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第2話 ねた魅
(7)数多の蛇
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巳之吉と桔梗、ふたりは、またも放り出される。
染みを見せ終えた紫色の繭のモヤモヤから、ポイッと放り出される。
「ったくよぅ、危ねぇったら、ありゃしねぇ!」
「巳之吉様、そろそろ慣れていただきませんと」
「わ~かっちゃいるけどよ、つい文句が出ちまうんだよなぁ!」
「えぇ、まぁ、仕方ありません。それも、あなたの性分ですから」
「ははは。おめぇも俺のこと、分かってきたじゃァねぇか。
しっかし、今度もひでぇもんだったなぁ……。
あの半助ってぇ、二枚目はよぅ。濡れ衣じゃあねぇか」
「そのようですね」
「それにしても、人の噂ってのは怖ぇな。
半助がよぅ、店のおなご連中に手をつけたって?
そんな様子は無かったよなぁ?」
「えぇ。専ら、長吉の世話ばかり焼いていたようです」
「だよなぁ! お嬢さんとは話してたみてぇだったがよ?
あれも、おめぇが言うみてぇに、付き合っちゃいねぇのかもな」
「それは分かりませんが、人の噂が怖いのは、その通りかと」
「なんだ、なんだ。また、あれかい? 人だった時分とやらの」
「はい。散々聞きましたよ。
根も葉もない噂話が、真のように語られている様を」
「まぁ、俺も心当たりがなくも無ぇ。
『嫌なやつだ、悪りぃやつだ』と聞かされていたやつに会ったらよ?
とんでもねぇ! いいやつだったってこともあった」
「噂というのは、まるで物の怪のようですね」
「『体を持たねぇのに、人を誑かす』ってとこがか?
あっはっは。桔梗、うめぇこと言うじゃねぇか。
おっと、こうしちゃいられねぇ! お出ましなすったぜ!」
巳之吉の言葉に、桔梗が振り向けば、後ろは蛇に囲まれていた。
真っ黒な体で、金色に輝くまなこが、ギラギラとこちらを見つめる。
体全体に、青白い鬼火のような炎をまとう。
チロチロとのぞく長い舌は、紅のように鮮やかな赤色をしている。
その大きさは、手のひらほど。
一匹であれば、その辺りでよく見かける蛇と変わりない。
蛇など、毒さえ持っていなければ、怖いものでもない。
けれど、目の前の蛇たちの姿は、怖ろしく見える。
なにせ、数が尋常ではない。
百、いや、数百にも見える数の蛇が、とぐろを巻いている。
「うへぇ! 俺ァ、蛇は苦手じゃあねぇけどよ。この数は、いけねぇや」
「そうですね。全てを始末するとなると、多少の手間が掛かります」
「いや、そういうことじゃァなくてよ。なんでなんだろうなァ。
おんなじものが集まると、途端に気持ち悪りぃと思うのはよ?
そうだ、逃げちまおうぜ! こいつらは無視して、糸を探せばよ?」
「そう、うまくいくでしょうか?」
「まぁ、やってみようぜ。三十六計逃げるに如かずって言うだろ?」
言うなり、巳之吉は着物をからげると、蛇のいないほうに走り出す。
桔梗も、そのあとに続く。
桔梗の袴の裾は、全く乱れる様子はない。
草履を履いた足だけが、スススと動く。
「どちらに逃げるというのです?」
「さっきよぅ、蛇どもの後ろっかわに、チラリと見えたのよ。
紫のボゥッとした光がなぁ! だからよ、ぐるっと回れば。
蛇どもを倒さなくとも、糸に辿り着けるんじゃねぇか?」
意気揚々と走り出した巳之吉だったが、あっさりと立ち止まる。
紫色の霧のようなものに包まれた繭の中。
どちらが前か後ろかも、すぐに見失ってしまう。
挙げ句、振り向けば、大量の蛇との間は、少しも縮まってはいない。
「こりゃ、まずい。蛇どもの後ろっかわが、どこか分からねぇ」
「この紫色の霧は、物の怪の出す瘴気のようなもの。
簡単に逃してはくれないと思われます」
「そうなのかよ? ちくしょう! めんどくせぇが、仕方ねぇ!
