この手に抱くぬくもりは

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紅茶の香りと決意

4話 夕暮れの食卓と招待状

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ルシアンは結婚式の話を胸に抱えながら、穏やかな日常へと戻っていた。

そんなある日、エレナからお茶会の招待状が届いた。
――きっと、エレナ様のお茶会なら人数も多いだろう。

ルシアンは少しだけ肩をすくめる。
レオニスは、あまり大規模なお茶会には良い顔をしない。
男のオメガが貴族社会に出ることは、時に好奇の目を向けられるからだ。
レオニスはいつも、ルシアンが嫌な思いをしないよう気を配ってくれていた。

「……行ってもいいと、言ってくださるだろうか」
 
ルシアンは中庭のベンチで招待状を見つめながら、小さく呟く。
ハンナがティーテーブルを整えながら、ふと笑顔で言った。
「ルシアン様、旦那様にご相談なさるのが一番ですよ」
 
その言葉に、ルシアンも微笑みを返した。
「そうだね。レオニス様が帰ってきたら話してみよう」
 
その会話を聞いていたユリウスが駆け寄る。
「お母様! 僕も行きたい! またみんなに会えるんでしょ? お母様が仲良くなったなら、きっと楽しいよ!」

ユリルクもにこにこと「いくー!」と両手を上げる。
けれどユリウスは少し困ったように弟を抱き上げて、苦笑した。
「うーん……ユリルクはまだ小さいから、お留守番だね。お土産はちゃんと持って帰ってくるから」
 
ユリルクはよく分からないまま、にこにこと笑いながら兄に抱きつく。
柔らかな芝生の上で、ユリウスがそっと降ろすと、ユリルクは小さな足でよろよろとついていく。
それでも二人は楽しそうに笑い声を上げ、春風がその声をやさしく運んでいった。

ティーテーブルのそばで見守るルシアンは、穏やかに微笑む。
――この時間は、何よりも愛おしい。
屋敷の中庭には、幸せな空気が静かに満ちていた。

━━━━━━

その夜、レオニスはいつもより少し早く帰宅した。
「今日は皆と一緒に食事をしたくて、早めに戻ってきた」と言いながら。

玄関ホールにはセバスが静かに控えており、扉が開くとすぐに頭を下げた。
「おかえりなさいませ、旦那様」

レオニスが外套を預ける頃、ルシアンと子どもたちも姿を見せた。
ルシアンはユリルクを抱き上げ、柔らかく微笑んで言う。
「おかえりなさい、レオニス様」
「ただいま」
レオニスは微笑み返し、その隣からユリウスが元気よく声を上げた。

「おかえりなさい、父上!」

勢いよく抱きつく息子を、レオニスはそのまま抱き上げる。
「もう少しで学園に通うのに、まだ抱っこがいいのか?」
「だ、だって……今だけだもん!」
照れ隠しのように言うユリウスを見て、ルシアンもレオニスもつい笑ってしまう。

セバスが控えめに告げた。
「食事の用意が整っております」

その声に、家族は自然と顔を見合わせ、笑顔のまま食堂へと向かった。

━━━━━━

屋敷の食堂は広く、天井の高い部屋に柔らかな灯りが揺れていた。
長い木のテーブルに銀の食器が並び、温かな料理の香りが立ちのぼる。

レオニスたちは席に着き、セバスが一礼する。
「お食事の準備が整いました」
「ありがとう。では、いただこう」

穏やかな夕食の時間が流れ出す。
ユリウスは皿を覗き込み、ユリルクはスプーンを手に嬉しそうに笑う。
ルシアンは二人の手元を整えながら、微笑みを浮かべた。

そんな中、レオニスがルシアンに視線を向ける。
「今日はどうだった? 何かあったかい?」

ユリウスがすぐに口を開いた。
「お茶会の招待状が届いたんだよ!」

「お茶会?」とレオニスは目を向ける。
ルシアンは少し困ったように笑いながら、エレナからの招待状を説明した。

ユリウスは「行きたい!」と目を輝かせ、ルシアンも控えめに「できれば参加したいです」と続ける。

レオニスは一瞬考えた後、穏やかに頷いた。
「君たちが行きたいのなら、参加して構わないよ」

ルシアンの胸に、安堵が広がる。
――よかった。行ってもいいと、言ってもらえた。

ユリウスは満面の笑みで「やった! お母様!」と叫ぶ。
その勢いのまま、苦手なにんじんまで口に運び、もぐもぐと咀嚼した。

「ユリウス、にんじん食べて偉いじゃないか」
「ほんとだ、食べられるようになったんだな」
レオニスが笑うと、ユリウスは目を丸くして慌てて口を押さえる。
「えっ!? ぼ、ぼく、知らないうちに食べちゃってた!」

その言葉にルシアンとレオニスは顔を見合わせ、声を立てて笑った。

笑い声が食堂いっぱいに広がり、温かな夜が静かに更けていった。
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