿があったのだった――
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

家出を決行した結果

恋愛
フィービーの婚約者ミゲルには大切な幼馴染がいる。病弱な幼馴染をいつも優先するミゲルや母が亡くなって以降溝が出来てしまった父と兄との関係にフィービーは疲れていた。 デートの約束をしてもいつも直前になって幼馴染を理由にキャンセルされ、幼馴染にしか感情を見せないミゲルを、フィービーを見ようとしない父や兄を捨てる決心をしたフィービーは侍女や執事の手を借りて家出を決行した。 自分を誰も知らない遠い場所へ行ったフィービーは、新しい人生の幕開けに期待に胸を躍らせた。 ※なろうさんにも公開しています。

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました【完結】

iru
恋愛
第19回 恋愛小説大賞エントリーしています。ぜひ1票お願いします。 小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

三年の想いは小瓶の中に

月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。 ※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。

結婚式をボイコットした王女

椿森
恋愛
請われて隣国の王太子の元に嫁ぐこととなった、王女のナルシア。 しかし、婚姻の儀の直前に王太子が不貞とも言える行動をしたためにボイコットすることにした。もちろん、婚約は解消させていただきます。 ※初投稿のため生暖か目で見てくださると幸いです※ 1/9:一応、本編完結です。今後、このお話に至るまでを書いていこうと思います。 1/17:王太子の名前を修正しました!申し訳ございませんでした···( ´ཫ`)

とっていただく責任などありません

まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、 団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。 この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!? ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。 責任を取らなければとセルフイスから、 追いかけられる羽目に。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

処理中です...