124 / 391
ケース3 山奥の事故物件【出題編】
2
しおりを挟む
季節は紅葉が見どころとなる秋。この時期は、日中になればまだ暑いとはいえ、昼と朝夜の温度差が大きい。朝方なんて冷え込むことさえあった。ゆえに、夜通し暖炉に火を入れて、客がリビングに降りて来ても寒くないように温度の調整をする。
優子は朝食の準備をするために優子がリビングへと降りた。リビングは客同士や従業員が交流する場として利用していた。そして、朝も早くから夫と客がコーヒーカップを片手に喋り込んでいることも多かった。けれども、今日は誰もリビングにいない。それにくわえて寒い。夫が夜通し火を絶やさないようにしている暖炉の火が消えていた。
寝ずの番をするわけではないが、定期的に起きては火の様子を見ることが癖になっていたはずの夫。これまで火を絶やしたことなんて一度もなかった。しまった――と思いながらも、とりあえず、まだ火が生きているかもしれないと考えた優子は、暖炉の脇にあるストッカーを開ける。薪を入れるのにちょうど良かった。
薪が一本もなかった。どうやらきらしてしまったらしい。客を起こさないように夫の名前を小声で呼ぶふりをする。返事はない。
――スマホは持っているが、しかしここは電波が入らない。今時、本当に珍しい話ではあるが、しかし辛うじて電波が入るエリアから外されてしまっていたのだ。それを逆手に取り、日常から切り離された空間を売りにしていたのだが、こういう時は不便だ。スマホが使えれば、夫のスマホに着信を入れることができるのに。
優子はリビング脇にかけてあったカーディガンを羽織り、まだ肌寒い朝の山中へと足を踏み入れた。昨夜は雨が降っていたせいか、足元にぎっしりと敷き詰められていた落葉が湿っていて、寒々としていた。それらを踏みしめながら、優子はペンション脇に建てられている薪割り小屋へと向かった。薪がないのだから、薪割り小屋で薪を割っている――その思考にたどり着くのは安易だ。
薪割り小屋は基礎なんてものは作らず、柱となる木を土に打ち込み、そこに壁を張って屋根を作っただけの簡素なものとなる。建築知識なんてほとんどない夫が、知り合いの大工やら、ネットの情報を頼りに作り上げた簡素なものだった。それでも、内側から閂をかけることができるのは、夫なりのこだわりだとか。内側から鍵をかけることができたとして、一体何の役に立つのか疑問ではあるが、夫は満足しているようだった。
薪割り小屋で作業をしていれば、外に出た時点で音が響いているはず。しかしながら、秋の山中は静寂に包まれていた。鳥のさえずりさえ聞こえない。
優子は朝食の準備をするために優子がリビングへと降りた。リビングは客同士や従業員が交流する場として利用していた。そして、朝も早くから夫と客がコーヒーカップを片手に喋り込んでいることも多かった。けれども、今日は誰もリビングにいない。それにくわえて寒い。夫が夜通し火を絶やさないようにしている暖炉の火が消えていた。
寝ずの番をするわけではないが、定期的に起きては火の様子を見ることが癖になっていたはずの夫。これまで火を絶やしたことなんて一度もなかった。しまった――と思いながらも、とりあえず、まだ火が生きているかもしれないと考えた優子は、暖炉の脇にあるストッカーを開ける。薪を入れるのにちょうど良かった。
薪が一本もなかった。どうやらきらしてしまったらしい。客を起こさないように夫の名前を小声で呼ぶふりをする。返事はない。
――スマホは持っているが、しかしここは電波が入らない。今時、本当に珍しい話ではあるが、しかし辛うじて電波が入るエリアから外されてしまっていたのだ。それを逆手に取り、日常から切り離された空間を売りにしていたのだが、こういう時は不便だ。スマホが使えれば、夫のスマホに着信を入れることができるのに。
優子はリビング脇にかけてあったカーディガンを羽織り、まだ肌寒い朝の山中へと足を踏み入れた。昨夜は雨が降っていたせいか、足元にぎっしりと敷き詰められていた落葉が湿っていて、寒々としていた。それらを踏みしめながら、優子はペンション脇に建てられている薪割り小屋へと向かった。薪がないのだから、薪割り小屋で薪を割っている――その思考にたどり着くのは安易だ。
薪割り小屋は基礎なんてものは作らず、柱となる木を土に打ち込み、そこに壁を張って屋根を作っただけの簡素なものとなる。建築知識なんてほとんどない夫が、知り合いの大工やら、ネットの情報を頼りに作り上げた簡素なものだった。それでも、内側から閂をかけることができるのは、夫なりのこだわりだとか。内側から鍵をかけることができたとして、一体何の役に立つのか疑問ではあるが、夫は満足しているようだった。
薪割り小屋で作業をしていれば、外に出た時点で音が響いているはず。しかしながら、秋の山中は静寂に包まれていた。鳥のさえずりさえ聞こえない。
0
あなたにおすすめの小説
余命僅かな大富豪を看取って、円満に未亡人になるはずでした
ぜんだ 夕里
恋愛
傾きかけた家を救うため、私が結んだのはあまりにも不謹慎な契約――余命いくばくもない大富豪の辺境伯様と結婚し、彼の最期を穏やかに看取ることで莫大な遺産を相続する、というものだった。
しかし、人の死を利用して富を得るなど不正義!
