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最終話ーさよなら、また明日
しおりを挟む「気持ちは固いのね」
「はい」
職場復帰から早三ヶ月。雄大は放課後校長室を訪ね、兼ねてより願い出ていたとある件について校長と面談していた。
「面接はいつなりそうなの?」
「校長の許可が下りてからという話になっていて、まだなんとも……でも人手不足だと聞いているので、一週間以内ではないかと思います」
「そう、ではこれ。推薦状です。持って行ってね」
「……ありがとうございます」
雄大は深々と頭を下げて、座っていたソファーから立ち上がる。同じようにソファーに座っていた校長も立ち上がって執務室から出て行く雄大を見送ってくれる。
「お世話になりました」
「門村先生とまた一緒に働ける日を楽しみにしてますよ」
「そうなれるように頑張ります」
笑顔を見せる校長に、雄大も穏やかに笑みを作る。
それでは、と再び頭を下げると校長が「あっ」と手を叩き、思い出したように雄大を呼び止めた。
「今日会った時から思ってたんだけど、門村先生、首の、よくお似合いですよ」
「あっ、ありがとうございます」
校長に言われ、雄大は首元を触りながら礼を言って校長室を出た。
雄大の首には戸賀井から贈られたチョーカーが付けられている。
Ωでもうなじの噛み跡を隠す者と隠さない者が居て、職業柄剥き出しよりも隠していたいと思う者は髪の毛を伸ばしたり、衣服でカバーしたり、雄大のようにチョーカーや首輪などで覆って噛み跡を見られないようにしている。
これを付けるということは誰かの番という意味なのでちょっとした気恥ずかしさはあるが、外出時に付けると戸賀井が嬉しそうにするので、それはまぁ悪くはない。
「先生~、さよーならー!」
廊下を歩いていると外から元気な声が聞こえてくる。
学校には幾人もの「先生」が存在しているので自分のことではないのかもしれないが、窓の外に向かって手を挙げて応えると女子の集団が「門村先生~、さよーならー」と再び声を掛けてくれた。
集団の中にあの子の姿が見える。二度目のヒートが来る少し前、両親のことで相談をしてくれた女生徒だ。
あれからどうなっただろうか。一応、担任教諭とも情報は共有しているが、元気に過ごしているという報告しか貰っていない。
窓に近付き、外に向かってもう一度手を振ると丸くなった集団の中で女生徒はひときわ輝く笑みを浮かべて雄大に向かって大きく手を振り返してくれた。
少しだけ安心して、帰って行く生徒たちを見守る。
「えっ、転職?」
「正式には転職ではないんだけどね」
寝支度を整えてから、前々から考えていたんだけど、と校長から受け取った推薦状と「小学児童向けバース性専門相談員」と書かれた冊子を戸賀井に見せる。
ダイニングテーブルの上に置かれたそれらと雄大の顔を交互に見ながら戸賀井が首を傾げる。
あの日、戸賀井にうなじを噛んで貰った数日後から二人はまた共に暮らし始めた。
遅かれ早かれそうしようとは思っていたが、ヒートが来た日、雄大の部屋から聞こえた騒音(つまりセックス中の物音)に対し苦情が出て、大家に注意されたため、恥ずかしくなって周りの住人に合わす顔もなく逃げるように戸賀井の家へと越してきてしまった。
いずれ、迷惑を掛けた近隣住人にはきちんと菓子折りを持って詫びに行かねばと思っているが、戸賀井には「そこまでする必要ないでしょ。セックスしてた人か~って目で見られるだけですよ」と言われている。
「どんな仕事なんですか。その、バース性専門の相談員て。前中さんみたいなもの?」
「ちょっと違う。俺がなりたいのはバース検査を受ける頃の子供たち専門の相談員。非常勤講師扱いだから教員免許がないとなれない」
「生徒の相談に乗るなら別に今のまま学校の先生でいいじゃんって俺は思うけど」
「うーん、まぁそうなんだけど、もっと経験を活かしたいなと思ってさ。俺みたいなパターンはそうないだろうけど、バース性に不安抱える子って多いから。第二の性に悩みを抱えてる子の相談ってクラス担任してる時から何度もあったけど、クラス受け持ってると忙しすぎて中々生徒たちの内面にまで関われなくなるんだよね。俺もその時は頑張ってたつもりだけど、ちゃんと向き合えてたのかは……分からない。そんなんじゃ生徒たちの不安も拭えないでしょ。それにバース性の悩みだけでも他に相談出来れば忙しい教員たちにとっても助けにもなるかなって」
寝ながら話そうか、と戸賀井に提案すると素直に手を繋いで来て、雄大は電気を消すよと一言断り、壁のスイッチに触れる。
寝室にしている戸賀井の部屋からは灯りが漏れていて、彼の手を引いて中へと入る。
「すぐなれるもんなんですか、その相談員って」
「ただでさえ難しい年頃の子の、それもバース性の相談だから神経使うらしくて人手不足らしいよ」
寝室の電気も消してしまうと先に戸賀井の方がベッドに上がって布団の中に潜り込む。次に掛布団を捲って雄大を招き入れる。
腕枕をしようとする戸賀井にすっかり慣れてしまった雄大は伸ばされた逞しい腕の上に後頭部を乗せて甘えるように彼の胸元に顔を寄せる。
「じゃあすぐなれるんですね」
「いや、面接がある。人手不足といっても誰でもなれるもんじゃないから、結構厳しいらしい」
「えっ、面接……それはいつ?」
「まだ決まってない。今、日取りを調整して貰ってる」
「面接の練習はしなくて大丈夫ですか」
「就活ではないからね。思ったままを話すよ。こういうのは取り繕っても仕方がないし。バース性について悩んでる生徒にしてあげたいこと、俺に出来ることを伝えてくる」
「……雄大さんのそういうところ、ほんと好きです。あー、好き、可愛い」
「可愛い関係ある?」
戸賀井の腕にぎゅうっと抱かれると甘い香りが彼の体内からじわっと溢れて来て、それを残らず吸い込んでしまいたくなる。
その夜、夢を見た。
夕陽の差し込む暖かな教室で小学生の戸賀井が泣いている。これは泣き止ませなければと焦りながら慰め、強硬手段に変顔まで見せた。そうしたら笑ってくれた。
小さな手を取り繋いで話を聞けば、泣いていた理由は校庭で転んで膝小僧を擦りむいたからだと言う。
良かった、バース性のことで泣いていたのではなかったと安心する。その内に戸賀井が「夕方だから帰らなくちゃ」と雄大の手を解いて教室のドアに向かって走って行く。
置いて行かないで欲しい。一緒に居て欲しい。そう思うのに声は出なくて、体も動かない。
戸賀井がドアを開いて振り返り「先生、さようなら」と笑う。生徒が笑っているのだから自分も微笑まなければと必死に頬を引き上げる。彼は大きく手を振り上げ、小さな体を横に揺らして「先生、さよなら、また明日ね!」とドアの向こうへ消えた。
戸賀井の笑顔は雄大の希望そのものだった。
αと思い込んでいた時には知らなかった。Ωになって漸く自分が成すべきことが分かった。
目覚めたらすぐに伝えよう。君のお陰だよって。きっと何を言っているか分からずに首を傾げるに違いない。
それまであともう少し、自分のためだけの香りに包まれていたい。
薄っすらと意識が戻って、まどろみの中で戸賀井の寝顔を確認すると「また明日ね」と夢の中で言えなかった返事をするように呟いて、光の朝に向かって再び眠りに落ちた。
[終]
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rapisさん、大変温かなメッセージをありがとうございます😊
一時はすれ違った二人ですが(すれ違い大好きです🫶)無事に結ばれて私もニッコニコで楽しく書くことが出来ました😊
兼田兄ーー!!彼の番を探す大冒険(番外編)も必要ですかね😂
本編では出てないですが、前中さんはラブラブなΩの旦那さんが居るので兼田兄に婚活イベントを紹介してあげることしか出来ないという🤣
雄大先生の部屋の前で戸賀井くんと鉢合わせになっても戸賀井くんは中に居る雄大先生のことしか考えてなくて翔さんのことは一瞥するだけかもしれませんね(可哀想…)(トボトボ帰る兼田兄)
あと、田畑くんのお店に行く戸賀井くんと雄大先生…!私も一人で妄想してたのでいつか形にしてみたい…!
本当に素敵なメッセージをありがとうございます🥹❤️
最後までお読み頂き、心より感謝申し上げます🥰❤️
さちさん、最後までお付き合いを頂き本当に本当にありがとうございました!
そしてこんなに素敵なお言葉まで…!
一方的な愛ではなく、なんならバース性すら関係なく、二人は互いに必要な者同士だった、ということをさちさんが読み取って下さったこと、とても嬉しく思います(いやもう泣いちゃう…)
本当に有難いメッセージをありがとうございました!さちさんのお言葉を胸に生きていきます(重いよ)
完結お疲れ様でした!
すごく大好きなお話で、終わってしまうのが悲しいですが素敵な最後でした。
ぜひぜひ、その後とか、番外編も続けていただけたら嬉しいです。
りんさん、お読み頂きありがとうございました…!!
大好きと仰って頂き、もう…もう…そのお言葉だけで生きて行けます(重い)
本編は終わってしまっても二人の人生は続いていくので、きっと今日も何処かで楽しくラブい生活を送っていると思います(*^^*)
ああ~~!番外編…!何も考えないで読めるエチなやつを書いてみたいです…!!!