ミノタウロスの森とアリアドネの嘘

鬼霧宗作

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第四章 ミノタウロスはいる【現在 七色七奈】

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「不都合というと?」

 きっと、大和田も頭のどこかで理解はしているのだろう。しかしながら、それを簡単に受け止めるわけにはいかないため、あえて私に問う形にしたのだと思う。だって、これを認めてしまったら、大和田の警察官としての立場がなくなるから。

「つまり、誰かが湯川を殺害した。それが例えば、この辺の有力者の息子だったとしましょう。それならば、警察の介入を拒む理由になりませんか?」

 例え話として出した話ではあるが、もしそれが本当に横行していたとしたらどうしようかと、少しばかり不安になった。

 けれども、根拠がまるでないというわけではないのだ。事実、過去に多くの人が命を失っているミノタウロスの森であるが、そこで何かが起きたという記録はなさそうだ。あくまでも、この地域の人達に忌み嫌われている土地――という程度に留まっている。

「まさか、そんな三文小説みたいな話が――」

「ないと言い切れますか? 事実上、大和田さんは介入を拒まれたんです。この法治国家である日本において、それがさも当然とばかりに拒まれたんですよ」

 大和田は受け入れざるを得ない。私の目の前で、実際に介入を拒まれてしまったのだから。国家権力でありながら、ただの有力者に屈してしまったのだから。私は大和田の説得を続ける。

「世の中、表向きは綺麗事ばかりかもしれませんが、その裏には間違いなくアンダーグラウンドが存在します。誰も触れようとしない、誰も興味を抱こうとしない、そして関わってはいけないものが」

 新聞社で働いているからといって、そんな簡単にアンダーグラウンドに触れることはない。しかしながら、そのような気配が世の中のあらゆるところで漂っていることは、きっと誰もが気づいていることであろう。

 見えているけど、見えないふりをしているだけだ。気づいているけど、気づかないふりをしているだけ。なぜなら、それに関わらないことこそが、なによりも最善だから。安全だから。

「普通に考えれば、まともにやり合わないほうがいいのかもしれない。そこかしこに点在するビデオテープ。ビデオテープの中で起きつつある惨劇。そして――時を経て命を落としてしまった、ビデオテープの出演者。ここまでの条件が揃っておきながら、見ないふりをするわけにはいかないか」

 大和田は大きく溜め息を漏らすと、私のほうに向かって頭を深々と下げてきた。

「さっきはみっともない姿を見せてしまった。警察官として失格だ」
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