魔王と呼ばれた勇者、或いは勇者と呼ばれた魔王 〜最強の魔剣で自由に生きる! 金も女も、国さえも思いのまま!! …でも何かが違うみたいです

ちありや

文字の大きさ
108 / 120

第109話 敵国の間者

しおりを挟む
 図らずも新井への復讐は成し遂げられた。奴は単なる肉塊と成り果て、俺への暴力はおろか物を考える事すら永遠に叶わなくなった訳だ。

 今、複雑な気持ちだ。間違いなく彼を殺したのは『俺』なのだが、この処刑は俺の意思で行われた物ではない。

 よく聞く「復讐は何も生み出さない」なんて文言も虚しく響いてくる。びっくりする位に何の感慨も湧いてこない。

 あー、でもちょっとスッキリはしたかな? 復讐という『本懐を遂げた』イメージではなく、耳元でずっとプンプンいってる蚊を仕留めた、みたいな感覚に近い。「もう新井と関わらなくて良い」という事実が何よりホッとするね。

 思うに復讐云々の話はそこに「殺人」という『罪』が生まれるからこそ、様々な葛藤やドラマが生まれるのだろう。
 
 だが俺が人を殺したのはこれが初めてじゃないし、新井もその中の1人というだけの話に過ぎないと考えたら、心が動かないのも理解できる。寒い話ではあるけどね……。

 ☆

 すっかり日も落ちた街道、バラバラ死体を前に放心して立ち尽くす俺。そんな状況で街側の道から俺に近づく何者かの影があった。

 新井の部下は先ほど逃げて行ったし、チャロアイトはまだウルカイザーの都市の中に居るはずだ。
 
 空も暗くなり、こんな時間に街を出る商人や旅行者はかなり限られる。ましてや死体が足元に転がっている帯剣した男にわざわざ寄ってくる物好きなんて尚更だ。

 普通に考えて真っ当な人間じゃない。ウルカイザーが敵地である事を考えれば、俺の味方という可能性もかなり低くなる。

 一瞬『ガドゥか?!』と身構えたが、奴がこんな堂々と現れるとは思えないし、歩み寄ってくる人物の歩き方は、ガドゥの様に片足を切り取られたそれではない。

「おっと、その殺気を収めてくれ。俺はアンタとり合う気は無いよ…」

 両手を軽く上げた降参のポーズで現れたのは、見覚えの無い冒険者と思しき風体の、ノリの軽そうな30歳前後の男だった。

 ☆

「まずは自己紹介させてくれ。俺の名は『ゾビル』。ウルカイザーで情報屋をやっている」

 ゾビルと名乗った男は、短剣を両の腰に装備しており、一見冒険者、それも『盗賊』みたいなくたびれた皮鎧を着ていた。

 ウルカイザーには『冒険者』は居ないので、恐らくは野盗の類の人物と予想できる。それならば周りに仲間が隠れていて、不意打ちの機会を狙っているのかも知れない。

「んで? その情報屋さんが俺に何かご用で?」

 絶賛警戒中なので俺も尖った対応になる。新井戦を経てパワーアップしている事もあって、精神が高揚しているせいもある。

「いやぁ、アンタの足元に転がっている死体は、ギルドで手配中の強盗犯でさ。賞金が掛かってたんだわ…」

 ギルド…? まさか冒険者匠合ギルドじゃないよな? イクチナさんことチャロアイトは『それ』の設立の為に国を越えて来たんだから。

「不思議そうな顔をしているな。まぁバルジオンからのお客人じゃ知らないのも仕方ないもんな…」

 こいつ… なぜ俺がバルジオンから来た者だと知っている…? 月明かりに照らされた男の顔は、一か八かのハッタリでは無く、確信を元に発言している様に見える。

 この男、ただの賞金稼ぎという訳でも無さそうだな……。

 ☆

「改めて俺達の友情に乾杯だ!」

 ゾビルという男に「薄気味悪い道端じゃなくて、一杯飲みながら話そうぜ」と、再び街の中へ。
 そこで連れられた酒場のカウンター、まだ状況が飲み込めずに少し混乱している俺は、何が入っているかも分からない飲食物に手を付けられないでいた。

