ロンダリングプリンセス―事故物件住みます令嬢―

鬼霧宗作

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ケース3 山奥の事故物件【出題編】

3

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 落ち葉を踏み締める音がやたらと響き、山の下からは冷たい空気が吹き上がる。冬ともなれば、この辺りは雪に閉ざされてしまう。もう少しすればシーズンオフとなり、久方ぶりに下界での生活に戻ることができるだろう。一般的な人よりも少し長い冬休みといったところだが、その代わりシーズン中はほとんど休めない。そろそろ疲れが蓄積している頃だ。薪割り中に事故などに遭うなんてことも充分にあり得るだろう。

 薪割り小屋の近くは、なおさらに空気が冷え冷えしているように感じた。人が1人入って作業をするのが精一杯の小さな小屋。屋根なんかはトタンを釘で打ちつけただけのような作りであるが、しかし優子は知っている。その中は随分と暖かく、また喫煙するのにうってつけであると。

 薪割りをしているのであれば、小屋に近づいた時点で斧で薪を割る音が聞こえるはずだ。しかしながら、その音は一切しない。ある意味、薪割り小屋は夫のプライベートスペースだった。トイレで本を読みたがるのと似ているのかもしれない。

 小屋の前に到着すると、とりあえず遠慮がちにノックをする。中から反応はない。扉を開けようと手にかけてはみたが、しかし扉は動かない。中から閂をかけているのだ。となると、関係者でもなんでもないお客が、中に入って閂をかけたとは考えにくいから、中にいるのは夫ということになる。アルバイトの磯崎でさえ、薪割りは危険だからと、小屋に近づくことさえ許されなかった。それも、夫が自分のプライベートスペースを守るための口実なのであろうが。

「あなた! どうかしたの?」

 今度は中に向かって声をかけながら扉を叩く。まだ年齢としては若いほうではあるが、しかし中で倒れている可能性もあり得る。扉を何度も何度も叩いた。

「あの……どうかしましたか?」

 ふと、頭上から声をかけられ、優子は見上げた。そこには、窓を開けて顔を出し、目を擦っている客の姿があった。恰幅のよいふくよかな体型と、それに見合った丸顔。少し前から連泊している岩戸いわどという客だった。

「いえ、その――主人がこの中にいるはずなんですけど、返事がなくて」

 相手はお客ではあるが、しかし状況が状況である。岩尾に手伝ってもらう必要があるため、素直に事情を話した。
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