死せる勇者、魔界で生きる 〜蘇った俺はただ静かに暮らしたい〜

夢乃アイム

文字の大きさ
41 / 89
第二章:魔界式スローライフ

第六話:復讐者の執念

しおりを挟む
 静寂の中、ヴァルゼオとセリオが再び向き合う。

 ヴァルゼオの傷口から滴る黒い血が、夜の闇に溶けるように地面に吸い込まれていく。しかし、彼の表情には痛みも焦りもなかった。ただ、燃え盛る執念の炎が瞳の奥で揺らめいているだけだった。

「俺は、お前を殺すためだけに存在している」

 ヴァルゼオの声は低く、確信に満ちていた。

「生前、お前は魔王を討つために戦い、そして勝った。だがその直後に俺がお前を殺した。そして、アンデッドとして蘇った貴様を——俺は何度も葬ってきた」

 セリオは剣を構えながら、その言葉の意味を静かに噛み締める。

 ——やはり、こいつは俺が過去に"五度目の復活"を果たしていることを知っている。

 自分の知らない自分。
 記憶にない"過去の俺"を知る者が、目の前にいる。

「……ヴァルゼオ、お前の目的は何だ?」

 セリオの問いに、ヴァルゼオは嗤う。

「言っただろう、"勇者殺し"だ」

 ヴァルゼオの剣が妖しく光る。紫電が刃を包み、空間が軋む音が響いた。

「……俺の一族は、人間の勇者に滅ぼされた」

 ヴァルゼオの声には、深い怨嗟が滲んでいた。

「五百年前、魔族と人間の戦争があった。その時、"勇者"の名を持つ者たちは、多くの魔族の血を浴びてきた。俺の家族も、俺の故郷も——すべて、勇者の剣に屠られた」

「……」

「だから俺は誓った。"勇者"を殺すと。"勇者"という存在を、この世から根絶やしにすると」

 ヴァルゼオの剣が地面に突き立てられた。その瞬間、周囲の魔力がざわめき、地面が揺れる。

「俺にとって、お前は"勇者"の象徴だ」

 彼の瞳が鋭く光る。

「何度蘇ろうと、俺はお前を殺し続ける……それが、俺の生きる理由だ!」

 刹那——ヴァルゼオの剣が閃いた。

 雷撃を伴う一閃が、セリオの眼前に迫る。

 ——速い!

 セリオは反射的に霊装の剣を構え、間一髪で受け止めた。衝撃が腕を痺れさせ、足元の地面がひび割れる。
 だが、ヴァルゼオはさらに追撃を仕掛けてきた。

「受けるだけか、勇者よ!」

 横薙ぎの一撃。セリオはそれをかわしつつ、すれ違いざまに剣を振るった。しかし——

「甘い!」

 ヴァルゼオは驚異的な反応速度で後退し、セリオの剣を紙一重で避ける。
 そのまま彼は低い姿勢で飛び込み、鋭い突きを繰り出した。
 セリオはとっさに後方へ跳ぶが——完全には避けきれなかった。

「ぐっ……!」

 ヴァルゼオの剣がセリオの肩を貫く。アンデッドの体だから致命傷にはならないが、強力な魔力を帯びた一撃に、体の動きが鈍るのを感じた。

「ふん、やはり"死者"にすぎんな」

 ヴァルゼオが嘲笑する。

「貴様は勇者だった頃のようには戦えん。死者の剣に、人を救う力などない」

 セリオは奥歯を噛みしめた。

 ——確かに、俺は人間だった頃の強さを取り戻せてはいない。

 ——けれど……それでも。

「俺は"人を救うために"戦っているわけじゃない」

 セリオは剣を持ち直し、ゆっくりとヴァルゼオを見据えた。

「俺は、"生きるために"戦っている」

 その言葉に、ヴァルゼオの眉がわずかに動いた。

「生きる……だと?」
「俺は、"勇者"としての使命はもう持たない。ただ、自分のために戦うだけだ」

 セリオの剣が淡く蒼白の輝きを帯びる。

「……だから、"勇者殺し"に囚われたお前を、ここで止める」

 空気が張り詰める。

 夜の闇の中、二人の戦士が最後の決着に向けて動き出そうとしていた——。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