一匹ずつ、どうにかしてくしかねぇ!」
「どうやるのです?」
「子どもの頃にやった遊び通りに、やりゃあいい!」
そう言い放つと、巳之吉は蛇の頭を目掛けて、グシャリと足を踏みおろす。
それから、尻尾のほうを掴んだかと思うと、己の頭の上でブンブンと振り回す。
そうして、くたりとなった蛇を、今度は地面にバシバシと叩きつける。
すると、蛇は、その姿がサラサラと砂のように砕けていく。
風もないというのに、砂になった蛇は、どこかへと消えていった。
「ほら、どうでぃ! ざっと、こんなもんよ!」
「確かに、始末は出来るようですが……」
桔梗の言葉を聞いているのか、いないのか。
巳之吉は、手近な蛇を捕まえては、グシャリ。
それから、ブンブン、バシバシ。……サラサラサラサラ。
というのをくり返している。
ところが、この巳之吉の動きに蛇たちも黙ってはいない。
シュー、シーッ、シューッ、シューッ!
蛇たちが一斉に、威嚇するような音を出し始める。
しかし、巳之吉は、それには気づかない。
蛇を始末することに躍起になっていて、頭に血がのぼっているようだ。
やがて、蛇たちは、鎌首をもたげた。
かと思うと、巳之吉目掛けて、一斉に飛び掛かる。
羽があるわけでも、脚があるわけでもないというのに。
まさに、飛ぶようにして、蛇たちは巳之吉に咬み掛かる。
バサバサリッ、ドサドサリッ!
頭と胴体に分かれた蛇が、己の周りにバラバラと落ちて。
ようやく巳之吉は、我に返る。
「うぉっ! なんだ、こりゃあ!」
「巳之吉様、お下がりを。一匹ずつでは、手に負えませぬ」
バラバラになった蛇は、桔梗が斬り伏せたものだった。
いつものように腰から抜かれた篠笛は、長巻へと変げする。
薙刀のようにも見えるが、よく見れば柄の長い刀。
己の身の丈よりも大きなそれを、桔梗は軽々と扱っている。
飛び掛かってくる蛇を、足を後ろに引きながら、左右に薙ぐ。
巳之吉を己の背に庇うようにして、次々襲いくる蛇を薙ぐ。
頭が胴から斬り離された蛇は、しばらく、のたうち回る。
が、すぐに砂のようにサラサラと消えてゆく。
「こりゃあ、たまげた! おめぇさん、やっぱりすげぇや!」
「……油断なさらぬよう。数は、力ですゆえ」
桔梗の言葉に反応するように、蛇たちはジリジリと近づいてくる。
その数は、すでにかなりの蛇を始末したはずだというのに。
一向に減ったようには思えない数だった。
染みを見せ終えた紫色の繭のモヤモヤから、ポイッと放り出される。
「ったくよぅ、危ねぇったら、ありゃしねぇ!」
「巳之吉様、そろそろ慣れていただきませんと」
「わ~かっちゃいるけどよ、つい文句が出ちまうんだよなぁ!」
「えぇ、まぁ、仕方ありません。それも、あなたの性分ですから」
「ははは。おめぇも俺のこと、分かってきたじゃァねぇか。
しっかし、今度もひでぇもんだったなぁ……。
あの半助ってぇ、二枚目はよぅ。濡れ衣じゃあねぇか」
「そのようですね」
「それにしても、人の噂ってのは怖ぇな。
半助がよぅ、店のおなご連中に手をつけたって?
そんな様子は無かったよなぁ?」
「えぇ。専ら、長吉の世話ばかり焼いていたようです」
「だよなぁ! お嬢さんとは話してたみてぇだったがよ?
あれも、おめぇが言うみてぇに、付き合っちゃいねぇのかもな」
「それは分かりませんが、人の噂が怖いのは、その通りかと」
「なんだ、なんだ。また、あれかい? 人だった時分とやらの」
「はい。散々聞きましたよ。
根も葉もない噂話が、真のように語られている様を」
「まぁ、俺も心当たりがなくも無ぇ。
『嫌なやつだ、悪りぃやつだ』と聞かされていたやつに会ったらよ?
とんでもねぇ! いいやつだったってこともあった」
「噂というのは、まるで物の怪のようですね」
「『体を持たねぇのに、人を誑かす』ってとこがか?
