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しおりを挟む歩きだした春鈴の左右、そして背後にもゴーグルを付けた者たちが付き添い、春鈴は前後左右を固められながら廊下を進んで行く。
――しばらく歩いたところでようやく春鈴はとある考えに至った。
(……もしかしなくても私、疑われている……? ――人間だし、凛風と友達だったし……――なるほど、私疑われてる! ……共犯者として捕まったらどうしよう……)
どんな扱いを受けるのかと恐れながら案内された部屋に入った春鈴は、その部屋での自分の扱いに大いに困惑していた。
――そして困惑したまま、目の前に並ぶお菓子やお茶におずおずと手を伸ばすのだった――
案内された部屋は、豪華でそれはきらびやかな部屋だった。
そしてテーブルの上には沢山のお菓子に果物。
かぐわしい香りのするお茶も、湯気を揺らせていた。
――そして春鈴の目の前に座る紫釉は、優雅に足を組んでお茶を楽しんでいた。
紫釉の背後に控えるのは少年のような龍族が一人だけ。
驚くべきことに、他には護衛も侍女も見当たらなかった。
(――えぇ……怖い。 なにこの扱い……?)
「ふふ……そんなに緊張するでない」
「はぁ……」
「――私は春鈴を家族のように思っているんだ……」
「……家族……ですか?」
紫釉の言葉に手元の茶杯に落としていた視線を上げ、紫釉を見つめながら首をかしげる。
「――ああ……本当に美しい瞳だね……」
春鈴と目があった紫釉は、どろり……と瞳をとろけさせると恍惚と呟く。
「……あの私、蒼嵐のお茶に毒を入れた犯人として疑われるんじゃ……?」
「まさか! ここに読んだのは春鈴を守るためだよ」
「まも、る……ですか?」
春鈴の言葉にうなずくと、紫釉はスッと目を細め不愉快そうに顔をしかめた。
「蒼嵐では、いざと言う時に春鈴を守れない――げんに春鈴はもう幾度も騒動に巻き込まれている」
「でも……ちゃんと逃がそうとしてくれましたし――魅音に捕まった時は助けにも来てくれました!」
「本当に大切ならば、怖い思いなどさせるべきではないんだ。 ――春鈴、私はね? 君が大切なんだ。 嫌な思いなどさせたくない……――その瞳が曇るような事は全て、この私が取り払ってあげよう……」
ジッと春鈴の瞳だけを見つめながら、紫釉はどこか狂気を孕んだ声で訴える。
その狂気には気が付かなかった春鈴だったが、紫釉が自分の瞳を通して、自分ではない誰かを見ているのだということに初めて気がついた。
「――それって……守りたいって気持ちじゃなくないですか……?」
おずおずと、しかしきっぱりと春鈴はその言葉を口にした。
まるで自分をペットのように、人形のように扱おうとする紫釉に、少なくはない嫌悪感を覚えていた。
「――え?」
「……そりゃ、確かに人間は龍族より弱いですけと、でもだからって何も知らせず勝手にしていいって事はないし……――ましてやその行為を「心配だから」なんて言葉でごまかすの卑怯だと思いますけど……」
「――――なんと……?」
春鈴の言葉を聞き、長い沈黙のあとに紫釉はようやくその言葉を紡いだ。
(なんと……? ――え、今の私の話が聞こえていなかったとか、そんなことある⁉︎)
困惑する春鈴をよそに紫釉の身体がふるふると震えはじめ――後ろに控えた龍族が動揺する姿を春鈴は困惑たっぷりの眼差しで見つめていた。
「なんと、愛おしいことかっ!」
ぶるぶると震えていた紫釉がそう叫びながら勢いよく立ち上がる。
その顔にはハッキリとした狂気が宿っている。
(あっ……これヤバいやつだ)
春鈴はそんな状況を、自分でも驚くほど冷静に判断すると、椅子から立ち上がり今まで座っていた長椅子の影に身を寄せた。
身体を縮こませながら警戒心たっぷりの瞳で紫釉を見つめる。
「そう……そうであった! 君はいつでもまっすぐで、どこまでも美しくて……ああ……――私の月の君。 もっとよく顔を見せておくれ!」
恍惚の表情を浮かべて春鈴に詰め寄る紫釉。
その後ろに控えていた少年が何度も制止の言葉をかけているが、それが耳に入っているようには見えなかった。
「ひ、人違いかと――っ⁉︎」
すぐ側まで来ていた紫釉は、床にしゃがみこむ春鈴のほほを撫であげ、ズイッと顔を近づけてその瞳を覗き込む。
(近っか⁉︎ ぇ、月の君って何? 私この人にそんなふうに呼ばれたことないと思うんですけど⁉︎)
「ああ……愛おしい月光……――私の光」
そう言いながら紫釉は春鈴の肩に手を置き、そのまま体重をかけ春鈴に覆いかぶさるような体制になると、その髪やほほを撫で回し始めた。
「ひぃっ……」
(へ、変態だぁぁぁぁぁっ⁉︎)
「紫釉様⁉︎ おやめください! 春鈴様になにをなさるんです!」
「――ああ……帆帆よ、戻ったのだよ私の月が……ようやく、ようやく! この手にいイィィィ‼︎」
満面の笑顔で帆を振り返った紫釉は、そのまま耳障りな笑い声をあげはじめる。
そして――
その瞳がジワリ……と黒く濁り始め、髪が毛先からじわじわと、まるで墨を吸い取っているかのようにジワジワと真っ黒に染まっていく。
「紫釉様っ! なりませんっお気を確かにっ!」
悲鳴のような声を上げ、帆が紫釉を春鈴から引き離すと、その両肩をガクガクと揺さぶり始める。
その隙に大きく距離を取ってそのやり取りを呆然と見つめる。
(黒……――真っ黒になるのは……――暴走……?)
「あ゛あ゛あ゛っ!」
その色合いが銀から黒に代わり切ってしまった紫釉、苦しそうに頭を抑えると自分を押さえつけようとする帆を押しのけながら、床に崩れ落ちた。
「っ――お許しをっ!」
押しのけられた帆はそう叫びながら、紫釉に突撃していく。
そしてその胸ぐらを乱暴に掴むと、素早い動作で机の上に背負い落した。
その衝撃で木っ端みじんに壊れる机、上に乗っていたお菓子やフルーツもぐちゃぐちゃになり部屋中に飛び散った。
「ぐふぅっ……」
「ふぁ⁉︎」
(爆発した⁉︎ ……あ、違う? ――ってかまたそれなの⁉︎ 龍族の解決方法が強引すぎる⁉︎)
心の中で叫んだ春鈴は、ひきつる顔で帆と机だったものの上でうごめいている紫釉を見つめた。
「――お怪我はありませんか?」
そう言いながら春鈴に駆け寄る帆――今のやり取りで服が乱れてしまったのか、その胸元には龍族があまり好まなそうな、小ぶりで少し濁った石が黄緑色に……蛍色に輝いていた――
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