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Case.02【雨露のメッセンジャー】
day4─雨音の源流─
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翌日の昼休み。
絢葉は、珍しく放課後ではないこの時間に史桜に呼び出され、優雅部の部室へ来ていた。
「わざわざ休憩時間に呼び出してすまないね。だが、昨日の君が送ってくれた写真──あれに少々違和感を覚えてね。早めに共有しておこうと思ったのだよ」
普段通りの所作、同じ落ち着いた声音で、史桜は語る。
彼はスマホを差し出し、絢葉が送った写真を拡大して見せた。最初に図書室を訪れた時と、昨日のもの。窓の文字をアップで撮ったものと、少し引き気味に撮ったものが二枚ずつ。史桜が示したのは後者だった。
「……?これが何か?」
絢葉は首を傾げる。だが史桜はゆっくりと指先を動かし、隣の“普通の窓”を示した。
「動画でも撮っておいてもらえばもっと分かりやすかったのだがね。……ここを見比べると、分からないか? 文字の浮かんだ窓には、隣より随分と雨水が叩きつけられている。──まるで窓そのものが狙い撃ちされたかのように、ね」
「……えっ?」
言われてようやく、絢葉の目も違いを捉えた。
「確かに……!同じ面にある窓なのに!」
「昨日はさほど強い雨ではなかった。にもかかわらず、この窓だけ妙に多量の水が流れている。やはり不自然だ。今日は午後から本格的に降る予報。降り出す前に確かめたい。──悪いが、今のうちに外からこの窓の周辺を調べてみてくれないか」
「分かりました!」
絢葉は弾かれたように立ち上がり、校舎の外へと向かった。
図書室の外側。昼休みの校庭に雨の匂いが漂い始める中、窓を仰ぎ見て首を捻る。
「う~ん、特に変わったところは……」
『東雲君、雨樋だ』
耳に当てたスマホから史桜の声が飛ぶ。
絢葉はハッとして窓の脇を見上げた。屋上から地上へ真っ直ぐ伸びる雨樋。その一階と二階の間あたりがひび割れ、ぽっかりと穴が開いていた。しかもその穴は、文字の浮かんだ窓の方角へ向いている。
さらに地上の排水口を確かめると、枯れ葉やゴミが詰まって水の流れを妨げていた。
『なるほど、やはり。破損した雨樋から溢れた水が窓に集中していたわけだ。おまけに下の排水も塞がれている。これでは窓にばかり大量の水が降りかかるのも当然だろう。……それが偶然か人為かはまだ分からないが、窓に文字が浮かぶ現象と、この“過剰な雨水”とは十中八九つながっている』
史桜の結論に、絢葉は息を漏らした。一歩ずつだが、間違いなく答えに近付いている。
「ありがとう。もう教室へ戻りたまえ」
────
放課後。
図書室の前に集まったのは絢葉、奏汰、佐伯の三人。
史桜からのメッセージが画面に表示されていた。
【今日は雨だが、白石君の担当日ではない。一応中を覗いて、文字が浮かんでいなければ帰って良い】
「え、そうなの? 張り切って来たのに」
佐伯が肩をすくめる。
三人で中を覗くと、確かに窓はただの硝子。昨日の様な文字は影も形もない。
三人は利用者の邪魔にならないよう、すぐ退出した。
「じゃあ今日はここまでか……」と奏汰が帰ろうとしたその時、佐伯がポケットから小さなノートを取り出した。
「なぁ、せっかくだし一度ここまでの情報を整理し直そうぜ! メモ帳持ってきたんだ!」
笑顔で掲げられたメモ帳に、絢葉は思わず「おぉっ」と声を漏らす。
佐伯は昨日までの調査結果と、昼休みの雨樋の件を真剣に聞き取りながら、せっせとペンを走らせていった。
だがふと覗き込んだ絢葉は、固まる。
「え、ええと……」
「お前……字、汚ぇな。これまとめる意味あんのか?」
隣から覗き込んだ奏汰が容赦なく突っ込む。
「うるさいな! これでも前よりマシになったんだぞ! 俺は読めるからいいんだよ!」
佐伯の抗議に、二人はつい笑ってしまう。
──絢葉の脳裏に、ある考えがよぎった。
(……もしかして佐伯先輩が赤点続きだったのって、先生が答案の字を読めなかったからだったりして……)
