2 / 6
第2話 私は、正しいことをしているはずなのに
しおりを挟む
――リュシア視点――
どうして、こんなことになるのだろう。
「リュシア、君は本当に優しいね」
王太子殿下は、いつもそう言って微笑んでくれる。
そのたびに、胸があたたかくなった。
私はただ、困っている人を助けたいだけなのに。
***
「リュシア様、ありがとうございます!」
平民の女性が、涙ぐみながら私の手を握る。
家族が病気で、薬代が払えない。
だから私は、殿下の名を借りて支援を約束した。
「気にしないで。困ったときは、お互いさまだもの」
そう言うと、周りの人たちが感動したように見つめてくる。
――いいことをした。
私はそう思った。
けれど、その日の夜。
「……またですか」
低く、冷たい声。
振り向くと、そこにはアリアンナ様が立っていた。
完璧に整えられた姿。
感情を感じさせない瞳。
「支援金の出どころ、確認なさいました?」
「え……?」
「王家の予算は、無限ではありませんわ」
責められているようで、胸がちくりと痛む。
「で、でも……困っている方だったんです」
「存じています」
彼女は静かに頷いた。
「だからこそ、正式な手続きを踏むべきでした」
その言葉は正しい。
正しい、はずなのに。
どうしてこんなに、冷たく聞こえるのだろう。
「アリアンナ様は、いつもそうです……」
思わず、口からこぼれた。
「数字とか、規則とか……人の心がないみたい」
一瞬だけ、彼女の指が止まった。
けれど、すぐにまた書類へと視線を戻す。
「心があるからこそ、現実を見るのです」
その声は、怒ってもいなかった。
ただ、淡々としていた。
***
数日後。
噂が、私の耳にも入ってきた。
「アリアンナ様、殿下に冷たいらしいわ」
「リュシア様をいじめてるって……」
違う。
いじめてなんか、いない。
でも――
彼女の視線を思い出すと、胸がざわつく。
まるで、
私が“何か大切なもの”を壊していると知っているみたいで。
(私は、間違ってない……よね?)
私は優しい。
私は正しい。
だって、殿下も、みんなも、そう言ってくれる。
それなのに。
どうして、アリアンナ様の背中が、
あんなにも孤独に見えたのだろう。
***
三日後。
彼女が断罪されると聞いた。
胸の奥が、少しだけ、ざわりとする。
(これで……いいのよね)
私はヒロイン。
物語は、私の味方のはず。
――そう、信じていた。
このときは、まだ。
どうして、こんなことになるのだろう。
「リュシア、君は本当に優しいね」
王太子殿下は、いつもそう言って微笑んでくれる。
そのたびに、胸があたたかくなった。
私はただ、困っている人を助けたいだけなのに。
***
「リュシア様、ありがとうございます!」
平民の女性が、涙ぐみながら私の手を握る。
家族が病気で、薬代が払えない。
だから私は、殿下の名を借りて支援を約束した。
「気にしないで。困ったときは、お互いさまだもの」
そう言うと、周りの人たちが感動したように見つめてくる。
――いいことをした。
私はそう思った。
けれど、その日の夜。
「……またですか」
低く、冷たい声。
振り向くと、そこにはアリアンナ様が立っていた。
完璧に整えられた姿。
感情を感じさせない瞳。
「支援金の出どころ、確認なさいました?」
「え……?」
「王家の予算は、無限ではありませんわ」
責められているようで、胸がちくりと痛む。
「で、でも……困っている方だったんです」
「存じています」
彼女は静かに頷いた。
「だからこそ、正式な手続きを踏むべきでした」
その言葉は正しい。
正しい、はずなのに。
どうしてこんなに、冷たく聞こえるのだろう。
「アリアンナ様は、いつもそうです……」
思わず、口からこぼれた。
「数字とか、規則とか……人の心がないみたい」
一瞬だけ、彼女の指が止まった。
けれど、すぐにまた書類へと視線を戻す。
「心があるからこそ、現実を見るのです」
その声は、怒ってもいなかった。
ただ、淡々としていた。
***
数日後。
噂が、私の耳にも入ってきた。
「アリアンナ様、殿下に冷たいらしいわ」
「リュシア様をいじめてるって……」
違う。
いじめてなんか、いない。
でも――
彼女の視線を思い出すと、胸がざわつく。
まるで、
私が“何か大切なもの”を壊していると知っているみたいで。
(私は、間違ってない……よね?)