そう考えた私が立てたのは、前代未聞の計画。
「そうだ、遺産が残らないくらい贅沢の限りを尽くしてもらえば、すべて丸く収まるじゃない!」
【完結】真実の愛はおいしいですか?
ゆうぎり
恋愛
とある国では初代王が妖精の女王と作り上げたのが国の成り立ちだと言い伝えられてきました。
稀に幼い貴族の娘は妖精を見ることができるといいます。
王族の婚約者には妖精たちが見えている者がなる決まりがありました。
お姉様は幼い頃妖精たちが見えていたので王子様の婚約者でした。
でも、今は大きくなったので見えません。
―――そんな国の妖精たちと貴族の女の子と家族の物語
※童話として書いています。
※「婚約破棄」の内容が入るとカテゴリーエラーになってしまう為童話→恋愛に変更しています。
☘ 注意する都度何もない考え過ぎだと言い張る夫、なのに結局薬局疚しさ満杯だったじゃんか~ Bakayarou-
設楽理沙
ライト文芸
☘ 2025.12.18 文字数 70,089 累計ポイント 677,945 pt
夫が同じ社内の女性と度々仕事絡みで一緒に外回りや
出張に行くようになって……あまりいい気はしないから
やめてほしいってお願いしたのに、何度も……。❀
気にし過ぎだと一笑に伏された。
それなのに蓋を開けてみれば、何のことはない
言わんこっちゃないという結果になっていて
私は逃走したよ……。
あぁ~あたし、どうなっちゃうのかしらン?
ぜんぜん明るい未来が見えないよ。。・゜・(ノε`)・゜・。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
初回公開日時 2019.01.25 22:29
初回完結日時 2019.08.16 21:21
再連載 2024.6.26~2024.7.31 完結
❦イラストは有償画像になります。
2024.7 加筆修正(eb)したものを再掲載
シンメトリーの翼 〜天帝異聞奇譚〜
長月京子
恋愛
学院には立ち入りを禁じられた場所があり、鬼が棲んでいるという噂がある。
朱里(あかり)はクラスメートと共に、禁じられた場所へ向かった。
禁じられた場所へ向かう途中、朱里は端正な容姿の男と出会う。
――君が望むのなら、私は全身全霊をかけて護る。
不思議な言葉を残して立ち去った男。
その日を境に、朱里の周りで、説明のつかない不思議な出来事が起こり始める。
※本文中のルビは読み方ではなく、意味合いの場合があります。
独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活
髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。
しかし神は彼を見捨てていなかった。
そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。
これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。
ト・カ・リ・ナ〜時を止めるアイテムを手にしたら気になる彼女と距離が近くなった件〜
遊馬友仁
青春
高校二年生の坂井夏生(さかいなつき)は、十七歳の誕生日に、亡くなった祖父からの贈り物だという不思議な木製のオカリナを譲り受ける。試しに自室で息を吹き込むと、周囲のヒトやモノがすべて動きを止めてしまった!
木製細工の能力に不安を感じながらも、夏生は、その能力の使い途を思いつく……。
「そうだ!教室の前の席に座っている、いつも、マスクを外さない小嶋夏海(こじまなつみ)の素顔を見てやろう」
そうして、自身のアイデアを実行に映した夏生であったがーーーーーー。
Husband's secret (夫の秘密)
設楽理沙
ライト文芸
果たして・・
秘密などあったのだろうか!
むちゃくちゃ、1回投稿文が短いです。(^^ゞ💦アセアセ
10秒~30秒?
何気ない隠し事が、とんでもないことに繋がっていくこともあるんですね。
❦ イラストはAI生成画像 自作
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる