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第96話 簡易裁判
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「とりあえず姐さんが落ち着くまで、俺たちが話して事情を聞いておくから、モンモンと兵隊のねーちゃんは別室で待機しててくんねぇか」
私やモンモンの事をさっぱり忘れている様子のベルモに私達が話しかけても彼女を興奮させるだけだろう。ここは傭兵に任せて一度退くしかあるまい。
☆
「ベルモ姐さん、クロニアねーちゃんだけじゃなくてボクの事も分からないみたいだったね。元気にはなったみたいだけど、これからどうしよう…?」
モンモンがぐったりとした様子で、独り言の様に呟いている。彼は幼い頃からベルモと寝食を共にしてきた人物だ。ベルモを母の様に慕い、家族同然に暮らしてきたのに、存在を忘れられたばかりか敵対者として処断される寸前だった。
これではさすがに普段悩みの無い様な態度を取っているモンモンも、かなり堪えた物と思われる。私も彼に掛けるべき言葉が見つからない。
「…ベルモがちゃんと話が出来るようになれば、幾ばくかでも情報は得られると思う。単に私達だけの記憶が無くなっているのか、私達と出会って以降の記憶が全て無くなったのか、薬の副作用でただ単に錯乱しているだけなのか…?」
私にも状況が全くと言っていい程に理解できていない。このままではベルモを連れ帰るどころか、私達の首が王都に送り付けられかねない。
何か手はないのか…? こんな時にチャロアイトがこの場に居たならば、得意の魔法でどうにか出来たりしないだろうか?
「まぁ『胸の患いを治す』という目的は果たせたみたいだから、最悪ボクらがこのまま里を去って『お互いに忘れる』って話になっても、それはそれでアリなんだよね…」
モンモンが弱々しく呟く。寂しい結末ではあるが、ベルモ死亡という最悪の事態は回避できたのだ。これ以上は贅沢だという考えも説得力がある。
私とモンモン、互いの思考が「このまま去るもやむ無し」という答えに至って、重い沈黙がこの場を支配していた所で、傭兵の1人が部屋のドアをノックする音が響いた。
☆
「とりあえずアタイ以外の全員が口を揃えて『色黒の女は恩人だ』『ガタイの良い兄ちゃんはモンモンだ』って力説してくるんでね、話だけは聞いてやるよ」
村の最奥にあるベルモ用の司令室だろうか? ちょっとした会議が出来そうな広い部屋に呼ばれて、モンモンと共に中央に立たされる。真正面にベルモ、周囲には私達を左右から挟む様に、傭兵の隊長格がズラリと並んでいる。まるで裁判の様で、ゆっくり話せる状況では無さそうだ。
「まずモンモン」
おもむろに発したベルモの声で、ただでさえ緊張していたモンモンが慌てた感じで「は、はいっ!」と答えた。
「お前が鬼族だってのは分かった。でもアタイらの知るモンモンだっていう証拠が出せるのかい?」
モンモンはチャロアイトの薬の副作用で、自然にはあり得ない早さで子供から大人への急激な成長を見せた。事情を知る私達でさえ仰天したのだから、いきなり成長したモンモンを見せられて驚いているのは、ベルモだけでなく傭兵達のほとんどがそうだった。
「証拠なんて無いよ… でもこの一対の剣はベルモ姐さんから預かった物だよ? これで思い出してくれないかな…?」
ベルモに問われて力無く肩を落とすモンモンだったが、かつてベルモが戦線離脱する際に託された彼女の小剣を取り出して見せた。
「あ!? おいモンモンてめぇ! 武器は預かっていたのにまた倉庫からくすねて来やがったな!!」
傭兵の1人がモンモンに迫るが、当のモンモンは涼しい顔で受け流している。全くこの子は……。
「ハハハッ! その手癖の悪さは確かにモンモンだねぇ。見覚えのない剣だけど、アタイの持ち物だってのかい? ちょっと見せてみな」
モンモンは剣をベルモに渡し、ベルモは受け取った剣を上下左右から見分している。
「覚えは無いけど、材質は上等だし確かに手にしっくりくる作りをしているねぇ… うん、この剣は気に入ったよ。これをアタイにくれるならモンモンとしてじゃなくて新入りとして迎えてやっても良いよ」
「くれるも何も元々ベルモ姐さんの持ち物だもん、ボクはただ返すだけだよ…」
どうやらモンモンは、ベルモの剣が切っ掛けで信用を勝ち取った様子だ。まぁベルモはそういう現金な所のある女だったな。
「次はお前だよ南方の女。お前もアタイの関係者だって言い張るのかい…?」
さて、私にはベルモから預かった品物など無いのだが、どうやって相対すれば良いのだろう?
