魔王と呼ばれた勇者、或いは勇者と呼ばれた魔王 〜最強の魔剣で自由に生きる! 金も女も、国さえも思いのまま!! …でも何かが違うみたいです

ちありや

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第57話 審査

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 俺の目の前で大上段に剣を構えて振り下ろそうとする王様。王様自身から強い殺気は感じないが、その手にした剣からは何とも表現の難しい『気』が発せられていた様に感じた。

 それは乗り物酔いの様な、或いは急性シンナー中毒の様な… はたまた吐瀉物の匂いを嗅がされたかの様な… でなければ石鹸水を直に口に含んだ様な… とにかく全体的に『神経に障って気持ちが悪くなる』系の感覚に襲われた。

 くそっ、何なんだこれは…? 魔法か? それとも毒か? とにかくこの変な感覚のせいで俺の反応が一瞬遅れてしまった。
 高く振り上げられた王様の剣が俺を目指して落とされる。今から聖剣を抜いて防御できるか? それに剣を抜いたら犯罪だし、王様の前なら尚の事ヤバい状況になる。

 かと言ってこのまま黙って斬られる訳にはいかない。とにかく身体全体を覆う様な不快感が目眩めまいを誘って、立ち上がる事すらままならない。
 そうこうしているうちに王様の剣が俺の頭上に振り下ろされる。聖剣のバリアは発動するのか? 下手したらこのまま訳も分からずに斬られて御仕舞い、なんて事は無いよな…?

 その時、俺と王様の間に不意に何かが差し込まれた。霞む目で見てみるとそれは、両腕を大の字に伸ばして俺の盾になろうと躍り出てきたティリティアだった。

「へ、陛下… おたわむれが過ぎます! 私共は陛下に招聘されて参じた身です。理由も告げずに斬り掛かるのは、高貴な振る舞いとは思えませぬ!」

 立ち上がれなかった俺の目の前にはティリティアの細めの尻があり、その先でティリティアは王様を相手に必死で俺を庇っている。
 やっぱりティリティアこいつは強い女だよな。腕っぷしではなく精神力的な意味では、クロニアやベルモよりも余程腹が据わっている。

 王様も俺ならまだしもティリティアをいきなり切り捨てるつもりは無かったようで、ティリティアに軽く微笑むと振り上げた剣を下に降ろしてくれた。

「ふむ、そこの者はかなりの手練れだと聞いたものでな。ふと冒険者むかしの血が騒いでしまったようだ。許せ、ティリティアよ…」

 絶対に嘘だ。王様の俺を見る目は、試合を楽しむアスリートの目ではなく、敵対者を処罰する者の目だった。
 これはどういう事なんだ? 俺は決して王様から恨みを買うような真似はしていない… はずだ。

「陛下、恐れながら本日の謁見の目的をお聞かせ願いたく存じます。私共をなぶり者にする為に、わざわざ呼びつける様な御方おんかたでは無いと存じ上げております…」

 ティリティアが再び膝をついて王様に質問する。そうだよ、そもそもこのイベントは何なんだよ? 俺の仲間にヘコヘコさせて、つまらない理由だったら俺もキレちゃうかも知れないぞ?

「ねぇカーノ、も大体分かったから、もう帰して上げてもいいんじゃない?」

 声を上げたのは先程玉座の周りにワラワラ出てきた『観衆』の1人、ローブを着た若い女だ。

 その言葉に無言で頷く教会の神官風の男。共にいる鎧の戦士は微動だにせず、犯罪者風の男は目だけ笑って面白そうに俺を見つめている。

「おぉ、そうか? で分かるのか… 俺はどうも『この手』の事がよく分からなくてな。お前らが居てくれて助かるよ」

 こいつらは一体何の話をしているんだ? 少しはこっちにも説明があって然るべきじゃないのか?
 俺もイライラが募ってきて、不満の一声でも上げようと口を開いた所で、王様が俺を見てニヤリとして話しかけてきた。

「おいわらし、お前さんこの『聖剣ラグロン』を見てどう思った? 正直に言ってみな」

 どうって… そりゃめちゃくちゃ気持ち悪くて吐きそうだよ。もしかしてこの不快感の正体は、王様の持つ剣の仕業なのか…? だとしたらさっさと引っ込めてもらいたいんだけどな……。
 
「『どう』って、そりゃ…」

 思った事を口にしようとした所で、俺に電流が走ったような鋭い感覚が起きた。何者かが頭の中に『その先を言うな』と警告してきたのだ。
 明確な言葉じゃない。何と言うか王様に対する『拒絶』の意思が押し寄せてきたみたいな感覚だった。

「そりゃ… 『別に何とも』無いですよ…」

 思っていた事と真逆の言葉が俺の口から出た。そんな返答をしようとは全く考えていなかった。まるで口が勝手に動いたみたいで、不快感から集中が途切れていた事もあって、まるで悪夢の中で過ごしている気分だ。

「そうか… いや実はお前が『魔の者』との疑惑があってな。本当に魔の者なら、この聖剣の前で正気を保っていられないだろうと思い試させてもらった。不躾ぶしつけな真似をした事を詫びよう」

 ここで王様のネタバラシが来た。もしさっき「気持ち悪いです」と答えていたらどうなっていただろう?
 ていうか、これで引っかかるってまるで俺が『魔の者』みたいじゃないか。

 もし俺の剣が本当に『魔剣』だと言うのなら、『聖剣』をくれたあの女神は一体何を考えているのか? そもそもこの世界の『俺』って何なのか…? 今までの違和感が一つにまとまっていく気がした。だがそれが何なのかは今の俺には全然把握できる気がしない……。

 物思いに耽っている暇はない。俺は、いや俺達は今、予想以上に『ヤバい』状況にあるらしい。
  
 王様の手にも『勇者ショウ』とはまた違う『聖剣』があるという事だ。もしこのまま後ろの強そうな『観衆』さん達を交えて一戦やらかす事になったら、俺もティリティアも無事では帰れなかっただろう……。

「あぁ、紹介が遅れたな。チャロアイトは知っているよな? それ以外の後ろの奴らは俺の冒険者げんえき時代の仲間ツレだ。お前さんの事を見極めたかったらしい」

 俺の視線の先を読んだのか、王様がようやく『観衆』の説明をしてくれた。なるほど。国を建てる程の活躍をした冒険者の先輩方でしたか。チャロアイトが借りてきた猫みたいに大人しい辺り、きっと他の全員が『勇者』レベルに強いのだろう。下手に手を出さないで正解だったな……。

「お前の事情はよく分からんから、俺なりのやり方で測らせてもらうぞ。だから…」

 王様は一歩引いて再び聖剣とやらを構える。うぅ、マジで吐きそうだ……。

「さぁ、剣を抜け。封印の事なら気にするな、王の勅命で特別許可を与える。それに多少の怪我なら苦も無く治してくれる治癒師も居る…」

 王様は後ろの神官ぽい人をチラリと見て俺に向き直る。神官ぽい人は『ヤレヤレ』といった感じでウンザリした顔をしていたから、王様はこういう『遊び』をしょっちゅうする人なのだろう。

「ちょっと今、手加減できる状態じゃ無いんですけど、良いですかね…?」

 俺も立ち上がり背中の剣を抜く。腹が立っているのと気持ちが悪いののダブルパンチでまるで頭が働かない。
 もしここで俺が王様を斬っちゃっても恨みっこなしでお願いしますよっ!!
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