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Case.01【消えるピアニスト】
day5─沈黙─
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翌日、金曜日。絢葉は放課後に先ず、職員室へ。
旧音楽室の鍵は、掛かったまま。貸し出し簿も白紙のままだ。
「今日も、出ない……?」
職員室を出て、史桜に連絡をする。
【ふむ……、軽く調査した所感では、もう少し出現頻度は高そうだったが……。東雲君。念の為、旧音楽室へ】
指示に従い、旧音楽室を確認したが、ピアノの音はない。扉もやはり鍵が掛かっている。
【なるほど。では今日は旧音楽室を張っても収穫は薄い。今は正確な“幽霊ピアニスト”の出現条件を探る方が先決だ。残っている生徒は少ないだろうが、天野と共に校内の聞き込みを。加えて可能ならば、村西教諭、山野辺女子、古谷女子の事も、他愛の無い事で構わないから調査してみてくれ。そちらは吹奏楽部の上級生を中心に聞くのが望ましい】
指示を受け、絢葉と奏汰は校舎を回る。夕暮れの光が廊下を朱に染め、残っている生徒は少ない。
───
奏汰と合流し、小一時間ほどで得られた情報をまとめると──
“幽霊ピアニスト”が現れるのは、ほとんどが月曜か金曜。ごく稀に別の日にもあるが、極端に少ないようだ。そして、その出現は去年の秋頃から始まったらしい。
そのうえで、僅かに残っていた吹奏楽部員の口から出てきたのは──
「山野辺先輩?あの人、たまに変なんだよ。いや、スランプのことじゃなくて」
課題のプリントに頭を抱えていた二年の女子部員は、声を潜めて続けた。
「部の予定表、見たことあるでしょ? 月曜と金曜は練習休みなのに、たまに下校時間ギリギリまで校舎に残ってるんだよ。随分、周りを気にしてキョロキョロしながら。……でも、私が見た時は丁度帰る所だったみたいで、それまで何してたかは知らない」
練習がない日。幽霊が出るとされる日。偶然なのか──絢葉は背筋に冷たいものを覚えた。
───
「古谷?そうだなぁ……」
昇降口で帰り支度をしていた進路相談終わりの三年の男子部員は、思い出すように首をひねった。
「毎年ピアノコンクールに誰が出場するか、部内で演奏会をして、村西先生が決めるんだけど。古谷が一年の時と比べて、二年の時、随分と上達してたんだ。それでも山野辺には勝てなかったんだけど。吹奏楽もやりながら、一年であれだけ上手くなれるのかって噂になってたんだ。こっそり一人で練習してるのかもな」
「一人で……」
「うん。山野辺と比べられることも多いし、嫉妬とか対抗心とか──って思う人もいるみたいだね」
さっきまで思い浮かべていた優しい笑顔に、別の影が差し込んだ気がした。
───
「村西先生のこと?そういえば……」
帰り際に捕まえた、補習を終えたばかりの女子部員は声を落とした。
「一年のとき、部活中に一度だけピアノを弾いてくれたんだ。ほんの少しだけだけど、鳥肌が立つくらい上手かった。事故で弾けなくなったって話だけど、本当なのかなって。また弾きたい気持ちもあるんじゃないのかな」
「未練がある、と?」
「かもね。だから山野辺先輩に厳しいのかも……って、みんな言ってる」
───
先に帰ると去った奏汰と別れ、部室に戻ると、史桜は聞き込みの報告を黙って聞き、やがて口の端を上げた。
「幽霊が出るのは月曜と金曜。奇しくも吹奏楽部の休みの日。そこに“残っている”山野辺女子。独り練習の噂がある古谷女子。そして未だ音を響かせられるかもしれぬ村西教諭。──なるほど、実に面白い」
「やっぱり、“幽霊ピアニスト”は吹奏楽部の誰か……?」
「随分と可能性は上がったと思う。練習が休みの日にピアノを弾いている。月曜と金曜以外に稀に現れるのは、恐らく他の曜日に臨時で吹奏楽部が休みになったなどが理由だろう」
「ですが、今日旧音楽室へ現れなかったのは?」
「……君だ。恐らく部内の一年生から、君が我が部と関わっていると聞いたのだろう。それで警戒した」
確かに、クラスメイトには吹奏楽部員が居る。絢葉本人は話していないが、話好きで友達の多い文子や京香から聞いた可能性は十分にある。
史桜は足を組み、ゆったりと椅子にもたれ掛かる。
「だったら、もう現れない可能性も……?」
