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第六章 アリアドネの嘘【現在 七色七奈】
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油が良い具合に牛のマスクにかかったからなのか。それとも、牛のマスクが燃えやすい素材だったのか。一気に牛のマスクが炎上する。きっと本人は自分がどんな状態なのか分かっていないのであろう。そっとマスクのほうに手をやって、ようやくマスクが焼けていることに気づいたようだ。
その場に斧を放り投げて――というか、取り落として、山小屋の外に向かって走り出した。私はそこでようやく、大和田が身を隠した辺りへと視線をやった。そこには、警棒を構えたまま固まっている大和田の姿があった。
「――いや、奇襲を仕掛けようとしたら、ランタンを投げつけるんだもん。どうしていいのか分からなくなったよ」
どうやら、大和田が襲い掛かろうとした瞬間と、私がランタンを投げつけたタイミングが被ってしまったらしい。それにしたって、随分と機が熟すのを待ったという印象だった。
「それよりも、ミノタウロスを!」
幸いなことに、ミノタウロスは凶器を失ってしまった。今ならば、きっとこちらのほうが優位に立てるはず。しかも、あちらは牛のマスクが燃えてしまい、嫌でもそれを外さなければならない状況だ。どうやら、ミノタウロスの正体を拝むことができるらしい。
大和田と私はアイコンタクトを交わし、山小屋の外へと飛び出した。もちろん、警棒を持っている大和田が先頭だ。ミノタウロスが置いて行った斧を持って行こうかどうか迷ったが、しかしとりあえず山小屋の中に置いたままにしておくことにした。
森の中は薄暗いはずだが、ミノタウロスのマスクが燃えているおかげで明るかった。たまらずマスクを外したのであろう。ミノタウロスは私達に背を向けたまま、呼吸を整えているようだった。足元に放り投げられた牛のマスクが赤く燃え、プラスティックが燃える独特の臭いが辺りに漂う。
「動くなっ!」
その後ろ姿に向かって大和田が声を荒げる。ミノタウロスは髪の毛を後ろのほうでまとめているようだった。やはり――ミノタウロスの正体は女性か。いいや、おそらく赤松朱里なのであろう。
大和田の言葉を受け、ゆっくりとミノタウロスが振り返る。もう、あちらは凶器を持っていない。だから、こちらのほうが優位に立っているはずなのに、何故か気圧されるものがあった。
「あ、あなたは――」
牛のマスクの下に現れた顔。その見慣れていたはずの顔に、私は思わず声を漏らした。いつもはマスクをしているから、一瞬誰だか分からなかったが、間違いない。
「西尾……さん?」
そこにいたのは、そう――本田電器店のアルバイト店員。西尾さんだった。
その場に斧を放り投げて――というか、取り落として、山小屋の外に向かって走り出した。私はそこでようやく、大和田が身を隠した辺りへと視線をやった。そこには、警棒を構えたまま固まっている大和田の姿があった。
「――いや、奇襲を仕掛けようとしたら、ランタンを投げつけるんだもん。どうしていいのか分からなくなったよ」
どうやら、大和田が襲い掛かろうとした瞬間と、私がランタンを投げつけたタイミングが被ってしまったらしい。それにしたって、随分と機が熟すのを待ったという印象だった。
「それよりも、ミノタウロスを!」
幸いなことに、ミノタウロスは凶器を失ってしまった。今ならば、きっとこちらのほうが優位に立てるはず。しかも、あちらは牛のマスクが燃えてしまい、嫌でもそれを外さなければならない状況だ。どうやら、ミノタウロスの正体を拝むことができるらしい。
大和田と私はアイコンタクトを交わし、山小屋の外へと飛び出した。もちろん、警棒を持っている大和田が先頭だ。ミノタウロスが置いて行った斧を持って行こうかどうか迷ったが、しかしとりあえず山小屋の中に置いたままにしておくことにした。
森の中は薄暗いはずだが、ミノタウロスのマスクが燃えているおかげで明るかった。たまらずマスクを外したのであろう。ミノタウロスは私達に背を向けたまま、呼吸を整えているようだった。足元に放り投げられた牛のマスクが赤く燃え、プラスティックが燃える独特の臭いが辺りに漂う。
「動くなっ!」
その後ろ姿に向かって大和田が声を荒げる。ミノタウロスは髪の毛を後ろのほうでまとめているようだった。やはり――ミノタウロスの正体は女性か。いいや、おそらく赤松朱里なのであろう。
大和田の言葉を受け、ゆっくりとミノタウロスが振り返る。もう、あちらは凶器を持っていない。だから、こちらのほうが優位に立っているはずなのに、何故か気圧されるものがあった。
「あ、あなたは――」
牛のマスクの下に現れた顔。その見慣れていたはずの顔に、私は思わず声を漏らした。いつもはマスクをしているから、一瞬誰だか分からなかったが、間違いない。
「西尾……さん?」
そこにいたのは、そう――本田電器店のアルバイト店員。西尾さんだった。
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