49 / 55
49
しおりを挟む
◇
(――そりゃ龍族からしたら、ひとっ飛びで来られちゃうすぐ隣の山なんですけど……今日でサヨナラなんだからもっと寂しがってくれたっていいのに……)
春鈴は遠ざかって行く優炎たちを見送りながら、むぅ……と、再び口を尖らせた。
(……長く生きる龍族からしたらこの数週間なんて、私にとっての市場で隣になった人と仲良くなっちゃった! ……とかと同じ感覚なのかな……?)
「――そうなんだとしたら寂しいなぁ……」
龍族の人たちに連れられ、ほんの数分で着いた蓮歌山。
わざわざ家まで送ってくれたのだから……と、春鈴は優炎たちを、お茶に誘ったのだが、仕事を理由に断わられすぐに里へととんぼ返りしていった。
「――前は喜んでお茶飲んでってくれたのになー……」
自宅近くの空き地で一人たたずみながら空を見上げ、寂しそうに眉を下げる春鈴。
すると家の方からギュー! ギュッ、ギュッ! と懐かしい声が聞こえてきた。
「! イーミン! リンリン!」
そう言いながら家のほうを振り返った春鈴の顔やお腹に、フェイロンたちが突撃してきた。
美羽蘭と共に春鈴を出迎えてくれたフェイロンたちはブンブンとシッポを振り回し、春鈴の顔や耳、髪までもをペロペロと舐め回す。
「うわっ⁉︎ ちょっ……やめっ」
「ほれほれ、それぐらいにしておあげ……」
フェイロンたちにもみくちゃにされ、たたらを踏んでいる春鈴に笑いながら、美羽蘭がフェイロンたちを引き離す。
「――ばっちゃっ!」
「おかえり。 疲れただろう? ちょっと早いが夕飯にしようさね。 ……今日はごちそうだよ」
美羽蘭は春鈴の乱れた髪を丁寧に梳きながら、優しい顔つきで労わるように言った。
「っ――ただいまぁっ!」
そう言いながら美羽蘭に突進するように抱きつく春鈴。
今度は美羽蘭はたたらを踏み――……しかし、それでもしっかりと春鈴を受け止めた。
「おっと! ……まったくお前は……たかだか数週間だろうに……」
「ただいまあぁぁぁっ!」
春鈴とて里に行っていた期間中、泣くほど寂しかったわけでも、辛かったわけでもなかったのだが……こうして家に帰ってこれたことにたまらなく安心感を覚えていた。
そして……祖母に優しく抱きしめられたことで緊張の糸が切れ、自分でも自覚がないままに大声をあげて泣きじゃくっていたのだ。
しばらくエグエグと泣きつづけていた春鈴。
しかし、ひとしきり騒いですでに飽きてしまったフェイロンたちが自由気ままに家に帰って行くのを見た美羽蘭は、肩をすくめながら春鈴の背中をポンポンと叩きながら口を開く。
「――いい加減泣きやんだらどうだい? 夕飯にしよう、このままだとイーミンたちに全部食われちまうよ?」
「――やだっ!」
その言葉に泣きはらした顔をあげ鼻声で答える。
そして祖母に呆れられながらも涙を拭いてもらい、鼻をかんでもらい、存分に甘やかされまんざらでもない春鈴。
――その日春鈴は、久々の我が家を、そして祖母の手料理を大いに堪能したのだった――
(――そりゃ龍族からしたら、ひとっ飛びで来られちゃうすぐ隣の山なんですけど……今日でサヨナラなんだからもっと寂しがってくれたっていいのに……)
春鈴は遠ざかって行く優炎たちを見送りながら、むぅ……と、再び口を尖らせた。
(……長く生きる龍族からしたらこの数週間なんて、私にとっての市場で隣になった人と仲良くなっちゃった! ……とかと同じ感覚なのかな……?)