「さて、どうだろうね。続きは次の月曜日だ」
史桜の低い声が、夕闇に溶けるように響いた。
旧音楽室の鍵は、掛かったまま。貸し出し簿も白紙のままだ。
「今日も、出ない……?」
職員室を出て、史桜に連絡をする。
【ふむ……、軽く調査した所感では、もう少し出現頻度は高そうだったが……。東雲君。念の為、旧音楽室へ】
指示に従い、旧音楽室を確認したが、ピアノの音はない。扉もやはり鍵が掛かっている。
【なるほど。では今日は旧音楽室を張っても収穫は薄い。今は正確な“幽霊ピアニスト”の出現条件を探る方が先決だ。残っている生徒は少ないだろうが、天野と共に校内の聞き込みを。加えて可能ならば、村西教諭、山野辺女子、古谷女子の事も、他愛の無い事で構わないから調査してみてくれ。そちらは吹奏楽部の上級生を中心に聞くのが望ましい】
指示を受け、絢葉と奏汰は校舎を回る。夕暮れの光が廊下を朱に染め、残っている生徒は少ない。
───
奏汰と合流し、小一時間ほどで得られた情報をまとめると──
“幽霊ピアニスト”が現れるのは、ほとんどが月曜か金曜。ごく稀に別の日にもあるが、極端に少ないようだ。そして、その出現は去年の秋頃から始まったらしい。
そのうえで、僅かに残っていた吹奏楽部員の口から出てきたのは──
「山野辺先輩?あの人、たまに変なんだよ。いや、スランプのことじゃなくて」
課題のプリントに頭を抱えていた二年の女子部員は、声を潜めて続けた。
「部の予定表、見たことあるでしょ? 月曜と金曜は練習休みなのに、たまに下校時間ギリギリまで校舎に残ってるんだよ。随分、周りを気にしてキョロキョロしながら。……でも、私が見た時は丁度帰る所だったみたいで、それまで何してたかは知らない」
練習がない日。幽霊が出るとされる日。偶然なのか──絢葉は背筋に冷たいものを覚えた。
───
「古谷?そうだなぁ……」
昇降口で帰り支度をしていた進路相談終わりの三年の男子部員は、思い出すように首をひねった。
「毎年ピアノコンクールに誰が出場するか、部内で演奏会をして、村西先生が決めるんだけど。古谷が一年の時と比べて、二年の時、随分と上達してたんだ。それでも山野辺には勝てなかったんだけど。吹奏楽もやりながら、一年であれだけ上手くなれるのかって噂になってたんだ。こっそり一人で練習してるのかもな」
「一人で……」
「うん。山野辺と比べられることも多いし、嫉妬とか対抗心とか──って思う人もいるみたいだね」
さっきまで思い浮かべていた優しい笑顔に、別の影が差し込んだ気がした。
───
「村西先生のこと?そういえば……」
帰り際に捕まえた、補習を終えたばかりの女子部員は声を落とした。
「一年のとき、部活中に一度だけピアノを弾いてくれたんだ。ほんの少しだけだけど、鳥肌が立つくらい上手かった。事故で弾けなくなったって話だけど、本当なのかなって。また弾きたい気持ちもあるんじゃないのかな」
「未練がある、と?」
「かもね。だから山野辺先輩に厳しいのかも……って、みんな言ってる」
───
先に帰ると去った奏汰と別れ、部室に戻ると、史桜は聞き込みの報告を黙って聞き、やがて口の端を上げた。
「幽霊が出るのは月曜と金曜。奇しくも吹奏楽部の休みの日。そこに“残っている”山野辺女子。独り練習の噂がある古谷女子。そして未だ音を響かせられるかもしれぬ村西教諭。──なるほど、実に面白い」
「やっぱり、“幽霊ピアニスト”は吹奏楽部の誰か……?」
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「ですが、今日旧音楽室へ現れなかったのは?」
「……君だ。恐らく部内の一年生から、君が我が部と関わっていると聞いたのだろう。それで警戒した」
確かに、クラスメイトには吹奏楽部員が居る。絢葉本人は話していないが、話好きで友達の多い文子や京香から聞いた可能性は十分にある。
史桜は足を組み、ゆったりと椅子にもたれ掛かる。
「だったら、もう現れない可能性も……?」
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史桜の低い声が、夕闇に溶けるように響いた。
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