ロンダリングプリンセス―事故物件住みます令嬢―

鬼霧宗作

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ケース1 密室殺人事件を妄想する御令嬢【出題編】

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「それにしても、なんと素敵な場所なんでしょう。かつて間違いなく文明というものがあったはずの場所なのに、今ではその亡骸を残したまま、誰一人として寄り付かない。峠を照らす街灯の明かりさえも届かないこの場所は、一体どんな形で朽ち果てたのかしら――」

 一里之の挨拶もそこそこに、ラブホテルの廃墟を眺めて目を輝かせるコトリ。失礼なことを承知でこう思わせて欲しい。薬でも決めてるのだろうか。

「それで、問題の物件はどれ? まさか、そこに見える3棟全てが事故物件などということはないのでしょう?」

 その質問が、鯖洲ではなく自分に向けられていることに気づいた一里之は、早速引き継いだファイルをめくる。手帳サイズのそれは、油断するとどこかになくしてしまいそうで怖い。

「その右端の棟――【は棟】になります」

 まだコトリとの距離感が測れない。歳は近いようだから、フランクに接するべきなのか。それとも、仕事であり、またあちらのほうが明らかに立場が上であろうから、下手に出るべきか。コトリはどちらかと言うと馴れ馴れしい――もとい、フレンドリーに接してくれているのだが。

「あちらね? ちなみに、鍵はもう用意できていて?」

 一里之が案内した方面は、当たり前ながら漆黒の闇に包まれている。それなのにも関わらず、嬉々として暗闇の中に向かって歩き出すコトリ。足元が悪いことを考えてか、スカート裾を両手で上げて、スタスタと闇夜に消える。

「おい、お嬢! 一応、ここは色々な意味で崖っぷちの物件だからよ、下手すると落ちるぞ! ちょっとは落ち着け!」

 本当ならば、お世話係の自分が追いかけるべきなのであろうか。鯖洲は一里之のほうを見ると軽く舌打ちをし、スマホのライトを点けてコトリの姿を追う。

「セバスチャン、早くいらっしゃいな! 辺りが暗くて何も見えなくてよ!」

 ちょっと考えれば、それくらい分かりそうなものだが。もしかして、あれだろうか。コトリはもしかして俗にいうアホの子なのだろうか。鯖洲に任せるもの申し訳ないし、何よりも置き去りにされてしまいそうな気がした一里之は、鯖洲の後をスマホのライトを頼りに追いかけた。

 思ったよりも敷地は広くなかった。入ってすぐに、3棟のモーテル型の建築物が並んでいる。どれも同じデザインになっているが、廃業してから時間が経過しているからか、痛み具合には差があるようだ。特に――これから向かおうという【は棟】は、色々な意味で酷かった。
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