私は優しい。
私は正しい。
だって、殿下も、みんなも、そう言ってくれる。
それなのに。
どうして、アリアンナ様の背中が、
あんなにも孤独に見えたのだろう。
***
三日後。
彼女が断罪されると聞いた。
胸の奥が、少しだけ、ざわりとする。
(これで……いいのよね)
私はヒロイン。
物語は、私の味方のはず。
――そう、信じていた。
このときは、まだ。
571
あなたにおすすめの小説
平手打ちされたので、婚約破棄宣言に拳でお答えしました
Megumi
恋愛
婚約破棄を告げられ、婚約者に平手打ちされた——その瞬間。
伯爵令嬢イヴの拳が炸裂した。
理不尽に耐える淑女の時代は、もう終わり。
これは“我慢しない令嬢”が、これまでの常識を覆す話。
『恋心を凍らせる薬を飲みました』 - 残りの学園生活、どうぞご自由にお遊びください、婚約者様
恋せよ恋
恋愛
愛されることを諦めた。だから、私は心を凍らせた。
不誠実な婚約者・ユリアンの冷遇に耐えかねたヤスミンは、
伝説の魔女の元を訪れ、恋心を消し去る「氷の薬」を飲む。
感情を捨て、完璧な「人形」となった彼女を前に、
ユリアンは初めて己の罪と執着に狂い始める。
「お願いだ、前のように僕を愛して泣いてくれ!」
足元に跪き、涙を流して乞う男に、ヤスミンは冷酷に微笑む。
「愛?……あいにく、そのような無駄な感情は捨てましたわ」
一度凍りついた心は、二度と溶けない。
後悔にのたうち回る男と、心を凍らせた冷徹な公爵夫人の、
終わりのない贖罪の記録。
🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。
🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。
🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。
🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。
🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!
嫌いなところが多すぎるなら婚約を破棄しましょう
天宮有
恋愛
伯爵令嬢の私ミリスは、婚約者ジノザに蔑まれていた。
侯爵令息のジノザは学園で「嫌いなところが多すぎる」と私を見下してくる。
そして「婚約を破棄したい」と言ったから、私は賛同することにした。
どうやらジノザは公爵令嬢と婚約して、貶めた私を愛人にするつもりでいたらしい。
そのために学園での評判を下げてきたようだけど、私はマルク王子と婚約が決まる。
楽しい日々を過ごしていると、ジノザは「婚約破棄を後悔している」と言い出した。
何か、勘違いしてません?
シエル
恋愛
エバンス帝国には貴族子女が通う学園がある。
マルティネス伯爵家長女であるエレノアも16歳になったため通うことになった。
それはスミス侯爵家嫡男のジョンも同じだった。
しかし、ジョンは入学後に知り合ったディスト男爵家庶子であるリースと交友を深めていく…
※世界観は中世ヨーロッパですが架空の世界です。
幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。
灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。
曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。
婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。
前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。
正妃として教育された私が「側妃にする」と言われたので。
水垣するめ
恋愛
主人公、ソフィア・ウィリアムズ公爵令嬢は生まれてからずっと正妃として迎え入れられるべく教育されてきた。
王子の補佐が出来るように、遊ぶ暇もなく教育されて自由がなかった。
しかしある日王子は突然平民の女性を連れてきて「彼女を正妃にする!」と宣言した。
ソフィアは「私はどうなるのですか?」と問うと、「お前は側妃だ」と言ってきて……。
今まで費やされた時間や努力のことを訴えるが王子は「お前は自分のことばかりだな!」と逆に怒った。
ソフィアは王子に愛想を尽かし、婚約破棄をすることにする。
焦った王子は何とか引き留めようとするがソフィアは聞く耳を持たずに王子の元を去る。
それから間もなく、ソフィアへの仕打ちを知った周囲からライアンは非難されることとなる。
※小説になろうでも投稿しています。
私は愛する人と結婚できなくなったのに、あなたが結婚できると思うの?
あんど もあ
ファンタジー
妹の画策で、第一王子との婚約を解消することになったレイア。
理由は姉への嫌がらせだとしても、妹は王子の結婚を妨害したのだ。
レイアは妹への処罰を伝える。
「あなたも婚約解消しなさい」
完璧令嬢の『誰にでも優しい婚約者様』
恋せよ恋
恋愛
名門で富豪のレーヴェン伯爵家の跡取り
リリアーナ・レーヴェン(17)
容姿端麗、頭脳明晰、誰もが憧れる
完璧な令嬢と評される“白薔薇の令嬢”
エルンスト侯爵家三男で騎士課三年生
ユリウス・エルンスト(17)
誰にでも優しいが故に令嬢たちに囲まれる”白薔薇の婚約者“
祖父たちが、親しい学友であった縁から
エルンスト侯爵家への経済支援をきっかけに
5歳の頃、家族に祝福され結ばれた婚約。
果たして、この婚約は”政略“なのか?
幼かった二人は悩み、すれ違っていくーー
今日もリリアーナの胸はざわつく…
🔶登場人物・設定は作者の創作によるものです。
🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。
🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。
🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。
🔶 いいね❤️励みになります!ありがとうございます✨
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる