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紅茶の香りと沈黙
31話 声にすれば、届く
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数日ぶりに体を起こせるようになった朝、ルシアンは窓辺の椅子に静かに腰掛けていた。朝陽が柔らかく差し込み、広間にはまだ静けさが残っている。
少しずつ戻る意識の中で、心の奥にぽっかりと空いた穴を感じていた。
(……レオニス様は、どうして……)
何度も頭の中で繰り返す問い。しかし、その答えは見つからない。
扉の軋む音がして、レオニスが入ってきた。彼は目を伏せながらも、いつもの厳しさとは違う、どこか不安げな表情をしている。
「ルシアン……体調はどうだ?」
その声に、ルシアンは小さく頷いた。
「……少しずつ、戻ってきています……」
言葉を続けるのをためらい、視線をそらす。
胸の奥に、どうしても拭いきれない疑問があった。
(どうして……ずっと会いに来てくれなかったのか……?)
あの日、自分の体に起きたすべての変化。
目覚めたときには、お腹に子供がいた。
それから何か月もの間、レオニスは顔を見せに来てはくれなかった。
生まれたあとも、赤ん坊を抱くことさえ許されなかった。
それは、彼の「意志」だったのだろうか――
胸に澱のように沈んでいた想いが、静かにあふれ始める。
「……レオニス様」
ふと顔を上げて、問いかけた。
「どうして……私に、子供、ユリルクと会わせてくれなかったのですか?」
静かな声だった。
けれど、その内側には、ずっと押し殺してきた痛みと不安が込められていた。
レオニスは驚いたように一瞬目を見開いたが、すぐに視線を落とし、深く息を吐いた。
「……メイドが、こう言っていたんだ。“君が赤ん坊を拒絶している”“私たちを怖がっている”と……」
「……君の心を乱すくらいなら、そっとしておいたほうがいいと……そう思い込んでしまった」
ルシアンはまばたきをした。
その言葉は、信じたくても信じられないようなものだった。
「……私、そんなこと……言ってない」
「ああ。今なら分かる。全部、あのメイドの嘘だった」
レオニスの瞳がまっすぐこちらを見ている。
「でも……私は君に、直接確かめようとしなかった。怖かったんだ。向き合うのが……」
その声には、後悔が滲んでいた。
(……本当は、ずっと気にしてくれていたんだ)
ほんの少し前までは、「怖い」とさえ思っていたこの人が、今は――違って見えた。
ルシアンは迷いながら、
「……では、“会いたくない”と仰ったのは……?」
「そんなこと、一度も言ってない。全部、あのメイドの言葉だ。俺は……君の本当の声を聞こうとしなかった」
ルシアンは視線を落とす。
胸の奥に、静かな寂しさがまだ残っていた。
けれど――その隙間に、かすかな光が差し込む。
「……でも、今こうして……ちゃんと話せて、よかったです」
胸の中で、長く積もっていた雪が、やっと音を立てて溶け出した気がした。
レオニスがそっと手を伸ばし、ルシアンの手を包む。
「これからは、何でも……君の口から聞かせてほしい。誰の言葉でもなく、君の声で」
「……私も、君にちゃんと伝えるようにする。思っていることを、言葉にするから」
「……はい。私も、あなたに伝えます。
思っていることを、きちんと声にして」
たった一言。けれど、その一言がすべてを動かすようだった。
二人の間に吹いていた冷たい風が、少しずつぬくもりを取り戻していく。
少しずつ戻る意識の中で、心の奥にぽっかりと空いた穴を感じていた。
(……レオニス様は、どうして……)
何度も頭の中で繰り返す問い。しかし、その答えは見つからない。
扉の軋む音がして、レオニスが入ってきた。彼は目を伏せながらも、いつもの厳しさとは違う、どこか不安げな表情をしている。
「ルシアン……体調はどうだ?」
その声に、ルシアンは小さく頷いた。
「……少しずつ、戻ってきています……」
言葉を続けるのをためらい、視線をそらす。
胸の奥に、どうしても拭いきれない疑問があった。
(どうして……ずっと会いに来てくれなかったのか……?)
あの日、自分の体に起きたすべての変化。
目覚めたときには、お腹に子供がいた。
それから何か月もの間、レオニスは顔を見せに来てはくれなかった。
生まれたあとも、赤ん坊を抱くことさえ許されなかった。
それは、彼の「意志」だったのだろうか――
胸に澱のように沈んでいた想いが、静かにあふれ始める。
「……レオニス様」
ふと顔を上げて、問いかけた。
「どうして……私に、子供、ユリルクと会わせてくれなかったのですか?」
静かな声だった。
けれど、その内側には、ずっと押し殺してきた痛みと不安が込められていた。
レオニスは驚いたように一瞬目を見開いたが、すぐに視線を落とし、深く息を吐いた。
「……メイドが、こう言っていたんだ。“君が赤ん坊を拒絶している”“私たちを怖がっている”と……」
「……君の心を乱すくらいなら、そっとしておいたほうがいいと……そう思い込んでしまった」
ルシアンはまばたきをした。
その言葉は、信じたくても信じられないようなものだった。
「……私、そんなこと……言ってない」
「ああ。今なら分かる。全部、あのメイドの嘘だった」
レオニスの瞳がまっすぐこちらを見ている。
「でも……私は君に、直接確かめようとしなかった。怖かったんだ。向き合うのが……」
その声には、後悔が滲んでいた。
(……本当は、ずっと気にしてくれていたんだ)
ほんの少し前までは、「怖い」とさえ思っていたこの人が、今は――違って見えた。
ルシアンは迷いながら、
「……では、“会いたくない”と仰ったのは……?」
「そんなこと、一度も言ってない。全部、あのメイドの言葉だ。俺は……君の本当の声を聞こうとしなかった」
ルシアンは視線を落とす。
胸の奥に、静かな寂しさがまだ残っていた。
けれど――その隙間に、かすかな光が差し込む。
「……でも、今こうして……ちゃんと話せて、よかったです」
胸の中で、長く積もっていた雪が、やっと音を立てて溶け出した気がした。
レオニスがそっと手を伸ばし、ルシアンの手を包む。
「これからは、何でも……君の口から聞かせてほしい。誰の言葉でもなく、君の声で」
「……私も、君にちゃんと伝えるようにする。思っていることを、言葉にするから」
「……はい。私も、あなたに伝えます。
思っていることを、きちんと声にして」
たった一言。けれど、その一言がすべてを動かすようだった。
二人の間に吹いていた冷たい風が、少しずつぬくもりを取り戻していく。
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