勇者の隣に住んでいただけの村人の話。

カモミール
ファンタジー
とある村に住んでいた英雄にあこがれて勇者を目指すレオという少年がいた。 だが、勇者に選ばれたのはレオの幼馴染である少女ソフィだった。 その事実にレオは打ちのめされ、自堕落な生活を送ることになる。 だがそんなある日、勇者となったソフィが死んだという知らせが届き…? 才能のない村びとである少年が、幼馴染で、好きな人でもあった勇者の少女を救うために勇気を出す物語。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…

アルファカッター
ファンタジー
ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。 そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!

「餌代の無駄」と追放されたテイマー、家族(ペット)が装備に祝福を与えていた。辺境で美少女化する家族とスローライフ

天音ねる(旧:えんとっぷ)
ファンタジー
【祝:男性HOT18位】Sランクパーティ『紅蓮の剣』で、戦闘力のない「生産系テイマー」として雑用をこなす心優しい青年、レイン。 彼の育てる愛らしい魔物たちが、実はパーティの装備に【神の祝福】を与え、その強さの根源となっていることに誰も気づかず、仲間からは「餌代ばかりかかる寄生虫」と蔑まれていた。 「お前はもういらない」 ついに理不尽な追放宣告を受けるレイン。 だが、彼と魔物たちがパーティを去った瞬間、最強だったはずの勇者の聖剣はただの鉄クズに成り果てた。祝福を失った彼らは、格下のモンスターに惨敗を喫する。 ――彼らはまだ、自分たちが捨てたものが、どれほど偉大な宝だったのかを知らない。 一方、レインは愛する魔物たち(スライム、ゴブリン、コカトリス、マンドラゴラ)との穏やかな生活を求め、人里離れた辺境の地で新たな暮らしを始める。 生活のためにギルドへ持ち込んだ素材は、実は大陸の歴史を塗り替えるほどの「神話級」のアイテムばかりだった!? 彼の元にはエルフやドワーフが集い、静かな湖畔の廃屋は、いつしか世界が注目する「聖域」へと姿を変えていく。 そして、レインはまだ知らない。 夜な夜な、彼が寝静まった後、愛らしい魔物たちが【美少女】の姿となり、 「れーんは、きょーも優しかったの! だからぽるん、いーっぱいきらきらジェル、あげたんだよー!」 「わ、私、今日もちゃんと硬い石、置けました…! レイン様、これがあれば、きっともう危ない目に遭いませんよね…?」 と、彼を巡って秘密のお茶会を繰り広げていることを。 そして、彼が築く穏やかな理想郷が、やがて大国の巨大な陰謀に巻き込まれていく運命にあることを――。 理不尽に全てを奪われた心優しいテイマーが、健気な“家族”と共に、やがて世界を動かす主となる。 王道追放ざまぁ × 成り上がりスローライフ × 人外ハーモニー! HOT男性49位(2025年9月3日0時47分) →37位(2025年9月3日5時59分)→18位(2025年9月5日10時16分)

Sランクパーティーを追放された鑑定士の俺、実は『神の眼』を持ってました〜最神神獣と最強になったので、今さら戻ってこいと言われてももう遅い〜

夏見ナイ
ファンタジー
Sランクパーティーで地味な【鑑定】スキルを使い、仲間を支えてきたカイン。しかしある日、リーダーの勇者から「お前はもういらない」と理不尽に追放されてしまう。 絶望の淵で流れ着いた辺境の街。そこで偶然発見した古代ダンジョンが、彼の運命を変える。絶体絶命の危機に陥ったその時、彼のスキルは万物を見通す【神の眼】へと覚醒。さらに、ダンジョンの奥で伝説のもふもふ神獣「フェン」と出会い、最強の相棒を得る。 一方、カインを失った元パーティーは鑑定ミスを連発し、崩壊の一途を辿っていた。「今さら戻ってこい」と懇願されても、もう遅い。 無能と蔑まれた鑑定士の、痛快な成り上がり冒険譚が今、始まる!

処理中です...