ミノタウロスの森とアリアドネの嘘

鬼霧宗作

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第一章 好奇心の代償【現在 七色七奈】

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「あの、ちょっとお聞きしたいんですが」

 このまま聞かれるがままにしていては、なんだか根掘り葉掘り聞かれてしまうような気がする。かつてここに住んでいたはずの人間が、ふらりと立ち寄った。しかも、これまで一度も街に顔を出さなかった人間が――なんてことは、この田舎ではすでにスクープだ。井戸端会議のネタにと、色々と聞かれる前に私は先制することにした。もっとも、かなり遅れを取った先制ではあるが。

「なんだろうかね?」

 余所者に対しての当たりはきついが、しかし元より身内だった人間となれば、話はまた変わってくるのであろう。相変わらず馴れ馴れしいながらも、どこか漂っていた、よそよそしさのようなものは消え去っていた。レジ袋が必要か否かを聞いてくる前に、問答無用でレジ袋に商品を詰めてしまうあたりは、田舎特有のローカルルールのようなものなのかもしれない。

「あの、この街に小学校ってありましたよね? 私も小さい頃に通っていた学校なんですけど」

 ここまでに来る道中で、なんとなく見覚えのある風景を見たような気もすれば、まるで記憶にない風景も見てきた私。かつて住んでいた街とはいえ、私の中にある街の記憶は小学生から途絶えており、だから無事に学校までたどり着けるのか、いささか不安になった。

「あぁ、随分と前に廃校になったけどね。今じゃ誰も寄り付かないよ。ここら辺の子は、朝も早くからスクールバスで、中心部のほうの学校に行ってるよ。少子高齢化なんて言うけどね、本当にこの辺じゃ高齢化が深刻な問題になっていて――ほら、ここ出身の人間も、外で所帯を持ってしまうと帰ってなんてこないだろ? だから、空き家も目立つようになっちゃってさ。そうそう……それに」

 喋り出したら止まらない。まるで、私が久しぶりのお客であるとでも言わんばかりに、話はこの辺りの情勢から、お隣さんの娘さんがとうとう結婚して家を出てしまい、高齢化に拍車がかかっているなんて、私からしたらどうでもいい話にいたるまで、頼みもしていないのに延々と続く。私は手を差し出して、おばさんが持ったままだったレジ袋の取っ手に指を通し、おばさんの言葉を遮る。

「学校って、たしか駐在所の近くにありましたよね?」

 本当はもう少し詳しい情報が欲しかったのであるが、それを聞くにはとんでもない長さの世間話がセットになるような気がした私は、昔の記憶を掘り起こして、目印になるようなものがないかを探す。記憶が正しければ、小学校の近くに駐在所があったはず。
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