呉宮史桜の優雅な放課後

詩央

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Case.02【雨露のメッセンジャー】

day3─違和感─

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 昼過ぎから降り始めた雨は、放課後になってもやむ気配がなかった。
 優雅部の部室の窓ガラスを叩く雨粒が、静かなリズムを刻んでいる。

「へぇ~、こんなんなんだ!」
 初めて部室を訪れた佐伯が、部屋をぐるりと見渡し、目を輝かせた。
「なんか雰囲気あんな!探偵事務所みたいじゃん!」

 古びた机や棚に、紅茶の香り。壁際の本棚にはファイルや本が整然と並べられ、どこか落ち着いた気配が漂う。
 けれど──。

(……まぁ、部室そのものはタダのぼろぼろの部屋なんだけど)
 絢葉は心の中で肩をすくめる。
(呉宮先輩の雰囲気が強すぎるんだろうなぁ……)

 史桜は悠然と椅子に腰かけ、得意げに微笑を浮かべていた。

「さて──」
 低く落ち着いた声が、雨音に紛れて響く。
「今日は再び雨だ。そして今日、白石君は図書委員の担当日。ここまでの情報からすれば、窓にまた文字が浮かぶ可能性が高い」

 その言葉に、絢葉と佐伯は表情を引き締めた。

「では、頼んだぞ」

 史桜の指示を受け、二人は部室を出る。

 ─────

 図書室へ向かう廊下。
 雨音を背に、二人の足音だけが静かに響いた。

「あの……」
 絢葉が口を開いた。
「昨日のメッセージ、ちょっと怒ってるみたいに見えましたけど……」

 佐伯は少し驚いた顔をし、それから照れくさそうに笑った。
「……ああ、あれか。別にお前に怒ったわけじゃねぇよ。ただ、どうしても白石のこと悪く言われんのが、我慢ならなくてさ」

「……」

「アイツ、一年の時同じクラスでな。周りからクラス委員を押し付けられたりしてたんだ。でも文句ひとつ言わず、真面目にやってた。すげぇなって思ったよ」
 佐伯の声には、どこか懐かしさが滲んでいる。
「で、俺さ。その頃テストで赤点取りまくってて、下手すりゃ留年だったんだ。だけど白石が補習に付き合ってくれてさ。アイツ、教え方めちゃくちゃ上手くて……おかげで助かったんだ」

 絢葉はその横顔をじっと見つめる。
 雨に濡れた廊下の光が、佐伯の真剣な表情を映していた。

「だから、あいつが困ってるなら、俺も力になりたいんだ」

(……佐伯先輩って、本当に真っ直ぐな人なんだな)
 絢葉は胸の奥で小さく息をのんだ。

 ─────

 図書室の前には、先に奏汰が立っていた。
「やっと来たか」

 三人で扉を開ける。
 入口近くのカウンターの前で、白石が窓際を見て立ち尽くしていた。震える指が、窓を指し示す。

「きょ、きょうも……文字が……」

 そこには、雨粒に濡れたガラスの上に、不気味な線が浮かんでいた。
 以前と同じ窓。先日見たものと酷似している。

 絢葉はスマホを取り出し、写真を撮った。先日も同様に窓の写真を撮影しており、二つの写真を見比べ、史桜にも送信した。

 数分後、返ってきた返信にはこうあった。
【一見違う文字にも見えるが、似たような『癖』も見られる。恐らくは同じ文章、あるいは記号か暗号か。何らかのメッセージかもしれない】

「確かに、何かを伝えようとしてるのかもな」
 佐伯がぽつりと呟く。

「やや!」
 突然、背後から声がした。
 漫研部の小堀が、例によって大仰にメガネを押し上げる。
「また出現しましたか! なんとも不可思議……これは怪異の仕業ですかなぁ!」

「……テメェがやってんじゃねぇのか!」
 佐伯が小堀の胸ぐらを掴んだ。
「ラクガキはお前の専売特許だろうが!」

 怒声とともに胸ぐらを掴まれ、小堀は目を剥いた。
「小生ではない!    それに、ら、ラクガキだと!? 小生の作品をラクガキと仰ったか! 言葉を選びたまえ!」

「図書室でこんなふざけたことできんのはお前ぐらいしか──」

 二人が今にも取っ組み合いそうになったその瞬間、奏汰が素早く割って入った。
「やめろ。佐伯、お前らしくねぇぞ」

 制止の声に、佐伯はハッとしたように手を離した。
「……わりぃ。思ってもねぇことを言っちまった」

 小堀も乱れた服を直しながら、顔を赤くしたまま言い返す。
「小生も……つい頭に血が上ってしまいました。しかし断じて小生の仕業ではない! そもそもこんな現象、人の手で可能なのでしょうか? やはり、これは怪異の仕業としか……!」

 その言葉に佐伯は黙り込み、代わりに奏汰が低く言った。
「それは……これからの調査で分かることだ」

 緊張感の余韻が残る中、絢葉は白石に小声で尋ねた。

「あの、佐伯先輩って、以前からあんな感じなんですか?」
「ええと、あんな感じというか……」
 彼女は静かに言葉を紡ぐ。

「私、一年の頃からずっと孤立してて……でも佐伯くんは、よく話しかけてくれたんです。クラス委員の仕事も、手伝ってくれたりして……。確かに熱くなりやすい所はあるかもしれないけど。私は……本当に、感謝してます」

 その声音には、隠しようのない本心がにじんでいた。
 絢葉はふっと息をつき、胸の奥で二人の絆を確かに感じ取った。

 ─────

 その頃。
 優雅部部室では、史桜がスマホ画面をじっと見つめていた。
 絢葉から送られてきた、二枚の窓の写真。

「……おや?」
 眉をひそめ、何かに気づいたように指先で画像をなぞる。

 雨音だけが響く静寂の中、彼の目は鋭く細められていた。
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