あっはっは。桔梗、うめぇこと言うじゃねぇか。
おっと、こうしちゃいられねぇ! お出ましなすったぜ!」
巳之吉の言葉に、桔梗が振り向けば、後ろは蛇に囲まれていた。
真っ黒な体で、金色に輝くまなこが、ギラギラとこちらを見つめる。
体全体に、青白い鬼火のような炎をまとう。
チロチロとのぞく長い舌は、紅のように鮮やかな赤色をしている。
その大きさは、手のひらほど。
一匹であれば、その辺りでよく見かける蛇と変わりない。
蛇など、毒さえ持っていなければ、怖いものでもない。
けれど、目の前の蛇たちの姿は、怖ろしく見える。
なにせ、数が尋常ではない。
百、いや、数百にも見える数の蛇が、とぐろを巻いている。
「うへぇ! 俺ァ、蛇は苦手じゃあねぇけどよ。この数は、いけねぇや」
「そうですね。全てを始末するとなると、多少の手間が掛かります」
「いや、そういうことじゃァなくてよ。なんでなんだろうなァ。
おんなじものが集まると、途端に気持ち悪りぃと思うのはよ?
そうだ、逃げちまおうぜ! こいつらは無視して、糸を探せばよ?」
「そう、うまくいくでしょうか?」
「まぁ、やってみようぜ。三十六計逃げるに如かずって言うだろ?」
言うなり、巳之吉は着物をからげると、蛇のいないほうに走り出す。
桔梗も、そのあとに続く。
桔梗の袴の裾は、全く乱れる様子はない。
草履を履いた足だけが、スススと動く。
「どちらに逃げるというのです?」
「さっきよぅ、蛇どもの後ろっかわに、チラリと見えたのよ。
紫のボゥッとした光がなぁ! だからよ、ぐるっと回れば。
蛇どもを倒さなくとも、糸に辿り着けるんじゃねぇか?」
意気揚々と走り出した巳之吉だったが、あっさりと立ち止まる。
紫色の霧のようなものに包まれた繭の中。
どちらが前か後ろかも、すぐに見失ってしまう。
挙げ句、振り向けば、大量の蛇との間は、少しも縮まってはいない。
「こりゃ、まずい。蛇どもの後ろっかわが、どこか分からねぇ」
「この紫色の霧は、物の怪の出す瘴気のようなもの。
簡単に逃してはくれないと思われます」
「そうなのかよ? ちくしょう! めんどくせぇが、仕方ねぇ!
一匹ずつ、どうにかしてくしかねぇ!」
「どうやるのです?」
「子どもの頃にやった遊び通りに、やりゃあいい!」
そう言い放つと、巳之吉は蛇の頭を目掛けて、グシャリと足を踏みおろす。
それから、尻尾のほうを掴んだかと思うと、己の頭の上でブンブンと振り回す。
そうして、くたりとなった蛇を、今度は地面にバシバシと叩きつける。
すると、蛇は、その姿がサラサラと砂のように砕けていく。
風もないというのに、砂になった蛇は、どこかへと消えていった。
「ほら、どうでぃ! ざっと、こんなもんよ!」
「確かに、始末は出来るようですが……」
桔梗の言葉を聞いているのか、いないのか。
巳之吉は、手近な蛇を捕まえては、グシャリ。
それから、ブンブン、バシバシ。……サラサラサラサラ。
というのをくり返している。
ところが、この巳之吉の動きに蛇たちも黙ってはいない。
シュー、シーッ、シューッ、シューッ!
蛇たちが一斉に、威嚇するような音を出し始める。
しかし、巳之吉は、それには気づかない。
蛇を始末することに躍起になっていて、頭に血がのぼっているようだ。
やがて、蛇たちは、鎌首をもたげた。
かと思うと、巳之吉目掛けて、一斉に飛び掛かる。
羽があるわけでも、脚があるわけでもないというのに。
まさに、飛ぶようにして、蛇たちは巳之吉に咬み掛かる。
バサバサリッ、ドサドサリッ!
頭と胴体に分かれた蛇が、己の周りにバラバラと落ちて。
ようやく巳之吉は、我に返る。
「うぉっ! なんだ、こりゃあ!」
「巳之吉様、お下がりを。一匹ずつでは、手に負えませぬ」
バラバラになった蛇は、桔梗が斬り伏せたものだった。
いつものように腰から抜かれた篠笛は、長巻へと変げする。
薙刀のようにも見えるが、よく見れば柄の長い刀。
己の身の丈よりも大きなそれを、桔梗は軽々と扱っている。
飛び掛かってくる蛇を、足を後ろに引きながら、左右に薙ぐ。
巳之吉を己の背に庇うようにして、次々襲いくる蛇を薙ぐ。
頭が胴から斬り離された蛇は、しばらく、のたうち回る。
が、すぐに砂のようにサラサラと消えてゆく。
「こりゃあ、たまげた! おめぇさん、やっぱりすげぇや!」
「……油断なさらぬよう。数は、力ですゆえ」
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