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第109話 敵国の間者
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図らずも新井への復讐は成し遂げられた。奴は単なる肉塊と成り果て、俺への暴力はおろか物を考える事すら永遠に叶わなくなった訳だ。
今、複雑な気持ちだ。間違いなく彼を殺したのは『俺』なのだが、この処刑は俺の意思で行われた物ではない。
よく聞く「復讐は何も生み出さない」なんて文言も虚しく響いてくる。びっくりする位に何の感慨も湧いてこない。
あー、でもちょっとスッキリはしたかな? 復讐という『本懐を遂げた』イメージではなく、耳元でずっとプンプンいってる蚊を仕留めた、みたいな感覚に近い。「もう新井と関わらなくて良い」という事実が何よりホッとするね。
思うに復讐云々の話はそこに「殺人」という『罪』が生まれるからこそ、様々な葛藤やドラマが生まれるのだろう。
だが俺が人を殺したのはこれが初めてじゃないし、新井もその中の1人というだけの話に過ぎないと考えたら、心が動かないのも理解できる。寒い話ではあるけどね……。
☆
すっかり日も落ちた街道、バラバラ死体を前に放心して立ち尽くす俺。そんな状況で街側の道から俺に近づく何者かの影があった。
新井の部下は先ほど逃げて行ったし、チャロアイトはまだウルカイザーの都市の中に居るはずだ。
空も暗くなり、こんな時間に街を出る商人や旅行者はかなり限られる。ましてや死体が足元に転がっている帯剣した男にわざわざ寄ってくる物好きなんて尚更だ。
普通に考えて真っ当な人間じゃない。ウルカイザーが敵地である事を考えれば、俺の味方という可能性もかなり低くなる。
一瞬『ガドゥか?!』と身構えたが、奴がこんな堂々と現れるとは思えないし、歩み寄ってくる人物の歩き方は、ガドゥの様に片足を切り取られたそれではない。
「おっと、その殺気を収めてくれ。俺はアンタと殺り合う気は無いよ…」
両手を軽く上げた降参のポーズで現れたのは、見覚えの無い冒険者と思しき風体の、ノリの軽そうな30歳前後の男だった。
☆
「まずは自己紹介させてくれ。俺の名は『ゾビル』。ウルカイザーで情報屋をやっている」
ゾビルと名乗った男は、短剣を両の腰に装備しており、一見冒険者、それも『盗賊』みたいなくたびれた皮鎧を着ていた。
ウルカイザーには『冒険者』は居ないので、恐らくは野盗の類の人物と予想できる。それならば周りに仲間が隠れていて、不意打ちの機会を狙っているのかも知れない。
「んで? その情報屋さんが俺に何かご用で?」
絶賛警戒中なので俺も尖った対応になる。新井戦を経てパワーアップしている事もあって、精神が高揚しているせいもある。
「いやぁ、アンタの足元に転がっている死体は、ギルドで手配中の強盗犯でさ。賞金が掛かってたんだわ…」
ギルド…? まさか冒険者匠合じゃないよな? イクチナさんことチャロアイトは『それ』の設立の為に国を越えて来たんだから。
「不思議そうな顔をしているな。まぁバルジオンからのお客人じゃ知らないのも仕方ないもんな…」
こいつ… なぜ俺がバルジオンから来た者だと知っている…? 月明かりに照らされた男の顔は、一か八かのハッタリでは無く、確信を元に発言している様に見える。
この男、ただの賞金稼ぎという訳でも無さそうだな……。
☆
「改めて俺達の友情に乾杯だ!」
ゾビルという男に「薄気味悪い道端じゃなくて、一杯飲みながら話そうぜ」と、再び街の中へ。
そこで連れられた酒場のカウンター、まだ状況が飲み込めずに少し混乱している俺は、何が入っているかも分からない飲食物に手を付けられないでいた。
薄暗い酒場は4人掛けのテーブルが2脚に、3~4人座れるカウンターがあるだけのえらくこじんまりした店だった。雰囲気はそう… ディギールさんの『片目の興梠亭』とよく似ている。
つまり店のマスター含め、堅気の人間ではなく脛に傷持つ人達が愛用している店だと言う事だろう。チャロアイトに黙って来ちゃったけど、大丈夫かな…?
「乾杯はゾビルさん… だっけ? アンタの『真の』目的を聞いてからだね。アンタが何者か分からない内は挨拶以上の話は出来ないよ…」
敵対勢力の可能性のある奴に丸め込まれてしまっては、俺を信用して送り出してくれたティリティアやリーナさんに合わせる顔が無い。
「ふっ… さすがに簡単には釣られないか… 変に腹の探りあいをして、アンタ程の実力者のヘソを曲げても意味は無いからな…」
ゾビルは自嘲する様に軽く笑い、軽薄な優男から重厚な騎士を思わせる真摯な顔つきに変わる。
「改めて名乗るぜ、俺は『ウルカイザー情報部』のゾビル。アンタらの探している『包帯男』の情報を持っている…」
まさかの告白… 『ウルカイザー情報部』ってのは、恐らくバルジオンで言う『幻夢兵団』みたいな諜報、防諜活動を行う組織だろうと思われる。
しかし、ここでウルカイザーの情報部の人間が登場か… ただこういった場面で「自分は情報部の人間だ」とかあっさり自己紹介するものなのかな…? スパイ映画くらいしか知識が無いから、よく分からんぞ…?
それもよりにもよってガドゥの情報も掴んでいると来た… もし本当なら願ってもない展開だが、果たしてすぐに食らいついて良いものか…?
「…まず答え合わせをしておきたい。ゾビルさんの言う『包帯男』ってのは、通称『ガドゥ』という鬼族の青年で、最近片足を損傷した奴の事だよな?」
「あぁそうだ。オーガというネタまで掴んでいるとは大した物だな…」
まぁ知ったのは偶然とモンモンの知識のおかげなんだが、余計な事は言わずにおこう。
「我々の目的はそのガドゥという男の排除にある。お前さん達の目的も『それ』だと踏んでいるんだが、どうだ…?」
当然ながら俺と同時に入国したチャロアイトの事も把握しているらしいゾビル。
ここはチャロアイトも呼んで詳しく話した方が良いかも知れないな……。
今、複雑な気持ちだ。間違いなく彼を殺したのは『俺』なのだが、この処刑は俺の意思で行われた物ではない。
よく聞く「復讐は何も生み出さない」なんて文言も虚しく響いてくる。びっくりする位に何の感慨も湧いてこない。
あー、でもちょっとスッキリはしたかな? 復讐という『本懐を遂げた』イメージではなく、耳元でずっとプンプンいってる蚊を仕留めた、みたいな感覚に近い。「もう新井と関わらなくて良い」という事実が何よりホッとするね。
思うに復讐云々の話はそこに「殺人」という『罪』が生まれるからこそ、様々な葛藤やドラマが生まれるのだろう。
だが俺が人を殺したのはこれが初めてじゃないし、新井もその中の1人というだけの話に過ぎないと考えたら、心が動かないのも理解できる。寒い話ではあるけどね……。
☆
すっかり日も落ちた街道、バラバラ死体を前に放心して立ち尽くす俺。そんな状況で街側の道から俺に近づく何者かの影があった。
新井の部下は先ほど逃げて行ったし、チャロアイトはまだウルカイザーの都市の中に居るはずだ。
空も暗くなり、こんな時間に街を出る商人や旅行者はかなり限られる。ましてや死体が足元に転がっている帯剣した男にわざわざ寄ってくる物好きなんて尚更だ。
普通に考えて真っ当な人間じゃない。ウルカイザーが敵地である事を考えれば、俺の味方という可能性もかなり低くなる。
一瞬『ガドゥか?!』と身構えたが、奴がこんな堂々と現れるとは思えないし、歩み寄ってくる人物の歩き方は、ガドゥの様に片足を切り取られたそれではない。
「おっと、その殺気を収めてくれ。俺はアンタと殺り合う気は無いよ…」
両手を軽く上げた降参のポーズで現れたのは、見覚えの無い冒険者と思しき風体の、ノリの軽そうな30歳前後の男だった。
☆
「まずは自己紹介させてくれ。俺の名は『ゾビル』。ウルカイザーで情報屋をやっている」
ゾビルと名乗った男は、短剣を両の腰に装備しており、一見冒険者、それも『盗賊』みたいなくたびれた皮鎧を着ていた。
ウルカイザーには『冒険者』は居ないので、恐らくは野盗の類の人物と予想できる。それならば周りに仲間が隠れていて、不意打ちの機会を狙っているのかも知れない。
「んで? その情報屋さんが俺に何かご用で?」
絶賛警戒中なので俺も尖った対応になる。新井戦を経てパワーアップしている事もあって、精神が高揚しているせいもある。
「いやぁ、アンタの足元に転がっている死体は、ギルドで手配中の強盗犯でさ。賞金が掛かってたんだわ…」
ギルド…? まさか冒険者匠合じゃないよな? イクチナさんことチャロアイトは『それ』の設立の為に国を越えて来たんだから。
「不思議そうな顔をしているな。まぁバルジオンからのお客人じゃ知らないのも仕方ないもんな…」
こいつ… なぜ俺がバルジオンから来た者だと知っている…? 月明かりに照らされた男の顔は、一か八かのハッタリでは無く、確信を元に発言している様に見える。
この男、ただの賞金稼ぎという訳でも無さそうだな……。
☆
「改めて俺達の友情に乾杯だ!」
ゾビルという男に「薄気味悪い道端じゃなくて、一杯飲みながら話そうぜ」と、再び街の中へ。
そこで連れられた酒場のカウンター、まだ状況が飲み込めずに少し混乱している俺は、何が入っているかも分からない飲食物に手を付けられないでいた。
薄暗い酒場は4人掛けのテーブルが2脚に、3~4人座れるカウンターがあるだけのえらくこじんまりした店だった。雰囲気はそう… ディギールさんの『片目の興梠亭』とよく似ている。
つまり店のマスター含め、堅気の人間ではなく脛に傷持つ人達が愛用している店だと言う事だろう。チャロアイトに黙って来ちゃったけど、大丈夫かな…?
「乾杯はゾビルさん… だっけ? アンタの『真の』目的を聞いてからだね。アンタが何者か分からない内は挨拶以上の話は出来ないよ…」
敵対勢力の可能性のある奴に丸め込まれてしまっては、俺を信用して送り出してくれたティリティアやリーナさんに合わせる顔が無い。
「ふっ… さすがに簡単には釣られないか… 変に腹の探りあいをして、アンタ程の実力者のヘソを曲げても意味は無いからな…」
ゾビルは自嘲する様に軽く笑い、軽薄な優男から重厚な騎士を思わせる真摯な顔つきに変わる。
「改めて名乗るぜ、俺は『ウルカイザー情報部』のゾビル。アンタらの探している『包帯男』の情報を持っている…」
まさかの告白… 『ウルカイザー情報部』ってのは、恐らくバルジオンで言う『幻夢兵団』みたいな諜報、防諜活動を行う組織だろうと思われる。
しかし、ここでウルカイザーの情報部の人間が登場か… ただこういった場面で「自分は情報部の人間だ」とかあっさり自己紹介するものなのかな…? スパイ映画くらいしか知識が無いから、よく分からんぞ…?
それもよりにもよってガドゥの情報も掴んでいると来た… もし本当なら願ってもない展開だが、果たしてすぐに食らいついて良いものか…?
「…まず答え合わせをしておきたい。ゾビルさんの言う『包帯男』ってのは、通称『ガドゥ』という鬼族の青年で、最近片足を損傷した奴の事だよな?」
「あぁそうだ。オーガというネタまで掴んでいるとは大した物だな…」
まぁ知ったのは偶然とモンモンの知識のおかげなんだが、余計な事は言わずにおこう。
「我々の目的はそのガドゥという男の排除にある。お前さん達の目的も『それ』だと踏んでいるんだが、どうだ…?」
当然ながら俺と同時に入国したチャロアイトの事も把握しているらしいゾビル。
ここはチャロアイトも呼んで詳しく話した方が良いかも知れないな……。
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