 薄暗い酒場は4人掛けのテーブルが2脚に、3~4人座れるカウンターがあるだけのえらくこじんまりした店だった。雰囲気はそう… ディギールさんの『片目の興梠こおろぎ亭』とよく似ている。

 つまり店のマスター含め、堅気の人間ではなく脛に傷持つ人達が愛用している店だと言う事だろう。チャロアイトに黙って来ちゃったけど、大丈夫かな…?

「乾杯はゾビルさん… だっけ? アンタの『真の』目的を聞いてからだね。アンタが何者か分からない内は挨拶以上の話は出来ないよ…」

 敵対勢力の可能性のある奴に丸め込まれてしまっては、俺を信用して送り出してくれたティリティアやリーナさんに合わせる顔が無い。

「ふっ… さすがに簡単には釣られないか… 変に腹の探りあいをして、アンタ程の実力者のヘソを曲げても意味は無いからな…」

 ゾビルは自嘲する様に軽く笑い、軽薄な優男から重厚な騎士を思わせる真摯な顔つきに変わる。

「改めて名乗るぜ、俺は『ウルカイザー情報部』のゾビル。アンタらの探している『包帯男』の情報を持っている…」

 まさかの告白… 『ウルカイザー情報部』ってのは、恐らくバルジオンで言う『幻夢兵団』みたいな諜報、防諜活動を行う組織だろうと思われる。

 しかし、ここでウルカイザーの情報部の人間が登場か… ただこういった場面で「自分は情報部の人間だ」とかあっさり自己紹介するものなのかな…? スパイ映画くらいしか知識が無いから、よく分からんぞ…?
 
 それもよりにもよってガドゥの情報ネタも掴んでいると来た… もし本当なら願ってもない展開だが、果たしてすぐに食らいついて良いものか…?

「…まず答え合わせをしておきたい。ゾビルさんの言う『包帯男』ってのは、通称『ガドゥ』という鬼族オーガの青年で、最近片足を損傷した奴の事だよな?」 

「あぁそうだ。オーガというネタまで掴んでいるとは大した物だな…」

 まぁ知ったのは偶然とモンモンの知識のおかげなんだが、余計な事は言わずにおこう。

「我々の目的はそのガドゥという男の排除にある。お前さんの目的も『それ』だと踏んでいるんだが、どうだ…?」

 当然ながら俺と同時に入国したチャロアイトの事も把握しているらしいゾビル。

 ここはチャロアイトも呼んで詳しく話した方が良いかも知れないな……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流@3/19書籍発売!
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】 【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】 ~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

社会の底辺に落ちたオレが、国王に転生した異世界で、経済の知識を活かして富国強兵する、冒険コメディ

のらねこま(駒田 朗)
ファンタジー
 リーマンショックで会社が倒産し、コンビニのバイトでなんとか今まで生きながらえてきた俺。いつものように眠りについた俺が目覚めた場所は異世界だった。俺は中世時代の若き国王アルフレッドとして目が覚めたのだ。ここは斜陽国家のアルカナ王国。産業は衰退し、国家財政は火の車。国外では敵対国家による侵略の危機にさらされ、国内では政権転覆を企む貴族から命を狙われる。  目覚めてすぐに俺の目の前に現れたのは、金髪美少女の妹姫キャサリン。天使のような姿に反して、実はとんでもなく騒がしいS属性の妹だった。やがて脳筋女戦士のレイラ、エルフ、すけべなドワーフも登場。そんな連中とバカ騒ぎしつつも、俺は魔法を習得し、内政を立て直し、徐々に無双国家への道を突き進むのだった。

異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める

自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。 その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。 異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。 定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。

処理中です...