「――そうなんだとしたら寂しいなぁ……」
龍族の人たちに連れられ、ほんの数分で着いた蓮歌山。
わざわざ家まで送ってくれたのだから……と、春鈴は優炎たちを、お茶に誘ったのだが、仕事を理由に断わられすぐに里へととんぼ返りしていった。
「――前は喜んでお茶飲んでってくれたのになー……」
自宅近くの空き地で一人たたずみながら空を見上げ、寂しそうに眉を下げる春鈴。
すると家の方からギュー! ギュッ、ギュッ! と懐かしい声が聞こえてきた。
「! イーミン! リンリン!」
そう言いながら家のほうを振り返った春鈴の顔やお腹に、フェイロンたちが突撃してきた。
美羽蘭と共に春鈴を出迎えてくれたフェイロンたちはブンブンとシッポを振り回し、春鈴の顔や耳、髪までもをペロペロと舐め回す。
「うわっ⁉︎ ちょっ……やめっ」
「ほれほれ、それぐらいにしておあげ……」
フェイロンたちにもみくちゃにされ、たたらを踏んでいる春鈴に笑いながら、美羽蘭がフェイロンたちを引き離す。
「――ばっちゃっ!」
「おかえり。 疲れただろう? ちょっと早いが夕飯にしようさね。 ……今日はごちそうだよ」
美羽蘭は春鈴の乱れた髪を丁寧に梳きながら、優しい顔つきで労わるように言った。
「っ――ただいまぁっ!」
そう言いながら美羽蘭に突進するように抱きつく春鈴。
今度は美羽蘭はたたらを踏み――……しかし、それでもしっかりと春鈴を受け止めた。
「おっと! ……まったくお前は……たかだか数週間だろうに……」
「ただいまあぁぁぁっ!」
春鈴とて里に行っていた期間中、泣くほど寂しかったわけでも、辛かったわけでもなかったのだが……こうして家に帰ってこれたことにたまらなく安心感を覚えていた。
そして……祖母に優しく抱きしめられたことで緊張の糸が切れ、自分でも自覚がないままに大声をあげて泣きじゃくっていたのだ。
しばらくエグエグと泣きつづけていた春鈴。
しかし、ひとしきり騒いですでに飽きてしまったフェイロンたちが自由気ままに家に帰って行くのを見た美羽蘭は、肩をすくめながら春鈴の背中をポンポンと叩きながら口を開く。
「――いい加減泣きやんだらどうだい? 夕飯にしよう、このままだとイーミンたちに全部食われちまうよ?」
「――やだっ!」
その言葉に泣きはらした顔をあげ鼻声で答える。
そして祖母に呆れられながらも涙を拭いてもらい、鼻をかんでもらい、存分に甘やかされまんざらでもない春鈴。
――その日春鈴は、久々の我が家を、そして祖母の手料理を大いに堪能したのだった――
0
あなたにおすすめの小説
家出を決行した結果
棗
恋愛
フィービーの婚約者ミゲルには大切な幼馴染がいる。病弱な幼馴染をいつも優先するミゲルや母が亡くなって以降溝が出来てしまった父と兄との関係にフィービーは疲れていた。
デートの約束をしてもいつも直前になって幼馴染を理由にキャンセルされ、幼馴染にしか感情を見せないミゲルを、フィービーを見ようとしない父や兄を捨てる決心をしたフィービーは侍女や執事の手を借りて家出を決行した。
自分を誰も知らない遠い場所へ行ったフィービーは、新しい人生の幕開けに期待に胸を躍らせた。
※なろうさんにも公開しています。
【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました【完結】
iru
恋愛
第19回 恋愛小説大賞エントリーしています。ぜひ1票お願いします。
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
三年の想いは小瓶の中に
月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。
※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。
結婚式をボイコットした王女
椿森
恋愛
請われて隣国の王太子の元に嫁ぐこととなった、王女のナルシア。
しかし、婚姻の儀の直前に王太子が不貞とも言える行動をしたためにボイコットすることにした。もちろん、婚約は解消させていただきます。
※初投稿のため生暖か目で見てくださると幸いです※
1/9:一応、本編完結です。今後、このお話に至るまでを書いていこうと思います。
1/17:王太子の名前を修正しました!申し訳ございませんでした···( ´ཫ`)
とっていただく責任などありません
まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、
団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。
この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!?
ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。
責任を取らなければとセルフイスから、
追いかけられる羽目に。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる