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2話ーかつてαだった男②
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「なんの電話ですか、門村先生」
「宅配便の再配達です」
国語教師らしく噛むことなくはっきりとした口調で言うと、同僚らは誤魔化されてくれた。良かったと心の中で嘆息すると雄大は自席の椅子に腰掛けながら、ああそうだ、と声を出す。
「それで、みつたにクリニックがどうかしたんですか」
途中で終わった会話を再び自分から口にする。仕事以外の無駄話は自分から振ったりしないのに、普段とは違う行動に出てしまうのはやはりみつたにクリニックのことが気になったからだ。
「そうそう、みつたにクリニックが大変らしいですよ」
「大変?」
二人の同僚に向かって首を傾げて見せると少し距離のある場所から話を聞いていた事務員がスマホを持って「これですよ」と見せに来る。手渡された画面にはネットニュースの記事が開かれていた。こんなに素早く差し出してくるということは誰かとこの話をしようと思っていたのだなと分かる。どうにも噂好きの人間が多い職場であると呆れるが、情報が欲しい時にすぐに出て来るというのは有難いことでもあるのだなと雄大は記事のタイトルに目を落とす。
「みつたにクリニック、バース検査ミス……」
見るからに長々と続く文字の羅列の要約を頼もうと顔を上げると既に何度も読み込んだのであろう事務員が「一言で言うなら医療過誤です」と得意げな顔をする。それはタイトルを見れば何となく察しはつく。雄大が知りたいのは医療過誤の内容だ。バース検査に関してどのようなミスが起きたのか。
事務員は漸く察して「第二性の告知をミスしたようです」と言い、雄大にネットニュースの一部分を指差して見せた。最初に会話をしていた同僚の二人は事務員が会話に加わると嫌そうに顔を歪めて散り散りに仕事に戻って行った。
――本来α性である患者にΩ性であると告知がなされた医療ミスが一件。同様にΩ性である患者にα性であるという告知がなされた医療ミスが一件、確認された。
そこまで読んで雄大は記事から目を逸らした。鳩尾の辺りが重たくなる。
「いやー、Ωだと思い込んでたのがαだったってなら格上げだし最高ですけど、αからΩは天国から地獄ですよねぇ」
事務員の声が職員室に響き渡る。この考えは一昔前のものだ。こういう空気の読めない差別発言――初老事務員が煙たがられる要因なのだが、悲しいかな本人には自覚がない。
治療法のなかった時代とは違い、今はどの性に生まれついても良い治療薬がある。ネガティブな部分は薬によって抑制することが出来、定期的にかかりつけ医の元を訪れ処方された薬を飲めば日常生活に何ら問題はない。必要なのはきちんとした知識だ。教育現場でも社会の中で性差別が生まれぬよう、低年齢の頃よりバース性について徹底的に叩き込む。
そうして数十年、教育された子供たちが社会を担うようになって段々と第二の性による格差は薄まっていった。それでも事務員のようにΩ性に生まれれば地獄だと軽く口にする人間は少なからず居る。
第二の性が研究され結果を得て、人々がバース性への知識を持ってなお差別は零にならない。人は学び、表立って口に出すことを止めただけなのだ。だから事務員の発言を顔を顰めて聞いている同僚らも口にはせずとも概ね意見は一致しているだろう。
雄大は苦笑いを浮かべて、事務員にスマホを返した。
「でも早い内に発覚して良かった。またきちんと治療をし直せばいい。今は良い薬が沢山あるみたいですし」
「それが発覚したのは――」
事務員がまだ何か言いたそうに話し掛けてくるが、雄大は急ぎの用があるのでと自席を向き事務員に背を向けた。これ以上話をしたくなかった。バース性の告知ミスは早期に発見されて治療法は修正され、告知を受けた人間に害は及ばなかった。そう思いたかった。
赤ペンを持ち、小テストの採点を終わらせていく。これが済んだら家に帰る。数日前に実家から持ち帰ったおかずを夕飯にしよう。その前に風呂に入って――今頭に浮かんだ予定を全て潰してみつたにクリニックの医師に会わなければならないのだった。
鳩尾の重さは一段階増して指が止まる。小テストの紙には赤が滲んでいた。
*
用件は単なる謝罪だろう。といっても自分は関係者ではなく、みつたにクリニックでバース検査を受けたことがあるから今回の医療過誤のニュースで迷惑を掛けたとか何とかーーいや、無関係者なのに謝罪もクソもあるものか、そもそも何もないのに家まで来るなんて言い出すだろうかーー相反する思考が駆け巡っていく。
雄大は家に帰る前に一度、みつたにクリニックに電話を入れた。電話口に出たのは若い男だった。
――今から帰ります
――では伺います
淡々とした口調だった。あまりにも淡白で、緊張感が消えて行くようだった。
雄大が自宅アパートに帰り着いて三十分もしない内にインターホンが鳴った。そっと玄関のドアを開くと男が三人立っている。
「初めまして。先程はお電話で失礼いたしました。田口と申します」
どうも、と頭を下げつつ、この人が「先生」かと確認をする。自分よりも年上、四十代前半といったところだろうか。アパートの薄暗い廊下に立っている三人の容姿は雄大を基準に年上っぽい、同じ年っぽい、若者、というそれぐらいの位置づけしか出来ない。ただ、三人共に長身で、暗闇の中にあってもそこだけ空気が違う。触れたらピリッと皮膚を傷めてしまいそうな感覚。目の前に居る男たちは皆αではないだろうか。
「門村さん、ご自宅の中でお話をさせて頂いて宜しいでしょうか」
「あ、ああ、はい」
催促されて玄関を塞いでいた体を端に避ける。三人が狭い玄関で靴を脱ぎ部屋の中に上がるのを見届けて、雄大は玄関の外に目をやった。雄大の住むアパートには同じ造りの部屋が十ある。壁が薄く、大人数を引き入れているところを見られると――友人の少ない雄大は滅多に人を招かないが――大きな声で騒いでいなくとも苦情が来ることがあるのだ。だから誰にも目撃されていないことを確認してから玄関のドアを閉めた。
日頃、家に人を入れないから雄大の部屋にはコップが二つしかない。仕方なくペットボトルのお茶を三本用意してローテーブルの上に置いた。
お構いなく、と田口は言ったのち、スッと床の上に正座になった。同時に他の二人も正座になって一斉に頭を下げた。雄大はまだリビングの床に座ってすらない。
「え、え、え、な、なに――」
「大変、申し訳ございませんでした」
三人の声が綺麗に重なった。真っ黒なスーツに真っ黒な後頭部が三つ。床の上に落ちた大きなシミみたいに見えて、皮膚が粟立つ。
「ニュース等でご存じとは思いますが」
田口の声が床に当たって籠って聞こえる。
まさか、そんな。
鳩尾の重さが全身に拡がってくる。田口はまだ何も言っていないというのに、雄大は自分の体を支え切れなくなって床に向かって膝をつく。
ああ、倒れてしまう。そう思ったが、雄大の体は真っ直ぐを保ったままでいた。三人の内で一番若く見える男が素早い動きでそばに来て腕を持ち支えてくれたからだ。
「お……俺が、バース検査の告知ミスの患者ですか」
自分で自分を追い込むようなか細い声で質問をした。田口でもなく、若い男でもない、もう一人の男が「現段階ではその可能性が高いです」と答えて、名刺を差し出して来る。弁護士のようで、けれど雄大には名刺の名がぼやけて見えた。こんな物どうでもいい。夢の中にいるように、自分の身に起こったこととは思えない。若い男に支えて貰っている体も自分の物ではないようにふわふわしている。
学校ではバース検査を前に不安がる子供たちに「どの性になっても自分自身が変わるわけじゃない。未来のために第二性を知り、自分と周りを大切に出来る大人になろう」そう教えているのに、自分の第二の性が誤っていたとなると途端に足元がぐらつく。
「俺は……αじゃないってことですか」
雄大は田口に問う。「その可能性がありますのでもう一度きちんと調べさせて頂きたい」と返答があると重苦しいと感じていた鳩尾の辺りが一気に解放されたみたいに軽くなる。爽快感なんてものじゃない、単に血の気が引いている。
「ま、待って、待ってください、俺、バース検査は十一の時に受けてて、その時、はっきりとαだと言われました。証明書みたいな、あの、あれも持ってます」
支え持たれた腕を振り解いて、雄大はズボンの後ろポケットに手を突っ込む。財布の中から「バース検査成績」と書かれた名刺サイズのカードを取り出した。名前、検査日、検査番号、検査時の年齢、施設名、第二の性が書かれたそれを誰に向かってでもなく差し出して見せるが雄大以外の人間は黙ったままで何も言わない。
「え、え、これが間違いだったってことですか。そうだ、あの時の先生を、俺の検査をした先生を連れて来て下さい。あなたたちでは話にならない」
「亡くなりました」
「はい?」
「門村さんを診察したのは元院長で、ひと月ほど前に亡くなりました。同じ頃、当クリニックでΩの診断を受けたがαの症状が出たという患者さんが来られまして、検査の結果その方はαでした。更に調査をするとその方が診断を受けたのが二十三年前で、同日検査を受けられた方が他に三人。当時の検査結果の内訳はα一名、Ω一名、β二名。きっかけとなった患者さんはα、残りの三名の中にΩの方がいらっしゃる可能性が高いということで昨日連絡が取れて即日検査された方が二名、こちらはお二人共βでした」
田口は、つまり残るは雄大のみ、と言いたいのだ。
しかし、医療過誤発覚の呼び水となった――Ω診断を受けたが実はαだった――この人物が何故今になってみつたにクリニックに出向いたのか。雄大の疑問を汲み取ったのか付け加えるように田口は続けた。
「この方はご自分の体がαに変わっていったことに特段困ることなく過ごしていたようです。しかし自分が誤診されたということは、同じように誤診された方がいるのではないか、もしかしたら自分とは反対にαと診断されたがΩであったという人がいて、困っているのではないかと、時間が経過していることに迷いはあったようですが当クリニックに申し出てくれた次第です」
「……再検査を受けて俺がαである可能性もあるんですよね」
「もちろんその可能性もあります。……ただ、それは本当に低い確率かと」
期待させないためか、それとも実際に雄大を見てαの素質が見てとれず、ある意味医療過誤を確信したのか、田口は語尾に向かうに従い声のトーンを落とした。
「宅配便の再配達です」
国語教師らしく噛むことなくはっきりとした口調で言うと、同僚らは誤魔化されてくれた。良かったと心の中で嘆息すると雄大は自席の椅子に腰掛けながら、ああそうだ、と声を出す。
「それで、みつたにクリニックがどうかしたんですか」
途中で終わった会話を再び自分から口にする。仕事以外の無駄話は自分から振ったりしないのに、普段とは違う行動に出てしまうのはやはりみつたにクリニックのことが気になったからだ。
「そうそう、みつたにクリニックが大変らしいですよ」
「大変?」
二人の同僚に向かって首を傾げて見せると少し距離のある場所から話を聞いていた事務員がスマホを持って「これですよ」と見せに来る。手渡された画面にはネットニュースの記事が開かれていた。こんなに素早く差し出してくるということは誰かとこの話をしようと思っていたのだなと分かる。どうにも噂好きの人間が多い職場であると呆れるが、情報が欲しい時にすぐに出て来るというのは有難いことでもあるのだなと雄大は記事のタイトルに目を落とす。
「みつたにクリニック、バース検査ミス……」
見るからに長々と続く文字の羅列の要約を頼もうと顔を上げると既に何度も読み込んだのであろう事務員が「一言で言うなら医療過誤です」と得意げな顔をする。それはタイトルを見れば何となく察しはつく。雄大が知りたいのは医療過誤の内容だ。バース検査に関してどのようなミスが起きたのか。
事務員は漸く察して「第二性の告知をミスしたようです」と言い、雄大にネットニュースの一部分を指差して見せた。最初に会話をしていた同僚の二人は事務員が会話に加わると嫌そうに顔を歪めて散り散りに仕事に戻って行った。
――本来α性である患者にΩ性であると告知がなされた医療ミスが一件。同様にΩ性である患者にα性であるという告知がなされた医療ミスが一件、確認された。
そこまで読んで雄大は記事から目を逸らした。鳩尾の辺りが重たくなる。
