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第97話 面通し
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俺達はリーナと別れ、ティリティアの故郷であるガルソム侯爵領へと向かっていた。
最終的にリーナから俺へと依頼されたのは『チャロアイトの護衛』だが、その過程でガドゥと遭遇する様であれば、その捕縛或いは討伐も任務に加わる。
「ガドゥの正体についてはまだまだ推測の域を出ない話なので、くれぐれも他言無用でお願いするわ。むしろその真相を探って来て欲しいのよね」
という事であるが、何度も言う様に俺は探索系の仕事は向いていない。探るのはあくまでも魔道士かつ間者であるチャロアイト、俺は荒事が起きた時の為の用心棒に過ぎない。
リーナもリーナで『勇者くん』と別の任務に入るから、当分こちらの補佐は出来ないそうだ。
かつてショウの一党に居たチャロアイトが俺の仲間になってからは、リーナが『魔道士の面』を被って『チャロアイト』として活動している。2人のチャロアイトが揃うと、ややこしい事この上ない。
それはともかく、世間では『勇者』と言えばアイトゥーシア教会から聖剣を賜ったショウの事だが、あいつらが何をしているのかは俺達には知らされていないし、皆目見当もつかない。
以前ショウ達の補佐をして欲しい旨の依頼があったが、現在に至るまで直接そのヘルプコールは来ていない。
当面は互いにそれぞれの任務をこなしているだけだろうが、いつか必ず俺とショウの道は交差する。その時に仲間同士でいられる保証は無い。俺等の目的が王権簒奪である事を知ったショウがどう動くか読めないからな。
☆
「なぁ、潜入任務は分かったけど、俺は具体的に何をすれば良いんだ? 仕事に慣れてるお前と違って、俺は自慢じゃないけど『潜入』とやらに向いた体型でも芸風でも無いんだけど…?」
馬に乗っての道すがら、俺は前を進むチャロアイトに問いかけた。正面切ってのチャンバラは得意だけど、逃げたり隠れたりの敏捷性を求められる仕事は正直苦手… というか未経験でまともに動ける自信がない。
チャロアイトは馬の歩調を緩めて俺に並ぶ。
「まず私は冒険者匠合職員イクチナ・バリガとして、ウルカイザーに『冒険者制度』を輸出しに行く体で活動するわ。貴方は『秘書』として行動を共にしてちょうだい。確かに目立つ風貌をしているけど、逆にウルカイザーで話題になれば件のガドゥ氏が釣れるかも知れないからね。そこはまぁ『運』よね…」
先の読めない仕事に、胃が痛そうな困惑顔で語るチャロアイト。重要な任務の割には運任せ、かつ時間制限ありという難易度はかなり高めになった訳だ。気持ちは分かる。
「困難なお務めですからね。まずはガルソムで補給としばしの休息をして、英気を養って下さいな」
ティリティアが優しい提案をしてくれる。確かにウルカイザーはバルジオンにとって『敵国』と言って差し支えない関係だ。年中無休で暗殺者が送り込まれてくる可能性は十分にある。
ゆっくり出来るうちにゆっくりしておきたいのは偽らざる本音だ。
☆
「さて、私とチャロアイトさんは侯爵の所へ挨拶に参りますので、勇者様は宿で待機してて下さいまし」
ティリティアにそう言われて俺は今、宿の部屋で1人寂しく何するでもなくボンヤリしていた。
なんでもティリティアの妊娠とそれに伴う俺の街頭プロポーズはかなり有名な事件らしく、「九割九分侯爵の耳にも届いている、しかもかなり脚色された形で」という情報が『幻夢兵団』~チャロアイトの部下から届いていた。
「今のままいきなり私と勇者様で屋敷に乗り込んだら、その場で捕縛されて、そのまま2人とも父に斬り殺されてしまいますわ」
だそうだ。まぁ家出同然に飛び出した娘が、どこの馬の骨とも知れない男の赤ん坊を宿して帰ってきたら父親なら怒り狂うよなぁ。それが貴族なら尚更だ。
という事なので、『冒険者匠合職員』であるイクチナ(チャロアイト)と先行し、婚約と妊娠の報告と共にチャロアイトからも俺の功績と人柄(?)をアピールしてくれるそうだ。
一応話が穏便に進んだら「迎えに行くので改めて侯爵に挨拶して欲しい」との事なので、ティリティアの使者が来るのか本人が来るのかは分からないが、待機している状態な訳だ。
