この手に抱くぬくもりは

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紅茶の香りと沈黙

30話 四人で抱きしめた、はじまりの朝

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翌朝。
やわらかな陽射しが差し込む広間の一角で、ルシアンはそっと椅子に腰を下ろしていた。
メイドたちが整えた室内には、まだわずかに昨夜の緊張が残っている。
けれど今日という日は、何よりも特別だった。

――ようやく、息子に会える日。

胸の奥で期待が膨らみ、指先がわずかに震える。
(もうすぐ会える……私の、息子に)
けれど同時に、不安が押し寄せる。
(本当に、抱いていいのだろうか。私に、その資格があるのだろうか……)

深呼吸を一つ。瞼を閉じ、鼓動を鎮めたそのとき――
扉が静かにノックされ、ゆっくりと開いた。

現れたのはレオニスとユリウス。
そしてユリウスの腕には、小さな男の子――ルシアンの息子がしっかりと抱かれていた。

ふわりと光を受けた銀色の髪。
くっきりとした目元は、レオニスにどこかよく似ている。

その姿を見た瞬間、ルシアンの胸がきゅうと締めつけられた。

「……この子が……」

言葉が喉で途切れる。
ユリウスが静かに近づき、幼子――ユリルクをそっとルシアンの腕へ。

小さな体を抱いた瞬間、驚くほど軽く、けれど確かな温もりが腕いっぱいに広がった。

「……あたたかい……」

胸がいっぱいになり、頬を伝う涙。
長く夢見ていた光景が、今、現実になっている。

ユリルクは「あーあー」と元気に声をあげた。
その声に、ルシアンは思わず微笑む。

「……ルシアン様……」

おずおずと、ユリウスが口を開いた。

「弟……ユリルクっていうんだ。……あなたの子供、なんだよね?」

少し驚きながらも、ルシアンは優しく微笑んだ。

「……そうだよ。……でもね、君も、私の子供だ」

ユリウスの表情が、ぱっと揺れる。

「……ほんとに?」

「本当さ。君がいてくれて、私は何度も救われた。……君も私にとって、大切な子供なんだ」

その一言に、ユリウスの目から涙があふれた。

「……お母様……」

ずっと心にしまっていた呼び名が、ようやく声になる。

ルシアンはユリルクを片腕に、もう一方の腕でユリウスをやさしく抱き寄せた。

「……ありがとう、ユリウス」

やっと、彼を抱きしめることができた――その実感が胸を満たす。

静かに寄り添う二人へ、レオニスが一歩、また一歩と近づき、そっと腕を広げた。
三人を包み込み、自らもその輪の中へ。

「……私たちは、家族だ」

ルシアンの頬が、レオニスの胸に触れる。
どこまでも優しく、あたたかな抱擁だった。

四人が寄り添う姿は、まるで一枚の絵画のよう。
壊れかけた家族が、ようやくひとつになった――その瞬間。

やがて、控えめな咳払いが部屋に響いた。

「……ルシアン様の処置に入らせていただきます。よろしければ……」

静かに入ってきた執事に、レオニスは小さく笑みを向ける。

「……そうだったな。すまない」

三人は名残惜しそうに腕をほどく。
けれど――その心は、もう決して離れることはなかった。

失われたものへの哀しみが、完全に消えることはない。
それでも今、四人は確かに“始まり”の温もりを抱いていた。
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