ミノタウロスの森とアリアドネの嘘

鬼霧宗作

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第三章 惨殺による惨殺【過去 高田富臣】

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 もちろん、それを表に出したりはしない。単純にダサいからだ。女子の前で、ミノタウロスの森なんていう迷信にビビってなどいられない。

 小さい頃から聞かされてきた、様々な話に洗脳されているだけなのだ。この辺りの人間は、小さい頃からそれを植え付けられるだけであり、余所者からすれば、単なる不気味な森にすぎないはず。妙に情報が溢れてしまっているからこそ、恐怖が増幅しているだけなのだ。

「おっし、それじゃ――ちょっと朱里のやつをビビらせてやろうぜ」

 朱里はたった一人でミノタウロスの森に入った。正直なところ普通の神経ではないと思う。度胸があるとか、そういうレベルではない。ミノタウロスの森を目の前にして、ひょうひょうとしていられる人間は、何か大切なものが欠けているのではないかとさえ思ってしまう。

「多分だけど、中は思っている以上に足元が悪くなってる。依田――その履き物だと、ちょっと厳しいかもな。木の根なんかが、普通に地面を這っていると思うから、歩く時に気をつけろ」

 鏑木の言葉を聞いて、はにかみながら頷く由美香。吊り橋効果で出ているのか、変に鏑木が美味しいところを掻っ攫っているような気がする。

「隊列としては、高田が先頭で依田と細川を挟む形で、俺が最後尾になろう。こうしておけば、前から何か来ても、後ろから何か来ても対応することができる」

 別にいいところを見せようとしているわけではなく、いつも通りのデフォルトなのだろう。しかしながら、このような状況では鏑木が良いように見られ、それに比べられる形で、自分の価値が下がってしまうような気がする。実際にそうではないのかもしれないが、思春期のアインデンティティーが不安定な年頃は、無駄に周囲と自分を比べがちだ。

「来るって――何が?」

 茜が問うと、鏑木は静かな口調で返した。

「ミノタウロスの森っていうくらいだから、いるんじゃないか? かの大迷宮に解き放たれ、遭遇した者を殺して回ったという殺人鬼――ミノタウロスが」

 そんな話、誰からも聞いたことはなかった。そもそも、ミノタウロスの森と呼ばれるようになった由来は他にあったはず。鏑木の言うような殺人鬼など潜んではいない。そう信じたいが、鏑木が言うと妙に信憑性が出てくるから不思議だ。

「まさか。そんなのがいたとして、ずっと森の中に潜んでるわけ? そんなことはあり得ないわ」

 由美香の言葉に対して、鏑木の口調がやや強めになった。

「だが、実際にこの森では、過去にあり得ないことが起きている」
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