俺としては現状手も口も出せないので、手持ち無沙汰なまま祈るしかやる事が無い。王都の教会で見た巨大な老婆を想像して祈りを捧げる。
そう言えば俺にアイトゥーシアの名を騙っていた若い女神… 《淫奔》の権能を持つとされる神の本名がまだ明らかになっていない。この辺も折を見て調べておきたい所だな……。
☆
やがてガルソム家の執事と名乗る初老の人物が俺を迎えに来た。そして俺は今、長テーブルを囲む家族と思しき人達と差し向かいで夕食を頂いている。
綺麗に切り揃えた髭を蓄えた端正な顔立ちの中年男性、これがティリティアの父親でこの地の領主であるガルソム侯爵なのだろう。
その両隣に年齢で言うなら変身前のモンモンと変身後のモンモンみたいな2人の男性が座っている。そのどちらもが俺に対して刺すような冷たい視線を投げかけていた。
ティリティアは俺の隣に座り、チャロアイトは何処へ行ったのか同席していない。
俺は前回、このガルソムの屋敷に来た時には侯爵とは面会していないので、今回が初対面となる。
上品で物静かな印象のある男性だが、周りを威圧する様な覇気を持っている様に感じられる人だ。
「ご紹介しますわ勇者様。父と右が兄のウォーレン、左が弟のハーディンです。お父様、こちらが…」
「ふむ、君が娘の情夫か。冒険者匠合の方より『功績目覚ましく最高位階となり貴族に列せられるのも間近』と聞いてはいる…」
娘の言葉を遮り侯爵が不機嫌そうな声を上げた。
「ティリティアは既に廃嫡しており財産の相続権は無い。今のティリティアは只の生臭な尼に過ぎないので、もはやガルソム領とは何の関係もない。ただ一度くらい『孫の父親』の顔を見ておこうと思ってな…」
侯爵は冷たい視線で俺を見つめる。言外に「用事は済んだから帰って良いよ」という雰囲気がありありと見受けられる。
俺の事はともかく、娘のティリティアにまで関心を無くしているのは少し冷たく感じられる。顔に出していないだけかも知れないけどさ。
「父上はともかく、我々兄弟は君の事を認めても許してもいないよ、冒険者くん?」
「全くです。聡明な姉上ともあろう人が選ぶ様な男とは思えませんね!」
お次は侯爵の両隣りの兄弟から、友好度ゼロな感じの辛辣な挨拶で迎えられる。こりゃ前途多難ぽいな……。
最終的にリーナから俺へと依頼されたのは『チャロアイトの護衛』だが、その過程でガドゥと遭遇する様であれば、その捕縛或いは討伐も任務に加わる。
「ガドゥの正体についてはまだまだ推測の域を出ない話なので、くれぐれも他言無用でお願いするわ。むしろその真相を探って来て欲しいのよね」
という事であるが、何度も言う様に俺は探索系の仕事は向いていない。探るのはあくまでも魔道士かつ間者であるチャロアイト、俺は荒事が起きた時の為の用心棒に過ぎない。
リーナもリーナで『勇者くん』と別の任務に入るから、当分こちらの補佐は出来ないそうだ。
かつてショウの一党に居たチャロアイトが俺の仲間になってからは、リーナが『魔道士の面』を被って『チャロアイト』として活動している。2人のチャロアイトが揃うと、ややこしい事この上ない。
それはともかく、世間では『勇者』と言えばアイトゥーシア教会から聖剣を賜ったショウの事だが、あいつらが何をしているのかは俺達には知らされていないし、皆目見当もつかない。
以前ショウ達の補佐をして欲しい旨の依頼があったが、現在に至るまで直接そのヘルプコールは来ていない。
当面は互いにそれぞれの任務をこなしているだけだろうが、いつか必ず俺とショウの道は交差する。その時に仲間同士でいられる保証は無い。俺等の目的が王権簒奪である事を知ったショウがどう動くか読めないからな。
☆
「なぁ、潜入任務は分かったけど、俺は具体的に何をすれば良いんだ? 仕事に慣れてるお前と違って、俺は自慢じゃないけど『潜入』とやらに向いた体型でも芸風でも無いんだけど…?」
馬に乗っての道すがら、俺は前を進むチャロアイトに問いかけた。正面切ってのチャンバラは得意だけど、逃げたり隠れたりの敏捷性を求められる仕事は正直苦手… というか未経験でまともに動ける自信がない。
チャロアイトは馬の歩調を緩めて俺に並ぶ。
