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紅茶の香りと決意
2話 紅茶と小さな騒動
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花園の空気が、ひんやりと澄んでいた。
その静けさの中に、低く落ち着いた声が響く。
「今回は招待してくれてありがとう」
男は一歩前に進み、背筋を伸ばして一礼した。
堂々とした立ち姿からは、確かな自信と気品が漂う。
「セリウス・リーベンハウス。見えないかもしれないが、私はオメガだ」
隣に立つ子どもの肩に手を添え、柔らかく微笑む。
「この子はミレオ。私の息子だ。遅れてしまって申し訳ない」
その所作は落ち着いていて、どこか堂々としたものだった
ルシアンは一瞬驚いて目を瞬かせたが、すぐに柔らかな笑みを浮かべて答える。
「いえ、まだ時間内ですから。どうぞお気になさらず。ようこそ、我が家へ」
差し伸べられたルシアンの手を取って、セリウスは軽く頭を下げた。
その瞬間、花園に漂っていた緊張がわずかにほぐれていく。
セリウスが席につくと、お茶会は本格的に始まった。
最初こそ場は張り詰めていたが、彼の落ち着いた声と温かな笑みが、次第に空気を和ませていった。
「私はこうした集まりに慣れていないもので、礼儀に欠けるかもしれませんが……どうかご容赦を」
頭を下げる仕草に、長年の鍛錬を思わせる凛とした美しさが宿る。
ルシアンは微笑んで首を振った。
「私も今回が初めてですから、どうぞお気になさらずに。肩の力を抜いて楽しんでくださいね」
そのやりとりをきっかけに、オリシアやエレナも笑顔を交わし、花園にはようやく、やさしい笑い声が満ちていった。
⸻
そんな穏やかな空気の中で、小さな出来事が起きた。
ルシアンがふと子どもたちに目を向けた瞬間――
アベルの手が滑り、紅茶がカイエンの服へこぼれてしまった。
「あっ……!」
カイエンの服に紅茶の染みが広がり、アベルの顔がみるみる青ざめる。
「ご、ごめんなさい……!」
声が震え、涙がぽろぽろとこぼれ落ちた。
カイエンは怒らず、ただ小さく唇を噛んだ。
「……これ、大切なお洋服だったのに……」
その目にも、涙がにじむ。
その様子にユリウスもどうしていいかわからず、オロオロと立ち尽くした。
ノエルとミレオも慌ててキョロキョロと周囲を見回し、子どもたちのテーブルには一気に緊張と不安が広がった。
ルシアンは静かに席を立ち、穏やかな声で言った。
「大丈夫。だれも悪くないよ。ゆっくり息を吸ってごらん」
そのやわらかな声に、アベルの肩が小さく震え、ユリウスの表情も少しほぐれる。
ユリウスはハンカチを取り出し、カイエンの服を押さえながら笑顔を見せた。
「ねえ、大丈夫。すぐきれいになるよ」
エレナも軽やかに言葉を添える。
「服は洗えばどうにかなりますわ。お気になさらないで」
張り詰めていた空気がふっと緩み、ルシアンはハンナに視線を向けた。
「ハンナ、着替えをお願いできる?」
「かしこまりました」
ハンナはすぐに頷き、奥の部屋へと小走りに消えた。
⸻
少しして、カイエンが着替えを終えて戻ってくる。
両腕を広げて、笑顔を弾ませた。
「この服、すっごくかっこいい!! 気に入った!」
その勢いに、子どもたちの目が一斉に輝く。
「ほんとだ、すごく似合ってる!」
「かっこいい! その色、いいなあ」
自然と会話が弾み、先ほどの涙はいつの間にか笑い声へと変わっていた。
ユリウスはアベルの隣に腰を寄せ、小さく囁く。
「……よかったね」
アベルは一瞬きょとんとしたのち、ぱっと笑みを浮かべて頷いた。
ルシアンの胸に、やわらかな温かさが広がる。
「素敵なお洋服をありがとうございます」
エレナが軽く会釈して礼を述べると、ルシアンは柔らかな笑みを浮かべ答える。
