魔王と呼ばれた勇者、或いは勇者と呼ばれた魔王 〜最強の魔剣で自由に生きる! 金も女も、国さえも思いのまま!! …でも何かが違うみたいです

ちありや

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第79話 涙

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 教会からの帰り道、どうにも好ましくない情報ばかりを掴まされた俺とティリティアは、隣り合ったまま共に足取り重く歩いていた。

「なぁティリティア…」

「はい、何でしょうか? 勇者様…」

 ティリティアは初めて会った時から俺の事を『勇者様』と呼ぶ。実際の俺は勇者どころか、この世界に混乱をもたらす『悪魔』或いは『魔王』というべき存在だったのに……。

「何て言うか、色々隠していてゴメン… 変な事を言って驚かせたくなくて… 騙すつもりなんて全然無かったんだよ。だからさ…」

 ここまで言った所でティリティアが俺の手を握ってきた。そのまま腕を取って自分の腕を絡ませてくる。その表情は凄く穏やかで幸せそうな笑顔、今の俺には以前会った聖女ホムラよりも今のティリティアの方がよほど聖女然として見えた。

「あぁ… やはり勇者様と触れ合っていると、とても幸せな気持ちになれますね… 今こうしていても腹の奥の熱い気持ちが弾けそうになりますわ…」

 ティリティアはイタズラっ子みたいなニヤリとした表情で俺を見つめる。
 ただ俺は、どう反応したものか判断できずに往来の真ん中で立ち止まり、しばし気まずい雰囲気が流れる。

「勇者様が『何やら怪しげな術か薬でわたくし達をたぶらかしていたのだろう』という事は薄々気が付いていました。その事についてクロニアと話し合った事もあります…」

 マジか… やはりティリティアは頭の切れる女だ。俺の持つ聖剣… いや魔剣の『魅了』の力にノーヒントで辿り着いていたのだ。
 
 俺自身もこの『魅了』の力を過信して、女達が疑問を持つなんて事にすら、一切の思いが至っていなかった。

「でもクロニア達はともかく、私が勇者様に身を預けたのは、『淫奔』の魔力とやらに絡め取られた訳ではありません。穢らわしいゴブリンの体液が体に滴る私を、勇者様は嫌な顔一つせずに受け入れてくださった… 私は私の意志で勇者様の隣に居りますし、これからも一緒です…」

「ティリティア…」

 かつて俺の事をこんなにも慕ってくれた人が居ただろうか? 周囲の全員、それこそ実の親からすらも疎まれて排斥され、果てはイジメの末に死亡するという、救いも何も無い人生を送ってきた俺に……。

 不意に涙が溢れて、人通りもはばからずに、我慢しきれずに俺は泣き出してしまった。虐げられてきた俺に笑顔を向けてくれるティリティアがとても愛おしい。俺は人目も憚らずティリティアを強く抱きしめた。

 抱きしめた際に力が強すぎたのか、ティリティアが「あっ」と吐息を漏らす。その声すらも限りなく愛おしく、俺達は往来で熱く抱き合った。

「今ハッキリと気がついたよ。ティリティア、心の底からお前が大好きだ。ずっと一緒に居たい。チビで、デブで、不細工で、優柔不断で… とにかくこんな冴えない俺だけど、頑張って幸せにするから!」

 涙でグシャグシャな顔で言っても締まらないよなぁ、とは思いながらも俺は全力で気持ちを吐き出した。

 ティリティアは一瞬驚いた顔をしたが、すぐにまた先程の聖女の顔になって、両手で俺の顔を包みそのまま口づけをした。

 突然の公開プロポーズショーに足を止めていた周りの通行人も大喝采で、俺達を中心に十重二十重とえはたえに拍手や祝福の言葉、囃し立てる口笛が巻き起こっていった。

 俺は腕の中のティリティアが緊張から体を固くしているのを感じながら、今までに触れた事のない幸せを噛み締めていた。俺はこの時の幸せそうなティリティアの顔を一生忘れる事は無いだろう……。

 ☆ 
 
わたくし、思うのですけど、クロニアやベルモさん達には『魅了』の話はしない方が良いと思いますわ…」

 通行人達の祝福も落ち着いて再び歩き出した俺達だが、ふと何かを思い出した様にティリティアが足を止めて口を開いた。
 俺はもう隠し事とかしたくないからぶっちゃけてしまおうか? とも思っていたので、ティリティアのこの提案は少々意外でもあった。

「あの2人と私とでは、貴方に抱かれた経緯が少し違います。2人とも半ば意に沿わない形で関係を持たれたのではありませんか…?」

 うぐっ… 確かにその通り。クロニアの場合は『事故』と言っても差し支えないだろうが、ベルモに関しては完全に『作戦』として魅了を使っている。状況的に言い訳の余地はない。

「素直に『魅了』の事を話してしまったら、彼女達は貴方に『裏切られた』と感じ、見切りを付けて何処かへ去ってしまうかも知れません。幸いお二人共に物事を深く考える性格ではありませんし、このまま『魅了』させておくのが良策だと思いますわ…」

 そういうものなのかな…? それはそれで裏切り行為な気もするが、ティリティアの言うリスクも俺個人の楽観的な予想で無視して良いものではない。

「そしてあの魔法使い… チャロアイトさんはどこまでご存じなんですの? もし彼女が全てを知っていて私たちと共に行動しているのなら、彼女はこの先『障害』にしかならないかと…」

 ティリティアはずっとチャロアイトを敵視している。これはチャロアイトがアイトゥーシア教会で禁じられている魔道の使い手である事を度外視しても、ティリティアの心は変わらないだろう。

「…えっと、チャロアイトには全部話してある。そうでないと本当に王国全てが敵になりそうな雰囲気だったからね… 彼女に根回しさせて尚、謁見の時の雰囲気だから、俺がどれだけ警戒されているのかよく分かる構図だよな…」

 チャロアイトが、俺が何かやらかした時の『安全弁』として王から送りまれた裏事情は内緒にした。それを聞いたらティリティアは脇目も振らずチャロアイトの元へ直行し、殺そうとするだろう。

「そうですか… ですわね…」

 ティリティアはそれだけしか答えなかったが、俯いた彼女の瞳の奥に灯った暗い炎の煌めきだけは、鈍感な俺にもしっかりと感じ取る事が出来た……。
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