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◇
――祖父との話し合いから戻ったばかりの魅音。
魅音が与えられているその離宮の中、例え地下にいようともハッキリと聞こえてくる魅音の喚き声。
……聴力の優れた龍族であれば、その近くを通っただけで、ハッキリと聞こえてしまうぐらいの大声で、魅音が癇癪を起こしていた。
「あの女のせいよっ! あのバケモノ憑きのせいで、おじいさま叱られてしまったじゃないっ!」
「み、魅音様、あの……あんまり春鈴のことをバケモノというのは……」
怒り狂う魅音に凛風がオドオドと声をかける。
こんな状況の魅音に意見しなくてはならないほど、魅音の声は大きく、そして龍族の聴力は優れていた。
「この私に口答えする気⁉︎」
「ぁ……いえ、あのっでも! 春鈴が龍族方々と仲良くしてるのは事実ですし……」
「――仲良く……?」
「ぁっ……いや、そのですから、あの……」
ギロリと見つめられ、凛風はおどおどと視線をそらし言葉を詰まらせる。
「……まさかあの女が龍族に何かを吹き込んでいると言うの⁉︎」
「や、そういうことでは……?」
とんでもない思考の変換に、凛風は戸惑いがちに首をひねる。
「そう……それで龍王様にも、なにかを吹き込んだのよ! だからあんなことを言われたんだわ!」
「――ええ、ええ! きっとそうです! すべてあの春鈴のせいですわっ!」
魅音の怒りの矛先が明確に春鈴に向いたことで、周りの侍女たちはこれ幸いと、喜々としてその怒りを煽り始めた。
――悪いのは春鈴。 そうなれば罵る相手も春鈴となり、たとえなにを聞かれようとも龍族の怒りを買うこともなくなる……という浅はかな考えがあった。
「龍族の皆様はあの娘に騙されているのです!」
「なんて恐ろしい女でしょう⁉︎ きっと魅音様の歌声に嫉妬しているんですわ!」
「恥知らずな! ここには魅音様のご好意で同行できたというのにっ」
「まったくです!」
「――きっと自分だけが里で暮らせると、調子に乗っているんですよ」
そんな侍女の言葉に魅音の瞳がギリギリと吊り上がった。
そして手に持っていた扇子を破壊するほどに握りしめながら低い声をもらした。
「……あのバケモノがこの私を見下している……?」
「なんで無礼な!」
「――ウソですよ。 魅音様に無理なのにあの女が耐えれるわけがございません」
「そうですとも! ここにずっとだなんてありえませんわ!」
「きっとあいつだって里を抜け出しているに違いありませんっ!」
「――…そう、よね? ええ……その通りよ! きっとあいつだって里を抜け出してるの!」
「なんて卑怯な女! ――魅音様このままにしておく気ですか⁉︎」
「今度こそ懲らしめてやりませんと!」
侍女たちは慣れたように魅音の憎悪を煽り、春鈴を攻撃するように仕向けていく。
わがままな魅音に振り回されながら世話を焼くよりも、誰かに対する嫌がらせに熱中してくれていたほうが侍女たちは楽に仕事ができるからだった。
「――そうよねぇ……?」
侍女たちの言葉に、ニヤァ……と歪んだ微笑みを深くしていく。
そしてなにかを探すように動かされたその視線が壁際で身体を小さくしている凛風を捉えると、その口元はさらに深く歪んだ。
「――ねぇお前。 ずいぶんと春鈴をかばっていたわね?」
「か、かばうというか……その、春鈴が龍族の方々と仲良くしていたのを知っていたので、悪く言うと魅音様が困るのでは……と」
おどおどと下を向く凛風を、ネズミをいたぶる猫のような瞳で見つめ、にんまりと笑う魅音。
「――そうだわ! お前に新しい仕事あげる」
今までの態度とは打って変わって上機嫌に笑う魅音。
そんな魅音とは反対に、凛風は根拠のない不安に顔色を悪くしていた。
「仕事……なんでしょうか?」
「どうやったら春鈴に自分の立場をわからせることができるのか……――お前が考えなさい」
「立場、ですか?」
凛風はとぼけるように質問を繰り返す。
「魅音様に命令されたのだから、すぐに返事をしなさい!」
「そうよっ 魅音様のご命令が聞けないの⁉︎」
魅音に再び癇癪など起こされてはたまらない侍女たちは、察しの悪い凛風に顔をしかめながら返事を促す。
「あ、いえ! そんなことはっ」
慌てて頭を下げた凛風に、魅音はその吊り上げた目を下げ、きつく握りしめた扇子から力を抜いた。
「――まぁ? 明日はおじいさまたちに湧泉村の案内することになっているから、急ぎはしないわ?」
「――まぁっ なんてお優しい」
「感謝なさい!」
「――でも、あいつにこの計画をバラしたら……お前の家族がどうなっても知らないわよ……?」
「っ⁉︎」
魅音の言葉に凛風の身体がギシリと固まりその動きを止める。
「――言ったりしないわよね?」
「……は……は、い」
魅音に見つめられた凛風は、うつむいたまま何かをこらえるように手を握りしめ答えを絞り出した。
凛風が答えたことで、魅音は上機嫌にクスクスと笑いはじめ、つられたように笑い出した侍女たちと楽しそうな笑い声をあげる。
そんな笑い声あふれる離宮の中、凛風だけがうつむいたままぎゅっと唇をかみしめていた――
……いつまでそうしていたのか、凛風が再び顔を上げられるようになった頃には、その部屋から他の人間がいなくなり明かりまで消えていた。
くるりと部屋を見渡した後、窓から見える月を眺め、凛風は顔を歪ませてるように微笑むとポツリと言った。
「……ごめん」