「いいえ、気に入っていただけて良かったです」
「子どもたちはすぐに打ち解けるな」
セリウスも静かに目を細め、柔らかい声で言った。
「ミレオを産む前までは騎士として働いていたのだが……こうして子どもを見ていると、穏やかな気持ちになる」
「騎士、だったのですか?」
ルシアンは思わず息をのむ。
セリウスは淡く笑みを浮かべ、ゆっくり頷いた。
「ああ。今はもう剣を置いたが……かつては、毎日が戦いの連続だった。
だからこそ、こうした時間がどれほど尊いか、身に沁みて分かるんだ」
静かな声に、どこか遠い記憶の重みが滲む。
ルシアンはただ、その横顔を見つめるしかなかった。
――同じオメガなのに、まるで世界が違う。
胸の奥に、尊敬と憧れが混じり合う。
⸻
午後の風が花園を撫で、紅茶の香りが柔らかく広がっていく。
お茶会は滞りなく進み、笑い声と穏やかな会話に包まれたまま、夕陽が影を長く伸ばしていった。
初めてのお茶会を終えたルシアンの胸には、確かな充足感が残っていた。
誰も欠けることなく、穏やかに微笑み合えた――それだけで十分だった。
けれど、それ以上に心に残ったのは、セリウスの存在だった。
男のオメガとして、強く、そして静かに生きるその姿。
――いったい、どんな人生を歩んできたのだろう。
エレナは別れ際に微笑んで言った。
「今度は、私のお茶会にもいらしてくださいね」
オリシアもアイリスも笑顔で頷き、再会を楽しみにしているようだった。
その光景を眺めながら、ルシアンの胸に温かな光が灯る。
「今日は楽しかった。お母様、最初は緊張してたけど……とっても楽しそうだったよ」
ユリウスの笑顔に、ルシアンは思わず頬をゆるめた。
――自分だけじゃない。ユリウスも、楽しめたんだ。
胸の奥で、小さな幸福が音を立てて広がっていく。
穏やかな夕暮れの光が、ルシアンの頬をやさしく照らしていた。
その静けさの中に、低く落ち着いた声が響く。
「今回は招待してくれてありがとう」
男は一歩前に進み、背筋を伸ばして一礼した。
堂々とした立ち姿からは、確かな自信と気品が漂う。
「セリウス・リーベンハウス。見えないかもしれないが、私はオメガだ」
隣に立つ子どもの肩に手を添え、柔らかく微笑む。
「この子はミレオ。私の息子だ。遅れてしまって申し訳ない」
その所作は落ち着いていて、どこか堂々としたものだった
ルシアンは一瞬驚いて目を瞬かせたが、すぐに柔らかな笑みを浮かべて答える。
「いえ、まだ時間内ですから。どうぞお気になさらず。ようこそ、我が家へ」
差し伸べられたルシアンの手を取って、セリウスは軽く頭を下げた。
その瞬間、花園に漂っていた緊張がわずかにほぐれていく。
セリウスが席につくと、お茶会は本格的に始まった。
最初こそ場は張り詰めていたが、彼の落ち着いた声と温かな笑みが、次第に空気を和ませていった。
「私はこうした集まりに慣れていないもので、礼儀に欠けるかもしれませんが……どうかご容赦を」
頭を下げる仕草に、長年の鍛錬を思わせる凛とした美しさが宿る。
ルシアンは微笑んで首を振った。
「私も今回が初めてですから、どうぞお気になさらずに。肩の力を抜いて楽しんでくださいね」
そのやりとりをきっかけに、オリシアやエレナも笑顔を交わし、花園にはようやく、やさしい笑い声が満ちていった。
⸻
そんな穏やかな空気の中で、小さな出来事が起きた。
ルシアンがふと子どもたちに目を向けた瞬間――
アベルの手が滑り、紅茶がカイエンの服へこぼれてしまった。
「あっ……!」
カイエンの服に紅茶の染みが広がり、アベルの顔がみるみる青ざめる。
「ご、ごめんなさい……!」
声が震え、涙がぽろぽろとこぼれ落ちた。
カイエンは怒らず、ただ小さく唇を噛んだ。
「……これ、大切なお洋服だったのに……」
その目にも、涙がにじむ。
その様子にユリウスもどうしていいかわからず、オロオロと立ち尽くした。
ノエルとミレオも慌ててキョロキョロと周囲を見回し、子どもたちのテーブルには一気に緊張と不安が広がった。
ルシアンは静かに席を立ち、穏やかな声で言った。
「大丈夫。だれも悪くないよ。ゆっくり息を吸ってごらん」
そのやわらかな声に、アベルの肩が小さく震え、ユリウスの表情も少しほぐれる。
ユリウスはハンカチを取り出し、カイエンの服を押さえながら笑顔を見せた。
「ねえ、大丈夫。すぐきれいになるよ」
エレナも軽やかに言葉を添える。
「服は洗えばどうにかなりますわ。お気になさらないで」
張り詰めていた空気がふっと緩み、ルシアンはハンナに視線を向けた。
「ハンナ、着替えをお願いできる?」
「かしこまりました」
ハンナはすぐに頷き、奥の部屋へと小走りに消えた。
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少しして、カイエンが着替えを終えて戻ってくる。
両腕を広げて、笑顔を弾ませた。
「この服、すっごくかっこいい!! 気に入った!」
その勢いに、子どもたちの目が一斉に輝く。
「ほんとだ、すごく似合ってる!」
「かっこいい! その色、いいなあ」
自然と会話が弾み、先ほどの涙はいつの間にか笑い声へと変わっていた。
ユリウスはアベルの隣に腰を寄せ、小さく囁く。
「……よかったね」
アベルは一瞬きょとんとしたのち、ぱっと笑みを浮かべて頷いた。
ルシアンの胸に、やわらかな温かさが広がる。
「素敵なお洋服をありがとうございます」
エレナが軽く会釈して礼を述べると、ルシアンは柔らかな笑みを浮かべ答える。
「いいえ、気に入っていただけて良かったです」
「子どもたちはすぐに打ち解けるな」
セリウスも静かに目を細め、柔らかい声で言った。
「ミレオを産む前までは騎士として働いていたのだが……こうして子どもを見ていると、穏やかな気持ちになる」
「騎士、だったのですか?」
ルシアンは思わず息をのむ。
セリウスは淡く笑みを浮かべ、ゆっくり頷いた。
「ああ。今はもう剣を置いたが……かつては、毎日が戦いの連続だった。
だからこそ、こうした時間がどれほど尊いか、身に沁みて分かるんだ」
静かな声に、どこか遠い記憶の重みが滲む。
ルシアンはただ、その横顔を見つめるしかなかった。
――同じオメガなのに、まるで世界が違う。
胸の奥に、尊敬と憧れが混じり合う。
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午後の風が花園を撫で、紅茶の香りが柔らかく広がっていく。
お茶会は滞りなく進み、笑い声と穏やかな会話に包まれたまま、夕陽が影を長く伸ばしていった。
初めてのお茶会を終えたルシアンの胸には、確かな充足感が残っていた。
誰も欠けることなく、穏やかに微笑み合えた――それだけで十分だった。
けれど、それ以上に心に残ったのは、セリウスの存在だった。
男のオメガとして、強く、そして静かに生きるその姿。
――いったい、どんな人生を歩んできたのだろう。
エレナは別れ際に微笑んで言った。
「今度は、私のお茶会にもいらしてくださいね」
オリシアもアイリスも笑顔で頷き、再会を楽しみにしているようだった。
その光景を眺めながら、ルシアンの胸に温かな光が灯る。
「今日は楽しかった。お母様、最初は緊張してたけど……とっても楽しそうだったよ」
ユリウスの笑顔に、ルシアンは思わず頬をゆるめた。
――自分だけじゃない。ユリウスも、楽しめたんだ。
胸の奥で、小さな幸福が音を立てて広がっていく。
穏やかな夕暮れの光が、ルシアンの頬をやさしく照らしていた。
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