「私は黒衣の太った男と共にここに来た。そこで彼が森の『熊』と呼ばれる怪物を退治して、貴女と共にガルソム侯爵の元まで同行し、根無し草だった貴方達『盗賊団』を『開拓傭兵団』に格上げし、ここに住める法的根拠をお膳立てした」
この件で実際に尽力したのは私よりもティリティア様なのだが、今は余計な情報を増やさない方が良いだろうな。
私の言葉に周りの傭兵達は頷きながら聞いてくれているのだが、肝心のベルモが不満そうな顔をしている。
「確かにいつの間にか『熊』は倒されたって聞くし、いつの間にか寝床も立派になってる… アタイの記憶がどこかからすっ飛んでいるのは紛れも無い事実なんだろうね…」
ベルモは記憶障害を起こしているだけで、性格や本質が変わってしまった訳では無い。警戒心は人一倍強いが、一度打ち解ければ家族の様に振る舞い扱ってくれる。もう一押しだ。
「ベルモさん、貴女はどこまで覚えているのか? 我々とゴブリンの洞窟で大怪我を負った事や、『熊』の次に現れた『蛇』との戦い等、我々と旅した記憶は丸ごと無くなってしまったのか…?」
ベルモは答えなかった。顔をしかめ何かを思い出そうとしても、何も思い出せない苦しさが彼女を支配している様だった。
「…何にも思い出せないよ。一体アタイはどうなっちまったんだろうねぇ…?」
頭を抱えて苦悩するベルモ。私から彼女にしてやれる事はもうきっと無いのだろう。
ここからのベルモの選択が最終判断となる。私とモンモンの処断は無いと信じたいが、まだ完全に安心できる状態とは言い切れない。いざとなったら逃げ道の確保もしておかなければ……。
「クロニアと一緒に来た、1人であのクソ強い『熊』を倒したって言う噂の剣士にも会ってみたいねぇ。そしたら何か思い出すかも知れないしね…」
お、これは僥倖であったかも知れない。我々の任務は「ベルモに薬を飲ませ、可能ならば一党に復帰させる」事であったが、今のベルモのセリフはその完遂を保証するものでは無かろうか?
「ねぇねぇ、ベルモ姐さんにまたこの薬を飲ませたら、飛んじゃった記憶が戻ったりしないかな…?」
モンモンが私に耳打ちする。う~ん、それはちょっとどうなのだろうか…?
私やモンモンの事をさっぱり忘れている様子のベルモに私達が話しかけても彼女を興奮させるだけだろう。ここは傭兵に任せて一度退くしかあるまい。
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「ベルモ姐さん、クロニアねーちゃんだけじゃなくてボクの事も分からないみたいだったね。元気にはなったみたいだけど、これからどうしよう…?」
モンモンがぐったりとした様子で、独り言の様に呟いている。彼は幼い頃からベルモと寝食を共にしてきた人物だ。ベルモを母の様に慕い、家族同然に暮らしてきたのに、存在を忘れられたばかりか敵対者として処断される寸前だった。
これではさすがに普段悩みの無い様な態度を取っているモンモンも、かなり堪えた物と思われる。私も彼に掛けるべき言葉が見つからない。
「…ベルモがちゃんと話が出来るようになれば、幾ばくかでも情報は得られると思う。単に私達だけの記憶が無くなっているのか、私達と出会って以降の記憶が全て無くなったのか、薬の副作用でただ単に錯乱しているだけなのか…?」
私にも状況が全くと言っていい程に理解できていない。このままではベルモを連れ帰るどころか、私達の首が王都に送り付けられかねない。
何か手はないのか…? こんな時にチャロアイトがこの場に居たならば、得意の魔法でどうにか出来たりしないだろうか?