――祖父との話し合いから戻ったばかりの魅音。
魅音が与えられているその離宮の中、例え地下にいようともハッキリと聞こえてくる魅音の喚き声。
……聴力の優れた龍族であれば、その近くを通っただけで、ハッキリと聞こえてしまうぐらいの大声で、魅音が癇癪を起こしていた。
「あの女のせいよっ! あのバケモノ憑きのせいで、おじいさま叱られてしまったじゃないっ!」
「み、魅音様、あの……あんまり春鈴のことをバケモノというのは……」
怒り狂う魅音に凛風がオドオドと声をかける。
こんな状況の魅音に意見しなくてはならないほど、魅音の声は大きく、そして龍族の聴力は優れていた。
「この私に口答えする気⁉︎」
「ぁ……いえ、あのっでも! 春鈴が龍族方々と仲良くしてるのは事実ですし……」
「――仲良く……?」
「ぁっ……いや、そのですから、あの……」
ギロリと見つめられ、凛風はおどおどと視線をそらし言葉を詰まらせる。
「……まさかあの女が龍族に何かを吹き込んでいると言うの⁉︎」
「や、そういうことでは……?」
とんでもない思考の変換に、凛風は戸惑いがちに首をひねる。
「そう……それで龍王様にも、なにかを吹き込んだのよ! だからあんなことを言われたんだわ!」
「――ええ、ええ! きっとそうです! すべてあの春鈴のせいですわっ!」
魅音の怒りの矛先が明確に春鈴に向いたことで、周りの侍女たちはこれ幸いと、喜々としてその怒りを煽り始めた。
――悪いのは春鈴。 そうなれば罵る相手も春鈴となり、たとえなにを聞かれようとも龍族の怒りを買うこともなくなる……という浅はかな考えがあった。
「龍族の皆様はあの娘に騙されているのです!」
「なんて恐ろしい女でしょう⁉︎ きっと魅音様の歌声に嫉妬しているんですわ!」
「恥知らずな! ここには魅音様のご好意で同行できたというのにっ」
「まったくです!」
「――きっと自分だけが里で暮らせると、調子に乗っているんですよ」
そんな侍女の言葉に魅音の瞳がギリギリと吊り上がった。
そして手に持っていた扇子を破壊するほどに握りしめながら低い声をもらした。
「……あのバケモノがこの私を見下している……?」
「なんで無礼な!」
「――ウソですよ。 魅音様に無理なのにあの女が耐えれるわけがございません」
「そうですとも! ここにずっとだなんてありえませんわ!」
「きっとあいつだって里を抜け出しているに違いありませんっ!」
「――…そう、よね? ええ……その通りよ! きっとあいつだって里を抜け出してるの!」
「なんて卑怯な女! ――魅音様このままにしておく気ですか⁉︎」
「今度こそ懲らしめてやりませんと!」
侍女たちは慣れたように魅音の憎悪を煽り、春鈴を攻撃するように仕向けていく。
わがままな魅音に振り回されながら世話を焼くよりも、誰かに対する嫌がらせに熱中してくれていたほうが侍女たちは楽に仕事ができるからだった。
「――そうよねぇ……?」
侍女たちの言葉に、ニヤァ……と歪んだ微笑みを深くしていく。
そしてなにかを探すように動かされたその視線が壁際で身体を小さくしている凛風を捉えると、その口元はさらに深く歪んだ。
「――ねぇお前。 ずいぶんと春鈴をかばっていたわね?」
「か、かばうというか……その、春鈴が龍族の方々と仲良くしていたのを知っていたので、悪く言うと魅音様が困るのでは……と」
おどおどと下を向く凛風を、ネズミをいたぶる猫のような瞳で見つめ、にんまりと笑う魅音。
「――そうだわ! お前に新しい仕事あげる」
今までの態度とは打って変わって上機嫌に笑う魅音。
そんな魅音とは反対に、凛風は根拠のない不安に顔色を悪くしていた。
「仕事……なんでしょうか?」
「どうやったら春鈴に自分の立場をわからせることができるのか……――お前が考えなさい」
「立場、ですか?」
凛風はとぼけるように質問を繰り返す。
「魅音様に命令されたのだから、すぐに返事をしなさい!」
「そうよっ 魅音様のご命令が聞けないの⁉︎」
魅音に再び癇癪など起こされてはたまらない侍女たちは、察しの悪い凛風に顔をしかめながら返事を促す。
「あ、いえ! そんなことはっ」
慌てて頭を下げた凛風に、魅音はその吊り上げた目を下げ、きつく握りしめた扇子から力を抜いた。
「――まぁ? 明日はおじいさまたちに湧泉村の案内することになっているから、急ぎはしないわ?」
「――まぁっ なんてお優しい」
「感謝なさい!」
「――でも、あいつにこの計画をバラしたら……お前の家族がどうなっても知らないわよ……?」
「っ⁉︎」
魅音の言葉に凛風の身体がギシリと固まりその動きを止める。
「――言ったりしないわよね?」
「……は……は、い」
魅音に見つめられた凛風は、うつむいたまま何かをこらえるように手を握りしめ答えを絞り出した。
凛風が答えたことで、魅音は上機嫌にクスクスと笑いはじめ、つられたように笑い出した侍女たちと楽しそうな笑い声をあげる。
そんな笑い声あふれる離宮の中、凛風だけがうつむいたままぎゅっと唇をかみしめていた――
……いつまでそうしていたのか、凛風が再び顔を上げられるようになった頃には、その部屋から他の人間がいなくなり明かりまで消えていた。
くるりと部屋を見渡した後、窓から見える月を眺め、凛風は顔を歪ませてるように微笑むとポツリと言った。
「……ごめん」
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