魔王と呼ばれた勇者、或いは勇者と呼ばれた魔王 〜最強の魔剣で自由に生きる! 金も女も、国さえも思いのまま!! …でも何かが違うみたいです

ちありや

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第98話 女傑

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「お兄様もハーディンもやめて下さい。こちらの方はわたくしの命の恩人です。私が『死にたい』『もう殺して欲しい』と絶望していた時に現れた『光』なのです! 侮辱は許しませんよ?」

 兄弟に絡まれた俺を庇ってくれたのはティリティアだった。ゴブリンの洞窟での出来事は俺ですらあまり思い返したくない話なのに、あの時一番辛い目に遭ったティリティアが凛として論陣を張っているのは素直に凄いと思うよ。

「お前に何があったのかは知らぬし敢えて聞かぬ。だが未婚の身で腹に子を宿すなど言語道断だと言っているのだ」

「そうです。しかも姉上はアイトゥーシア教会の神官なのですよ? 不埒にも程があります!」

 兄弟が交互に文句を言ってくるが、この辺はアイトゥーシア教会の性規範の問題だから、外野オレからは何とも言えないんだよなぁ。
 責められているはずのティリティアは、何故か涼しい顔で聞き流している。
 
「しかも王都の往来で恥ずかしげもなく民の前で抱き合ったと聞くぞ? お前に恥という物は無いのか? 全く嘆かわしい…」

 あー、それに関しては俺の『やらかし』だよな。周りのオッチャンオバチャンには喜んで貰えたと思っていたが、貴族の世間体を考えるとNG行為だったのかなぁ…?

「もう結構! お父様のおっしゃる通り、この場は私の結婚相手を連れて挨拶に伺っただけなので、お兄様もハーディンも口出しはお控えくださいな。誰が何と言おうと、私はこちらの勇者様と添い遂げますので!」

 ティリティアは堰を切ったようにまくし立て、俺の腕を掴んでそのまま大広間から退出した。

「申し訳ありません勇者様。兄と弟が嫌な思いをさせてしまい…」

 屋敷の出口に向かう途中でティリティアは苦しそうに俺に謝罪の声を上げる。

「いやぁ、まぁ大体予想通りの言われ様だったから気にしてないよ。むしろ『娘が欲しくばこの俺を倒して行け!』みたいな事を言われたらどうしようかと思ってた」

 売られたケンカだとしても、仮にも貴族で舅さんや小舅さんとなる関係の人をぶん殴るのも忍びない。かと言ってわざと負けても意味ないしねぇ……。

「ふふっ、もしそうなったら私が代りに戦いましたわ。私だって武芸はたしなんでますから」

 あー、確かティリティアは棒術戦闘の心得があったな。逃げるモンモンに先んじて仕留める位には素早い打ち込みが出来る女だった。

「いやいや、妊婦に戦わせて後ろで踏ん反り返る様な真似が出来るわけ無いだろ? 俺を何だと思ってんだよ?」

 俺の言葉にてティリティアは一瞬足を止める。そのまま2、3秒不思議そうに俺を見つめ、直後とても嬉しそうな顔で「はい!」と答えた。

 ティリティアが王権簒奪やら国家転覆やらを画策しているのは知っているけど、今この瞬間のティリティアはただの無垢な美少女だ。俺が守りたいのは『この笑顔』なんだよな……。

 ☆

「予想より早かったのね。夕飯でもご馳走になってるかと思ってたのに…」

 屋敷の門のすぐ外でチャロアイトが待っていた。侯爵に対して俺のプレゼンをしてくれたらしいが、残念ながらあまり効果は無かったようだ。

「父への挨拶は済ませましたからもう屋敷ここに用はありませんわ。私は近くの衛兵隊本部に数日ご厄介になって、その後ラモグでクロニア達と合流しますわ」

 衛兵隊本部… 俺がティリティアと初めて出会った場所だ。その頃のティリティアは軍属の治癒師見習いとして、教会の神官と衛生兵の二足の草鞋わらじを履いていた。
 
 あれから3ヶ月程度しか経っていないのに妙に懐かしさがあるなぁ。色々とイベントが山盛りだったからだろうな。

「それが良いな。クロニアの叔父さんにもよろしく伝えておいてくれよ」

 衛兵隊の隊長さんはクロニアの叔父さんで、旅慣れていない俺達にかなり便宜を図ってくれた。前回行った時は俺とクロニアとベルモの3人組でお世話になったんだよなぁ。こっちも懐かしい思い出だ。

 そう言えばベルモの具合はどうなったのだろう? モンモンの例を見る限り、何の変調も無く回復するのは期待薄だろう。クロニアが上手く対処してくれていれば良いのだけれど、クロニアだって万能じゃない。

「あとベルモに関しても、何か『良くない事態』になっている様なら、無理に関わろうとしなくて良いからな。とにかく自分の体を第一にしてくれな…?」

 ベルモに関しては本当に状況の予想すら出来ない。まず守るべき第一はティリティアのお腹の中の子供だ。

「分かっておりますわ、あなた…」

 ティリティアはそう言って俺に腕を絡ませてきた。今まで『勇者様』呼びだった俺を、初めて『あなた』と呼んだティリティア。俺の反応を見るように、はにかんだ顔で見上げてくる。

 もちろん悪い気はしない。違和感と言うかくすぐったさはあるけど、うん、嫌じゃない。

「あらあら、何か良くない事を言われて余計に燃え上がっちゃった感じねぇ。まぁ侯爵様からの了承が取れたって事でいいのかしらね…?」

 チャロアイトが茶化してくるが、最後の質問はマジな雰囲気だったな。確かにここで侯爵に何かゴネられたら後々面倒くさい事にもなりかねない。俺達の計画に支障が出るのは回避したいのはチャロアイトも同じだろう。

「えぇ、どちらにせよミア姉様と接触出来た事で『侯爵令嬢』の看板は用済みですし、まもなく勇者様が貴族に列せられれば、そこから簡単に再始動出来ますから」

 ティリティアはあっけらかんとそう言ってのけた。この己の野望の為に冷徹になれるティリティアは、俺にしなだれてかかってくるティリティアと本当に同一人物か? と時々思わされる。

「家族と喧嘩になってしまったので夕ご飯を食べ損ねてしまいましたね。近くの宿で食事にでもしましょう!」

 まるでモンモンの様な悩みの無さそうな軽さで、ティリティアは俺とチャロアイトに先行して侯爵領の宿場町へと足を向ける。

 そしてティリティアは不意に立ち止まり、何かを思い出した様子でこちらを振り向いた。

「またしばらく会えなくなってしまうので、今夜はその分たくさん愛して頂けますか…?」

 食事の後のおねだりも完璧な笑顔でやってのけるティリティアだった。
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