「まず私は冒険者匠合職員イクチナ・バリガとして、ウルカイザーに『冒険者制度』を輸出しに行く体で活動するわ。貴方は『秘書』として行動を共にしてちょうだい。確かに目立つ風貌をしているけど、逆にウルカイザーで話題になれば件のガドゥ氏が釣れるかも知れないからね。そこはまぁ『運』よね…」
先の読めない仕事に、胃が痛そうな困惑顔で語るチャロアイト。重要な任務の割には運任せ、かつ時間制限ありという難易度はかなり高めになった訳だ。気持ちは分かる。
「困難なお務めですからね。まずはガルソムで補給としばしの休息をして、英気を養って下さいな」
ティリティアが優しい提案をしてくれる。確かにウルカイザーはバルジオンにとって『敵国』と言って差し支えない関係だ。年中無休で暗殺者が送り込まれてくる可能性は十分にある。
ゆっくり出来るうちにゆっくりしておきたいのは偽らざる本音だ。
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「さて、私とチャロアイトさんは侯爵の所へ挨拶に参りますので、勇者様は宿で待機してて下さいまし」
ティリティアにそう言われて俺は今、宿の部屋で1人寂しく何するでもなくボンヤリしていた。
なんでもティリティアの妊娠とそれに伴う俺の街頭プロポーズはかなり有名な事件らしく、「九割九分侯爵の耳にも届いている、しかもかなり脚色された形で」という情報が『幻夢兵団』~チャロアイトの部下から届いていた。
「今のままいきなり私と勇者様で屋敷に乗り込んだら、その場で捕縛されて、そのまま2人とも父に斬り殺されてしまいますわ」
だそうだ。まぁ家出同然に飛び出した娘が、どこの馬の骨とも知れない男の赤ん坊を宿して帰ってきたら父親なら怒り狂うよなぁ。それが貴族なら尚更だ。
という事なので、『冒険者匠合職員』であるイクチナ(チャロアイト)と先行し、婚約と妊娠の報告と共にチャロアイトからも俺の功績と人柄(?)をアピールしてくれるそうだ。
一応話が穏便に進んだら「迎えに行くので改めて侯爵に挨拶して欲しい」との事なので、ティリティアの使者が来るのか本人が来るのかは分からないが、待機している状態な訳だ。
俺としては現状手も口も出せないので、手持ち無沙汰なまま祈るしかやる事が無い。王都の教会で見た巨大な老婆を想像して祈りを捧げる。
そう言えば俺にアイトゥーシアの名を騙っていた若い女神… 《淫奔》の権能を持つとされる神の本名がまだ明らかになっていない。この辺も折を見て調べておきたい所だな……。
☆
やがてガルソム家の執事と名乗る初老の人物が俺を迎えに来た。そして俺は今、長テーブルを囲む家族と思しき人達と差し向かいで夕食を頂いている。
綺麗に切り揃えた髭を蓄えた端正な顔立ちの中年男性、これがティリティアの父親でこの地の領主であるガルソム侯爵なのだろう。
その両隣に年齢で言うなら変身前のモンモンと変身後のモンモンみたいな2人の男性が座っている。そのどちらもが俺に対して刺すような冷たい視線を投げかけていた。
ティリティアは俺の隣に座り、チャロアイトは何処へ行ったのか同席していない。
俺は前回、このガルソムの屋敷に来た時には侯爵とは面会していないので、今回が初対面となる。
上品で物静かな印象のある男性だが、周りを威圧する様な覇気を持っている様に感じられる人だ。
「ご紹介しますわ勇者様。父と右が兄のウォーレン、左が弟のハーディンです。お父様、こちらが…」
「ふむ、君が娘の情夫か。冒険者匠合の方より『功績目覚ましく最高位階となり貴族に列せられるのも間近』と聞いてはいる…」
娘の言葉を遮り侯爵が不機嫌そうな声を上げた。
「ティリティアは既に廃嫡しており財産の相続権は無い。今のティリティアは只の生臭な尼に過ぎないので、もはやガルソム領とは何の関係もない。ただ一度くらい『孫の父親』の顔を見ておこうと思ってな…」
侯爵は冷たい視線で俺を見つめる。言外に「用事は済んだから帰って良いよ」という雰囲気がありありと見受けられる。
俺の事はともかく、娘のティリティアにまで関心を無くしているのは少し冷たく感じられる。顔に出していないだけかも知れないけどさ。
「父上はともかく、我々兄弟は君の事を認めても許してもいないよ、冒険者くん?」
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