「いやー、Ωだと思い込んでたのがαだったってなら格上げだし最高ですけど、αからΩは天国から地獄ですよねぇ」
事務員の声が職員室に響き渡る。この考えは一昔前のものだ。こういう空気の読めない差別発言――初老事務員が煙たがられる要因なのだが、悲しいかな本人には自覚がない。
治療法のなかった時代とは違い、今はどの性に生まれついても良い治療薬がある。ネガティブな部分は薬によって抑制することが出来、定期的にかかりつけ医の元を訪れ処方された薬を飲めば日常生活に何ら問題はない。必要なのはきちんとした知識だ。教育現場でも社会の中で性差別が生まれぬよう、低年齢の頃よりバース性について徹底的に叩き込む。
そうして数十年、教育された子供たちが社会を担うようになって段々と第二の性による格差は薄まっていった。それでも事務員のようにΩ性に生まれれば地獄だと軽く口にする人間は少なからず居る。
第二の性が研究され結果を得て、人々がバース性への知識を持ってなお差別は零にならない。人は学び、表立って口に出すことを止めただけなのだ。だから事務員の発言を顔を顰めて聞いている同僚らも口にはせずとも概ね意見は一致しているだろう。
雄大は苦笑いを浮かべて、事務員にスマホを返した。
「でも早い内に発覚して良かった。またきちんと治療をし直せばいい。今は良い薬が沢山あるみたいですし」
「それが発覚したのは――」
事務員がまだ何か言いたそうに話し掛けてくるが、雄大は急ぎの用があるのでと自席を向き事務員に背を向けた。これ以上話をしたくなかった。バース性の告知ミスは早期に発見されて治療法は修正され、告知を受けた人間に害は及ばなかった。そう思いたかった。
赤ペンを持ち、小テストの採点を終わらせていく。これが済んだら家に帰る。数日前に実家から持ち帰ったおかずを夕飯にしよう。その前に風呂に入って――今頭に浮かんだ予定を全て潰してみつたにクリニックの医師に会わなければならないのだった。
鳩尾の重さは一段階増して指が止まる。小テストの紙には赤が滲んでいた。
*
用件は単なる謝罪だろう。といっても自分は関係者ではなく、みつたにクリニックでバース検査を受けたことがあるから今回の医療過誤のニュースで迷惑を掛けたとか何とかーーいや、無関係者なのに謝罪もクソもあるものか、そもそも何もないのに家まで来るなんて言い出すだろうかーー相反する思考が駆け巡っていく。
雄大は家に帰る前に一度、みつたにクリニックに電話を入れた。電話口に出たのは若い男だった。
――今から帰ります
――では伺います
淡々とした口調だった。あまりにも淡白で、緊張感が消えて行くようだった。
雄大が自宅アパートに帰り着いて三十分もしない内にインターホンが鳴った。そっと玄関のドアを開くと男が三人立っている。
「初めまして。先程はお電話で失礼いたしました。田口と申します」
どうも、と頭を下げつつ、この人が「先生」かと確認をする。自分よりも年上、四十代前半といったところだろうか。アパートの薄暗い廊下に立っている三人の容姿は雄大を基準に年上っぽい、同じ年っぽい、若者、というそれぐらいの位置づけしか出来ない。ただ、三人共に長身で、暗闇の中にあってもそこだけ空気が違う。触れたらピリッと皮膚を傷めてしまいそうな感覚。目の前に居る男たちは皆αではないだろうか。
「門村さん、ご自宅の中でお話をさせて頂いて宜しいでしょうか」
「あ、ああ、はい」
催促されて玄関を塞いでいた体を端に避ける。三人が狭い玄関で靴を脱ぎ部屋の中に上がるのを見届けて、雄大は玄関の外に目をやった。雄大の住むアパートには同じ造りの部屋が十ある。壁が薄く、大人数を引き入れているところを見られると――友人の少ない雄大は滅多に人を招かないが――大きな声で騒いでいなくとも苦情が来ることがあるのだ。だから誰にも目撃されていないことを確認してから玄関のドアを閉めた。
日頃、家に人を入れないから雄大の部屋にはコップが二つしかない。仕方なくペットボトルのお茶を三本用意してローテーブルの上に置いた。
お構いなく、と田口は言ったのち、スッと床の上に正座になった。同時に他の二人も正座になって一斉に頭を下げた。雄大はまだリビングの床に座ってすらない。
