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第五章 時を越えた禁忌【過去 高田富臣】
第五章 時を越えた禁忌【過去 高田富臣】1
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【1】
「なんなんだよ、あいつ――絶対にヤベェって」
ようやく落ち着ける場所を見つけた彼――高田富臣は、泥だらけになった両手を眺めながら呟いた。泥だらけの手には、赤い色が混じっている。目の前で首を掻っ切られた、由美香のものだった。
牛のマスクを身につけ、下は赤いマントを羽織っていた。あの小ぶりな斧は、その割に殺傷力は強く、由美香はおそらく一撃でやられてしまったに違いない。
目の前で由美香の脳天が裂かれ、そして血が噴き出したのだ。助けようなんて思いはなく、ただ突き飛ばして逃げた高田のことを、誰も責めはしないだろう。
あれに襲われた時、森の外に向かって逃げれば良かったものの、高田はなにも考えずに森の奥のほうへと逃げてしまった。少し行った先が急斜面になっており、そこを駆け上がれば逃げおおせることができると考えた自分が愚かだった。
それでも体力にはそこそこの自信があったし、案の定、牛のマスクを被ったそれ――例えたくはないがミノタウロスは、急斜面の前で立ち往生した。それを尻目に、ほぼ真っ暗闇の中を走り続けた。明かりなんてとっくの昔に失っていたし、暗闇に大分目が慣れてくれている。人間というものは、思っている以上に周囲の環境に溶け込むことができるようだ。ここに来て、人間の順応能力の高さに、高田は感心していた。
実は途中で山小屋があった。しかしながら、混乱の最中、明かりもなしに森の奥へと進む高田には、それが山肌の影と重なって見えなかった。もし、そこで山小屋を見つけ、そこに退避していれば、なにかが変わったのかもしれない。
しかしながら、懸命に逃げてきたことにより、多少は落ち着きを取り戻しつつある高田。とにもかくにも由美香の血が混じった泥だらけの手を洗いたい。
ふと、川のせせらぎのようなものが聞こえることに気づいた。それは意識していなければ逃してしまいそうな音。その音がする方へと高田は歩き出す。
はっきり言って泣きたい。誰もいないのだから、泣いてしまいたい。それでも涙は出ないのだから不思議なものである。気が張っているのか、まだ気持ちが落ち着いてはいないのか。とにもかくにも、目の前で人が殺されて、そして自分は森の奥まで逃げてきた。くわえて、あの殺人鬼が森のどこかをうろついているかもしれない状況だ。
――冷静でいろというほうが無理な話であり、まだまだ落ち着ける状況にはない。少しずつ、現状を改善するために脳内物質が分泌されているようだが、精神状態が正常に戻るには、まだ時間がかかるだろう。
「なんなんだよ、あいつ――絶対にヤベェって」
ようやく落ち着ける場所を見つけた彼――高田富臣は、泥だらけになった両手を眺めながら呟いた。泥だらけの手には、赤い色が混じっている。目の前で首を掻っ切られた、由美香のものだった。
牛のマスクを身につけ、下は赤いマントを羽織っていた。あの小ぶりな斧は、その割に殺傷力は強く、由美香はおそらく一撃でやられてしまったに違いない。
目の前で由美香の脳天が裂かれ、そして血が噴き出したのだ。助けようなんて思いはなく、ただ突き飛ばして逃げた高田のことを、誰も責めはしないだろう。
あれに襲われた時、森の外に向かって逃げれば良かったものの、高田はなにも考えずに森の奥のほうへと逃げてしまった。少し行った先が急斜面になっており、そこを駆け上がれば逃げおおせることができると考えた自分が愚かだった。
それでも体力にはそこそこの自信があったし、案の定、牛のマスクを被ったそれ――例えたくはないがミノタウロスは、急斜面の前で立ち往生した。それを尻目に、ほぼ真っ暗闇の中を走り続けた。明かりなんてとっくの昔に失っていたし、暗闇に大分目が慣れてくれている。人間というものは、思っている以上に周囲の環境に溶け込むことができるようだ。ここに来て、人間の順応能力の高さに、高田は感心していた。
実は途中で山小屋があった。しかしながら、混乱の最中、明かりもなしに森の奥へと進む高田には、それが山肌の影と重なって見えなかった。もし、そこで山小屋を見つけ、そこに退避していれば、なにかが変わったのかもしれない。
しかしながら、懸命に逃げてきたことにより、多少は落ち着きを取り戻しつつある高田。とにもかくにも由美香の血が混じった泥だらけの手を洗いたい。
ふと、川のせせらぎのようなものが聞こえることに気づいた。それは意識していなければ逃してしまいそうな音。その音がする方へと高田は歩き出す。
はっきり言って泣きたい。誰もいないのだから、泣いてしまいたい。それでも涙は出ないのだから不思議なものである。気が張っているのか、まだ気持ちが落ち着いてはいないのか。とにもかくにも、目の前で人が殺されて、そして自分は森の奥まで逃げてきた。くわえて、あの殺人鬼が森のどこかをうろついているかもしれない状況だ。
――冷静でいろというほうが無理な話であり、まだまだ落ち着ける状況にはない。少しずつ、現状を改善するために脳内物質が分泌されているようだが、精神状態が正常に戻るには、まだ時間がかかるだろう。
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