ミノタウロスの森とアリアドネの嘘

鬼霧宗作

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第一章 好奇心の代償【現在 七色七奈】

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 きぃ、きぃと軋むような音がするキャスターを引きずりながら、エレベーターに乗って地下へと向かう。マンションの地下は駐車場となっており、住人達が車を停める車庫である。

 車なんて維持費がかかるし、毎月のように駐車場代も口座から引き落とされている。くわえて年に一度は自動車税なんてものが請求されるし、2年に一度は車検なんてものがあり、また金を取られる。手放したほうがいい気がするのだが、しかしいざとなった時に車というものは役に立つ。

 公共機関さえあれば、なんとかなるような街であっても、車があるのとないのとでは雲泥の差が出るだろう。駅に向かわずとも、停留所に行かなくとも、いつでも好きなタイミングで自宅からスタートし、全て自分のペースで進行することのできる車は、やはりありがたい。

 地下に降りると、コンクリートに囲まれた空間がひんやりと冷たかった。エレベーターからかなりの距離を歩き、ようやく自分の車のところまでやってきた。鍵を開けて荷物を積み込むと、運転先へと乗り込む。そして、なかば祈るような形でキーを回した。セルが回る音がしばらく断続的に聞こえ、地下駐車場が静寂に包まれる寸前で、エンジン音が響いた。なんとかバッテリーは上がらずに済んでいたらしい。これから遠出をするわけだから、簡単でもいいから車屋で点検してもらうべきなのであろうが、とりあえず動けばいいという考え方の私からすれば、それは後回しにすべき事案だった。いざとなったら、なんとでもなるだろうし。

 普段は車を運転しないペーパードライバーであるがゆえに、最初こそビクビクとしながら運転していたのであるが、しばらくすると運転にも慣れ始め、オーディオから流れる音楽に耳を傾ける余裕が出てきた。

 高速道路に入る前にコンビニへと寄り、道中で必要となるであろうものを買い込む。お菓子と飲み物。気分はちょっとした遠足気分だ。買い物を済ませると、コンビニの駐車場でカーナビを操作する。目的地を入力すると、ざっとではあるが到着予定時間が表示される。到着予定時刻は今から高速を使って3時間ほど。自分の感覚よりも距離がありそうだ。

 改めてペーパードライバーであることを自らに言い聞かせる。少し慣れてきたといっても、高速道路となるとさすがに怖い。ある程度のスピードを出さないといけないし、追越車線ではスピードを出したトラックなんかが容赦なく走り抜けていく。軽自動車は、その度に風に煽られる。気を引き締めて運転しないと。
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