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◇
晩御飯を食べ終わりお風呂も済ませた春鈴を美羽蘭が自室へと呼んだ。
首をかしげながらも祖母の後についていく春鈴――そんな春鈴が美羽蘭の部屋で見たものは――
「私の稀布!」
春鈴の目の前には二反の布と、一着の外套がかけられていた。
きらめく白から淡い桃色に染まる色合いで、まるで内側から光を放っているかのように輝く布と、薄い青色から薄い紫色に変わっていく布でこちらは上品で落ち着いた輝きの布だった。
そして最後は紺色の布地にまるで星空のような輝きの入った外套で、裾や袖口、大きめの襟元には白い輝きを放つ糸で細かい刺繍が入っていた。
そんな沢山の稀布を前に、春鈴は瞳をこれでもかと輝かせていた。
「ふふふっ わたしゃあんまり色を変えるのは得意じゃないんだがねぇ……だが春鈴は好きだろう?」
「大好き! ……――あれ?」
春鈴は目の前の美しい稀布たちを見つめながら、かすかに感じる違和感に首を傾げる。
「どうしたい?」
「いや……ん……?」
春鈴は戸惑いながらも、しきりに首を傾げながら違和感の正体を探った。
(なんだ……? 稀布はすごく綺麗だし、キラッキラだし文句なんかない。 この刺繍だって私には絶対出来ないぐらい細かくて、ものすごく手も込んでる……――手が……込んでる……?)
「……なにか気に入らないのかい?」
美羽蘭は眉をひそめながらも少し不安そうに、首を傾げ続ける春鈴に声をかけた。
「……凄く可愛いんだけど――あのさ……?」
「なんだい?」
「――これ、数週間で作った?」
「……――ん?」
春鈴の問いかけに美羽蘭は顔色を隠すかのように頬に手を当てながら、少々わざとらしく聞き返した。
「いや……私へのご褒美で二反と外套……しかも刺繍付き――これ私が里に行ってる間に織ったってことでしょ?」
(そもそも行く前、ばっちゃは機織りなんてしてなかったし、だいたいうち布織り機は一台しかない。 ――その一台は私がずっと使ってて……)
「――なんだろうね……? 最近、物覚えが……」
春鈴の視線から逃れるように、美羽蘭はスーッとそしらぬ顔つきで視線を逸らした。
「――腰痛くなるんじゃなかったのー⁉︎」
ジタバタと駄々をこねるように足踏みしながら春鈴は祖母に抗議する。
「――いやー……耳もねぇ……?」
「ずっと嘘ついてたってことじゃん!」
「――ふん! こんな年寄りをこき使おううとするんじゃないよっ!」
「ずるぅー……」
ぶぅーっと、頬を目一杯膨らませながらジト目で美羽蘭を睨む春鈴。
「――そんなにムクれなさんな。 これからは頑張らせてもらうとも」
「ぇ……どういう……?」
「――これからはしっかり金になるんだろう?」
そう言ってニヤリと笑う祖母の瞳に、商売人としての本気を感じ取り春鈴はほほを引きつらせた。
「――さて明日から忙しくなるさね。なんたって二人分の糸を用意するところからだからね」
「! 明日から一緒に織るの⁉︎」
嬉しそうに聞き返す春鈴。
小さい頃は祖母の隣で同じ歌を歌いながら布を織る練習をしていた。
祖母の歌は心地よく、春鈴の歌すらも一段も二弾もうまくなったような気がした――そんな楽しかった記憶を覚えていたのだ。
「イヤかい?」
「――ううん! 楽しみっ!」
そう言うと春鈴は甘えるように抱きついた。
「まったく……まだまだ子供だねぇ……」
呆れたようにそう言いながらも、美羽蘭は春鈴の背中を叩きながら嬉しそうに微笑むのだった――
晩御飯を食べ終わりお風呂も済ませた春鈴を美羽蘭が自室へと呼んだ。
首をかしげながらも祖母の後についていく春鈴――そんな春鈴が美羽蘭の部屋で見たものは――
「私の稀布!」
春鈴の目の前には二反の布と、一着の外套がかけられていた。
きらめく白から淡い桃色に染まる色合いで、まるで内側から光を放っているかのように輝く布と、薄い青色から薄い紫色に変わっていく布でこちらは上品で落ち着いた輝きの布だった。
そして最後は紺色の布地にまるで星空のような輝きの入った外套で、裾や袖口、大きめの襟元には白い輝きを放つ糸で細かい刺繍が入っていた。
そんな沢山の稀布を前に、春鈴は瞳をこれでもかと輝かせていた。
「ふふふっ わたしゃあんまり色を変えるのは得意じゃないんだがねぇ……だが春鈴は好きだろう?」
「大好き! ……――あれ?」
春鈴は目の前の美しい稀布たちを見つめながら、かすかに感じる違和感に首を傾げる。
「どうしたい?」
「いや……ん……?」
春鈴は戸惑いながらも、しきりに首を傾げながら違和感の正体を探った。
(なんだ……? 稀布はすごく綺麗だし、キラッキラだし文句なんかない。 この刺繍だって私には絶対出来ないぐらい細かくて、ものすごく手も込んでる……――手が……込んでる……?)
「……なにか気に入らないのかい?」
美羽蘭は眉をひそめながらも少し不安そうに、首を傾げ続ける春鈴に声をかけた。
「……凄く可愛いんだけど――あのさ……?」
「なんだい?」
「――これ、数週間で作った?」
「……――ん?」
春鈴の問いかけに美羽蘭は顔色を隠すかのように頬に手を当てながら、少々わざとらしく聞き返した。
「いや……私へのご褒美で二反と外套……しかも刺繍付き――これ私が里に行ってる間に織ったってことでしょ?」
(そもそも行く前、ばっちゃは機織りなんてしてなかったし、だいたいうち布織り機は一台しかない。 ――その一台は私がずっと使ってて……)
「――なんだろうね……? 最近、物覚えが……」
春鈴の視線から逃れるように、美羽蘭はスーッとそしらぬ顔つきで視線を逸らした。
「――腰痛くなるんじゃなかったのー⁉︎」
ジタバタと駄々をこねるように足踏みしながら春鈴は祖母に抗議する。
「――いやー……耳もねぇ……?」
「ずっと嘘ついてたってことじゃん!」
「――ふん! こんな年寄りをこき使おううとするんじゃないよっ!」
「ずるぅー……」
ぶぅーっと、頬を目一杯膨らませながらジト目で美羽蘭を睨む春鈴。
「――そんなにムクれなさんな。 これからは頑張らせてもらうとも」
「ぇ……どういう……?」
「――これからはしっかり金になるんだろう?」
そう言ってニヤリと笑う祖母の瞳に、商売人としての本気を感じ取り春鈴はほほを引きつらせた。
「――さて明日から忙しくなるさね。なんたって二人分の糸を用意するところからだからね」
「! 明日から一緒に織るの⁉︎」
嬉しそうに聞き返す春鈴。
小さい頃は祖母の隣で同じ歌を歌いながら布を織る練習をしていた。
祖母の歌は心地よく、春鈴の歌すらも一段も二弾もうまくなったような気がした――そんな楽しかった記憶を覚えていたのだ。
「イヤかい?」
「――ううん! 楽しみっ!」
そう言うと春鈴は甘えるように抱きついた。
「まったく……まだまだ子供だねぇ……」
呆れたようにそう言いながらも、美羽蘭は春鈴の背中を叩きながら嬉しそうに微笑むのだった――
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