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――不穏な空気を孕みつつもなんの問題も起こらず、緑春祭はつつがなく、そして大盛況のうちに幕を閉じていた。
そして最終日、初めのほうに歌を披露し終えた魅音は離宮に戻るや否や、自室に引きこもり、枕などの中身をまき散らしながら大きな声で喚き散らしていた。
「なんでっ! なんでなんでなんでなんでっ!」
まるで癇癪をおこした子供のように、手近にあったものを投げ捨て振り回しながら、その不満や怒りをぶつけていた。
理由を察している侍女たちは部屋の外で視線を交わし合い、そらし合いながら魅音にかかわることを恐れていた。
『人間の歌い手も素晴らしいと聞いていたが……カナリア族の後では――なぁ?』
『比べては可哀想ですよ……』
『本当にあれで国一番……?』
『……井の中の蛙、大海を知らず――可哀想なこと……』
『けれど、今日で大海を知れたのでは無いかしら?』
『――しかし次はぜひとも菓子を増やして欲しいものだな?』
『このタンユエン! 見た目も縁起がよいのにこんなに美味しくてっ!』
『中からタレがトロリと出てくるのがまた……!』
『ええ、ええ! まこと。 ――やはり器用さでは人間にかないませんねぇ?』
『うむ、やはり人間には芸事の場ではなく、こういう手先の器用さを伸ばしてもらいたいものよ……』
『まこと、まこと!』
それが、歌を披露し終わった魅音の耳に届いた龍族、そして招かれていた他種族たちからの評価だった。
「私は国で一番なのよ⁉︎ 私の歌があんな鳥もどきのキィキィ声に負けるわけがないじゃないっ!」
――興奮して大声を出している魅音は気がつかなかった。
侍女たちが集まっていた廊下に、どこから漂ってきたのか、お香の煙が充満しはじめ、侍女たちがくらくらと座り込み始めたことに、そしてその中でたった一人の侍女が、一人静かに立ち上がると、喚き散らす魅音の部屋の中に煙立つ香炉を差し入れたことにも――
そしてその者は魅音が静かになった頃を見計らい、そっと部屋へと忍びこんだ。
煙が充満する部屋の中、忍び込んだ者はくらりくらりと焦点が定まらない瞳で体を揺らしている魅音の耳元でそっと囁いた。
「――全ては春鈴が……あのバケモノ憑きの娘が仕組んだはかりごと……」
そうささやく侍女の首元には、ほんのりと蛍色に光る石がかすかな輝きをはなっていた――
「……春鈴?」
魅音はいきなり話しかけられたにもかかわらず驚くでもなく、うつろな目をそちらに向けて不思議そうに首をかしげる。
「ええ。 魅音様の歌をけなすように龍族を買収したのですよ。 菓子ごときでそんなはかりごとに手を貸すなど、まこと龍族とは愚かな一族……――能力が多いだけの野蛮な一族」
「龍族は愚か……」
魅音のつぶやきに侍女はニィッと唇に弧を描く。
「ええ、その通り。 だからこそ春鈴の策に乗った」
「春鈴……春鈴……っ! あいつが邪魔をっ私の邪魔をっ!」
「――……その通りですとも。 そんな輩は懲らしめなくては……そうでしょう?」
「そう、そうよ……懲らしめてやらないと……」
「こちらを……」
魅音はそう言って差し出された布袋をなんの疑いもなく受け取った。
「これがあれば……春鈴を懲らしめられる……?」
「無礼な龍族どもにも一矢報いることができましょう」
「ふふ……そうね、そう……龍族どもも春鈴も私にひれ伏して詫びればいいのよ……」
虚ろに笑い続ける魅音の背後で侵入者はニヤリと不敵な笑みを浮かべ踵を返すのだった
――不穏な空気を孕みつつもなんの問題も起こらず、緑春祭はつつがなく、そして大盛況のうちに幕を閉じていた。
そして最終日、初めのほうに歌を披露し終えた魅音は離宮に戻るや否や、自室に引きこもり、枕などの中身をまき散らしながら大きな声で喚き散らしていた。
「なんでっ! なんでなんでなんでなんでっ!」
まるで癇癪をおこした子供のように、手近にあったものを投げ捨て振り回しながら、その不満や怒りをぶつけていた。
理由を察している侍女たちは部屋の外で視線を交わし合い、そらし合いながら魅音にかかわることを恐れていた。
『人間の歌い手も素晴らしいと聞いていたが……カナリア族の後では――なぁ?』
『比べては可哀想ですよ……』
『本当にあれで国一番……?』
『……井の中の蛙、大海を知らず――可哀想なこと……』
『けれど、今日で大海を知れたのでは無いかしら?』
『――しかし次はぜひとも菓子を増やして欲しいものだな?』
『このタンユエン! 見た目も縁起がよいのにこんなに美味しくてっ!』
『中からタレがトロリと出てくるのがまた……!』
『ええ、ええ! まこと。 ――やはり器用さでは人間にかないませんねぇ?』
『うむ、やはり人間には芸事の場ではなく、こういう手先の器用さを伸ばしてもらいたいものよ……』
『まこと、まこと!』
それが、歌を披露し終わった魅音の耳に届いた龍族、そして招かれていた他種族たちからの評価だった。
「私は国で一番なのよ⁉︎ 私の歌があんな鳥もどきのキィキィ声に負けるわけがないじゃないっ!」
――興奮して大声を出している魅音は気がつかなかった。
侍女たちが集まっていた廊下に、どこから漂ってきたのか、お香の煙が充満しはじめ、侍女たちがくらくらと座り込み始めたことに、そしてその中でたった一人の侍女が、一人静かに立ち上がると、喚き散らす魅音の部屋の中に煙立つ香炉を差し入れたことにも――
そしてその者は魅音が静かになった頃を見計らい、そっと部屋へと忍びこんだ。
煙が充満する部屋の中、忍び込んだ者はくらりくらりと焦点が定まらない瞳で体を揺らしている魅音の耳元でそっと囁いた。
「――全ては春鈴が……あのバケモノ憑きの娘が仕組んだはかりごと……」
そうささやく侍女の首元には、ほんのりと蛍色に光る石がかすかな輝きをはなっていた――
「……春鈴?」
魅音はいきなり話しかけられたにもかかわらず驚くでもなく、うつろな目をそちらに向けて不思議そうに首をかしげる。
「ええ。 魅音様の歌をけなすように龍族を買収したのですよ。 菓子ごときでそんなはかりごとに手を貸すなど、まこと龍族とは愚かな一族……――能力が多いだけの野蛮な一族」
「龍族は愚か……」
魅音のつぶやきに侍女はニィッと唇に弧を描く。
「ええ、その通り。 だからこそ春鈴の策に乗った」
「春鈴……春鈴……っ! あいつが邪魔をっ私の邪魔をっ!」
「――……その通りですとも。 そんな輩は懲らしめなくては……そうでしょう?」
「そう、そうよ……懲らしめてやらないと……」
「こちらを……」
魅音はそう言って差し出された布袋をなんの疑いもなく受け取った。
「これがあれば……春鈴を懲らしめられる……?」
「無礼な龍族どもにも一矢報いることができましょう」
「ふふ……そうね、そう……龍族どもも春鈴も私にひれ伏して詫びればいいのよ……」
虚ろに笑い続ける魅音の背後で侵入者はニヤリと不敵な笑みを浮かべ踵を返すのだった
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