そんな想像を胸に、絢葉は小さく吹き出した。
外は雨脚を強めつつあり、窓に水滴が連なっていた。
絢葉は、珍しく放課後ではないこの時間に史桜に呼び出され、優雅部の部室へ来ていた。
「わざわざ休憩時間に呼び出してすまないね。だが、昨日の君が送ってくれた写真──あれに少々違和感を覚えてね。早めに共有しておこうと思ったのだよ」
普段通りの所作、同じ落ち着いた声音で、史桜は語る。
彼はスマホを差し出し、絢葉が送った写真を拡大して見せた。最初に図書室を訪れた時と、昨日のもの。窓の文字をアップで撮ったものと、少し引き気味に撮ったものが二枚ずつ。史桜が示したのは後者だった。
「……?これが何か?」
絢葉は首を傾げる。だが史桜はゆっくりと指先を動かし、隣の“普通の窓”を示した。
「動画でも撮っておいてもらえばもっと分かりやすかったのだがね。……ここを見比べると、分からないか? 文字の浮かんだ窓には、隣より随分と雨水が叩きつけられている。──まるで窓そのものが狙い撃ちされたかのように、ね」
「……えっ?」
言われてようやく、絢葉の目も違いを捉えた。
「確かに……!同じ面にある窓なのに!」
「昨日はさほど強い雨ではなかった。にもかかわらず、この窓だけ妙に多量の水が流れている。やはり不自然だ。今日は午後から本格的に降る予報。降り出す前に確かめたい。──悪いが、今のうちに外からこの窓の周辺を調べてみてくれないか」
「分かりました!」
絢葉は弾かれたように立ち上がり、校舎の外へと向かった。
図書室の外側。昼休みの校庭に雨の匂いが漂い始める中、窓を仰ぎ見て首を捻る。
「う~ん、特に変わったところは……」
『東雲君、雨樋だ』
耳に当てたスマホから史桜の声が飛ぶ。
絢葉はハッとして窓の脇を見上げた。屋上から地上へ真っ直ぐ伸びる雨樋。その一階と二階の間あたりがひび割れ、ぽっかりと穴が開いていた。しかもその穴は、文字の浮かんだ窓の方角へ向いている。
さらに地上の排水口を確かめると、枯れ葉やゴミが詰まって水の流れを妨げていた。
『なるほど、やはり。破損した雨樋から溢れた水が窓に集中していたわけだ。おまけに下の排水も塞がれている。これでは窓にばかり大量の水が降りかかるのも当然だろう。……それが偶然か人為かはまだ分からないが、窓に文字が浮かぶ現象と、この“過剰な雨水”とは十中八九つながっている』
史桜の結論に、絢葉は息を漏らした。一歩ずつだが、間違いなく答えに近付いている。
「ありがとう。もう教室へ戻りたまえ」
────
放課後。
図書室の前に集まったのは絢葉、奏汰、佐伯の三人。
史桜からのメッセージが画面に表示されていた。
【今日は雨だが、白石君の担当日ではない。一応中を覗いて、文字が浮かんでいなければ帰って良い】
「え、そうなの? 張り切って来たのに」
佐伯が肩をすくめる。
三人で中を覗くと、確かに窓はただの硝子。昨日の様な文字は影も形もない。
三人は利用者の邪魔にならないよう、すぐ退出した。
「じゃあ今日はここまでか……」と奏汰が帰ろうとしたその時、佐伯がポケットから小さなノートを取り出した。
「なぁ、せっかくだし一度ここまでの情報を整理し直そうぜ! メモ帳持ってきたんだ!」
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「お前……字、汚ぇな。これまとめる意味あんのか?」
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「うるさいな! これでも前よりマシになったんだぞ! 俺は読めるからいいんだよ!」
佐伯の抗議に、二人はつい笑ってしまう。
──絢葉の脳裏に、ある考えがよぎった。
(……もしかして佐伯先輩が赤点続きだったのって、先生が答案の字を読めなかったからだったりして……)
そんな想像を胸に、絢葉は小さく吹き出した。
外は雨脚を強めつつあり、窓に水滴が連なっていた。
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