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第四章 ミノタウロスはいる【過去 鏑木孝義】
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あ、あぁ――そんなまさか。この森がミノタウロスの森と呼ばれる由縁を、身をもって知ることになるなんて。
鏑木は本能的に察した。この場から今すぐ逃げなければ、次は自分の番であると。
ずっと握りしめたままの懐中電灯を、その影のほへと向けた。
――牛。
まず真っ先に飛び込んできたのは牛の顔。しかし、そこから下は赤いマントに身を包んでいる。何よりも奇妙なのは、牛の顔をしているくせに、二足歩行であるということ。これでは、まるで本物のミノタウロスではないか。
鏑木は足で地面を蹴って、少しでもミノタウロスから離れようとする。しかしながら、腰が抜けてしまっている状況では、完全なる無駄なあがき。そうしている間にも、ミノタウロスは一歩、また一歩と距離を詰めてくる。
「く、くるな――。こないでくれ」
必死に立ち上がろうとする。その場から離れようとする。しかしながら、頭の中で体に命令を出しても、それが受け付けられることはない。とうとう、自身の意に反して、股間の辺りが熱くなった。失禁――というやつだ。
どう考えたって、この状況はまずい。これでミノタウロスの正体が高田辺りで、全てが手の込んだ悪戯だったら、どれだけ良かったことか。しかし、ミノタウロスが腰からぶら下げていたものを直視してしまった鏑木は、大声を上げると同時に絶望した。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
それは、由美香の首だった。そう、文字通りに首。ミノタウロスの腰に結えつけられたロープから、由美香の生首がぶら下がっていたのだ。その目は驚いたかのごとく大きく見開かれ、大きく開いた口からは、だらしなく舌がだらりと垂れていた。
殺される――それは、先ほどから本能的に感じていたことであったが、どうやら理性的な面から見ても、それは間違いないようだ。
足を動かさないと。立ち上がらないと。ここを離れないと。逃げ出さないと。色々と頭の中では考えが巡るが、情報が錯綜して命令系統を混乱させる。
当然、ミノタウロスが待ってくれるわけもなく、とうとう鏑木の目の前までやってくる。鏑木はミノタウロスの顔を見上げ、そして懐中電灯で照らすのが精一杯だった。
片手が斧を振り上げるミノタウロス。表情――なんて、もともと牛だからないのかもしれないが、まるで動きのない無機質な顔が、変に怖かった。
鏑木が最期に聞いたのは、斧が風を切り裂く音だけだった。
――その後訪れたのは。二度と光が戻ることのない闇。永遠の闇だった。
鏑木は本能的に察した。この場から今すぐ逃げなければ、次は自分の番であると。
ずっと握りしめたままの懐中電灯を、その影のほへと向けた。
――牛。
まず真っ先に飛び込んできたのは牛の顔。しかし、そこから下は赤いマントに身を包んでいる。何よりも奇妙なのは、牛の顔をしているくせに、二足歩行であるということ。これでは、まるで本物のミノタウロスではないか。
鏑木は足で地面を蹴って、少しでもミノタウロスから離れようとする。しかしながら、腰が抜けてしまっている状況では、完全なる無駄なあがき。そうしている間にも、ミノタウロスは一歩、また一歩と距離を詰めてくる。
「く、くるな――。こないでくれ」
必死に立ち上がろうとする。その場から離れようとする。しかしながら、頭の中で体に命令を出しても、それが受け付けられることはない。とうとう、自身の意に反して、股間の辺りが熱くなった。失禁――というやつだ。
どう考えたって、この状況はまずい。これでミノタウロスの正体が高田辺りで、全てが手の込んだ悪戯だったら、どれだけ良かったことか。しかし、ミノタウロスが腰からぶら下げていたものを直視してしまった鏑木は、大声を上げると同時に絶望した。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
それは、由美香の首だった。そう、文字通りに首。ミノタウロスの腰に結えつけられたロープから、由美香の生首がぶら下がっていたのだ。その目は驚いたかのごとく大きく見開かれ、大きく開いた口からは、だらしなく舌がだらりと垂れていた。
殺される――それは、先ほどから本能的に感じていたことであったが、どうやら理性的な面から見ても、それは間違いないようだ。
足を動かさないと。立ち上がらないと。ここを離れないと。逃げ出さないと。色々と頭の中では考えが巡るが、情報が錯綜して命令系統を混乱させる。
当然、ミノタウロスが待ってくれるわけもなく、とうとう鏑木の目の前までやってくる。鏑木はミノタウロスの顔を見上げ、そして懐中電灯で照らすのが精一杯だった。
片手が斧を振り上げるミノタウロス。表情――なんて、もともと牛だからないのかもしれないが、まるで動きのない無機質な顔が、変に怖かった。
鏑木が最期に聞いたのは、斧が風を切り裂く音だけだった。
――その後訪れたのは。二度と光が戻ることのない闇。永遠の闇だった。
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