「え、え、え、な、なに――」
「大変、申し訳ございませんでした」
三人の声が綺麗に重なった。真っ黒なスーツに真っ黒な後頭部が三つ。床の上に落ちた大きなシミみたいに見えて、皮膚が粟立つ。
「ニュース等でご存じとは思いますが」
田口の声が床に当たって籠って聞こえる。
まさか、そんな。
鳩尾の重さが全身に拡がってくる。田口はまだ何も言っていないというのに、雄大は自分の体を支え切れなくなって床に向かって膝をつく。
ああ、倒れてしまう。そう思ったが、雄大の体は真っ直ぐを保ったままでいた。三人の内で一番若く見える男が素早い動きでそばに来て腕を持ち支えてくれたからだ。
「お……俺が、バース検査の告知ミスの患者ですか」
自分で自分を追い込むようなか細い声で質問をした。田口でもなく、若い男でもない、もう一人の男が「現段階ではその可能性が高いです」と答えて、名刺を差し出して来る。弁護士のようで、けれど雄大には名刺の名がぼやけて見えた。こんな物どうでもいい。夢の中にいるように、自分の身に起こったこととは思えない。若い男に支えて貰っている体も自分の物ではないようにふわふわしている。
学校ではバース検査を前に不安がる子供たちに「どの性になっても自分自身が変わるわけじゃない。未来のために第二性を知り、自分と周りを大切に出来る大人になろう」そう教えているのに、自分の第二の性が誤っていたとなると途端に足元がぐらつく。
「俺は……αじゃないってことですか」
雄大は田口に問う。「その可能性がありますのでもう一度きちんと調べさせて頂きたい」と返答があると重苦しいと感じていた鳩尾の辺りが一気に解放されたみたいに軽くなる。爽快感なんてものじゃない、単に血の気が引いている。
「ま、待って、待ってください、俺、バース検査は十一の時に受けてて、その時、はっきりとαだと言われました。証明書みたいな、あの、あれも持ってます」
支え持たれた腕を振り解いて、雄大はズボンの後ろポケットに手を突っ込む。財布の中から「バース検査成績」と書かれた名刺サイズのカードを取り出した。名前、検査日、検査番号、検査時の年齢、施設名、第二の性が書かれたそれを誰に向かってでもなく差し出して見せるが雄大以外の人間は黙ったままで何も言わない。
「え、え、これが間違いだったってことですか。そうだ、あの時の先生を、俺の検査をした先生を連れて来て下さい。あなたたちでは話にならない」
「亡くなりました」
「はい?」
「門村さんを診察したのは元院長で、ひと月ほど前に亡くなりました。同じ頃、当クリニックでΩの診断を受けたがαの症状が出たという患者さんが来られまして、検査の結果その方はαでした。更に調査をするとその方が診断を受けたのが二十三年前で、同日検査を受けられた方が他に三人。当時の検査結果の内訳はα一名、Ω一名、β二名。きっかけとなった患者さんはα、残りの三名の中にΩの方がいらっしゃる可能性が高いということで昨日連絡が取れて即日検査された方が二名、こちらはお二人共βでした」
田口は、つまり残るは雄大のみ、と言いたいのだ。
しかし、医療過誤発覚の呼び水となった――Ω診断を受けたが実はαだった――この人物が何故今になってみつたにクリニックに出向いたのか。雄大の疑問を汲み取ったのか付け加えるように田口は続けた。
「この方はご自分の体がαに変わっていったことに特段困ることなく過ごしていたようです。しかし自分が誤診されたということは、同じように誤診された方がいるのではないか、もしかしたら自分とは反対にαと診断されたがΩであったという人がいて、困っているのではないかと、時間が経過していることに迷いはあったようですが当クリニックに申し出てくれた次第です」
「……再検査を受けて俺がαである可能性もあるんですよね」
「もちろんその可能性もあります。……ただ、それは本当に低い確率かと」
期待させないためか、それとも実際に雄大を見てαの素質が見てとれず、ある意味医療過誤を確信したのか、田口は語尾に向かうに従い声のトーンを落とした。
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