「まぁ『胸の患いを治す』という目的は果たせたみたいだから、最悪ボクらがこのまま里を去って『お互いに忘れる』って話になっても、それはそれでアリなんだよね…」
モンモンが弱々しく呟く。寂しい結末ではあるが、ベルモ死亡という最悪の事態は回避できたのだ。これ以上は贅沢だという考えも説得力がある。
私とモンモン、互いの思考が「このまま去るもやむ無し」という答えに至って、重い沈黙がこの場を支配していた所で、傭兵の1人が部屋のドアをノックする音が響いた。
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「とりあえずアタイ以外の全員が口を揃えて『色黒の女は恩人だ』『ガタイの良い兄ちゃんはモンモンだ』って力説してくるんでね、話だけは聞いてやるよ」
村の最奥にあるベルモ用の司令室だろうか? ちょっとした会議が出来そうな広い部屋に呼ばれて、モンモンと共に中央に立たされる。真正面にベルモ、周囲には私達を左右から挟む様に、傭兵の隊長格がズラリと並んでいる。まるで裁判の様で、ゆっくり話せる状況では無さそうだ。
「まずモンモン」
おもむろに発したベルモの声で、ただでさえ緊張していたモンモンが慌てた感じで「は、はいっ!」と答えた。
「お前が鬼族だってのは分かった。でもアタイらの知るモンモンだっていう証拠が出せるのかい?」
モンモンはチャロアイトの薬の副作用で、自然にはあり得ない早さで子供から大人への急激な成長を見せた。事情を知る私達でさえ仰天したのだから、いきなり成長したモンモンを見せられて驚いているのは、ベルモだけでなく傭兵達のほとんどがそうだった。
「証拠なんて無いよ… でもこの一対の剣はベルモ姐さんから預かった物だよ? これで思い出してくれないかな…?」
ベルモに問われて力無く肩を落とすモンモンだったが、かつてベルモが戦線離脱する際に託された彼女の小剣を取り出して見せた。
「あ!? おいモンモンてめぇ! 武器は預かっていたのにまた倉庫からくすねて来やがったな!!」
傭兵の1人がモンモンに迫るが、当のモンモンは涼しい顔で受け流している。全くこの子は……。
「ハハハッ! その手癖の悪さは確かにモンモンだねぇ。見覚えのない剣だけど、アタイの持ち物だってのかい? ちょっと見せてみな」
モンモンは剣をベルモに渡し、ベルモは受け取った剣を上下左右から見分している。
「覚えは無いけど、材質は上等だし確かに手にしっくりくる作りをしているねぇ… うん、この剣は気に入ったよ。これをアタイにくれるならモンモンとしてじゃなくて新入りとして迎えてやっても良いよ」
「くれるも何も元々ベルモ姐さんの持ち物だもん、ボクはただ返すだけだよ…」
どうやらモンモンは、ベルモの剣が切っ掛けで信用を勝ち取った様子だ。まぁベルモはそういう現金な所のある女だったな。
「次はお前だよ南方の女。お前もアタイの関係者だって言い張るのかい…?」
さて、私にはベルモから預かった品物など無いのだが、どうやって相対すれば良いのだろう?
「私は黒衣の太った男と共にここに来た。そこで彼が森の『熊』と呼ばれる怪物を退治して、貴女と共にガルソム侯爵の元まで同行し、根無し草だった貴方達『盗賊団』を『開拓傭兵団』に格上げし、ここに住める法的根拠をお膳立てした」
この件で実際に尽力したのは私よりもティリティア様なのだが、今は余計な情報を増やさない方が良いだろうな。
私の言葉に周りの傭兵達は頷きながら聞いてくれているのだが、肝心のベルモが不満そうな顔をしている。
「確かにいつの間にか『熊』は倒されたって聞くし、いつの間にか寝床も立派になってる… アタイの記憶がどこかからすっ飛んでいるのは紛れも無い事実なんだろうね…」
ベルモは記憶障害を起こしているだけで、性格や本質が変わってしまった訳では無い。警戒心は人一倍強いが、一度打ち解ければ家族の様に振る舞い扱ってくれる。もう一押しだ。
「ベルモさん、貴女はどこまで覚えているのか? 我々とゴブリンの洞窟で大怪我を負った事や、『熊』の次に現れた『蛇』との戦い等、我々と旅した記憶は丸ごと無くなってしまったのか…?」
ベルモは答えなかった。顔をしかめ何かを思い出そうとしても、何も思い出せない苦しさが彼女を支配している様だった。
「…何にも思い出せないよ。一体アタイはどうなっちまったんだろうねぇ…?」
頭を抱えて苦悩するベルモ。私から彼女にしてやれる事はもうきっと無いのだろう。
ここからのベルモの選択が最終判断となる。私とモンモンの処断は無いと信じたいが、まだ完全に安心できる状態とは言い切れない。いざとなったら逃げ道の確保もしておかなければ……。
「クロニアと一緒に来た、1人であのクソ強い『熊』を倒したって言う噂の剣士にも会ってみたいねぇ。そしたら何か思い出すかも知れないしね…」
お、これは僥倖であったかも知れない。我々の任務は「ベルモに薬を飲ませ、可能ならば一党に復帰させる」事であったが、今のベルモのセリフはその完遂を保証するものでは無かろうか?
「ねぇねぇ、ベルモ姐さんにまたこの薬を飲ませたら、飛んじゃった記憶が戻ったりしないかな…?」
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