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紅茶の香りと決意
14話 灯りの向こうに
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ルシアンは、落ち着かない数日を過ごしていた。
胸の奥が、そわそわと絶えず波立っている。
返事をしたのは自分だ。
――レオニスのためになるなら。
そう思ったはずなのに、やはり不安は消えなかった。
鏡の前で整えられていく自分の姿を見つめながら、
ルシアンは小さく息を吐く。
細く結い上げられた銀髪に、淡い蒼の飾り布が差し込まれていく。
鏡の中の自分が、まるで知らない誰かのように見えた。
男のオメガとして社交界に立つ――。
それは自分だけでなく、レオニスの立場にも影響すること。
その重みを思うと、胸の奥がきゅっと締めつけられる。
「ルシアン様、大丈夫ですよ」
支度を手伝っていたハンナが、そっと微笑んだ。
「旦那様がついておられます。それに……本当にお綺麗です。
どうか、自信をお持ちくださいませ」
「……ありがとう、ハンナ」
ルシアンは困ったように笑いながらも、目元を和らげた。
「そうだよね。レオニス様がお傍にいてくださる……それだけで心強いから」
ハンナが柔らかく頷いたそのとき、
部屋の隅で待ちきれずにいたユリウスとユリルクが、ぱっと声を上げた。
「お母様、とっても可愛い!」
「マーマー、きれいー!」
無邪気な歓声に、ルシアンは思わず吹き出した。
「もう……ありがとう。ふたりとも」
子どもたちの笑顔に、不思議と胸の中の緊張が少しほどけていく。
窓の外では、夕暮れの向こうに王都の鐘が鳴っていた。
――いよいよ、社交界の幕が上がろうとしている。
━━━
トントン――。
扉を軽く叩く音に、ルシアンははっと顔を上げた。
「準備はできたかい?」
低く穏やかな声。
その響きだけで、胸の奥の不安が少しやわらぐ。
「……はい」
ルシアンが返事をすると、ハンナが静かに扉を開けた。
そこに立っていたレオニスは、一瞬、言葉を失ったように息を止める。
「……とても綺麗だ」
その瞳が、ゆっくりとルシアンを見つめる。
「これは……言葉では言い表せないな」
ルシアンは頬を染め、そっと視線を伏せた。
「そんな……お世辞でも、言いすぎです」
「お世辞ではないよ」
レオニスは小さく首を振り、差し出した手でルシアンの手を包む。
橙の灯に照らされた二人の指先が、やわらかく触れ合った。
その温もりに、緊張でこわばっていた心が少しほぐれていく。
「……あぁ、こんなに綺麗な君を、みんなに見せるのは嫌だな」
ふっと笑いながらも、レオニスの声には本気が滲んでいた。
「誰かに攫われるかもしれない」
ルシアンは思わず吹き出す。
「ふふ、大袈裟ですよ……」
「そんなことはないさ。本当に綺麗だ」
レオニスはそう言って、名残惜しそうにルシアンの頬を撫でた。
――その時。
「ウォホン!」
控えめな咳払いの音に、二人は振り向く。
「旦那様、ルシアン様。そろそろ出発なさらないと遅れますよ」
ハンナが少し頬を緩めながら言った。
「父上とお母様、お二人とも気をつけて行ってらっしゃい!」
ユリウスが元気よく手を振る。
ルシアンは膝を折り、ユリウスとユリルクの目線に合わせた。
「行ってきます。ユリウス、ユリルク、二人でお留守番お願いしますね。
早めに帰ってきます」
レオニスも二人の頭を軽く撫でて笑う。
「ああ、二人とも――少しの間だけ、この屋敷を頼んだぞ」
「はーい!」
「ハンナと屋敷の人たちがいるから大丈夫!」
「ふふ、頼もしいですね」
ルシアンが微笑むと、ハンナが軽く手を叩いた。
「さあ、お二人とも。旦那様たちをお見送りに下へ降りましょう」
三人が部屋を出ていくと、静かな部屋に再び橙の灯が揺れた。
ルシアンはそっと息を整え、レオニスに微笑む。
「……行きましょうか」
「――ああ。君と一緒なら、どんな夜も美しい」
レオニスの掌に包まれたまま、ルシアンは静かに笑った。
「……レオニス様と一緒なら、大丈夫、ですね」
ルシアンは自分に言い聞かせるように、静かに頷いた。
「さあ――社交界の夜が、始まる」
レオニスの声が低く、穏やかに響く。
その言葉に、ルシアンの胸は期待と少しの高鳴りで満たされていった。
二人は手を取り合い、静かに屋敷の扉をくぐる。
夜の街に広がる灯りが、これからの一夜をやさしく、しかし確かに照らしていた。
街路には華やかなドレスや燕尾服に身を包んだ人々の姿がちらりと見え、笑い声や談笑が風に乗って届く。
ルシアンの胸は、期待と少しの高鳴りで満たされていった。
胸の奥が、そわそわと絶えず波立っている。
返事をしたのは自分だ。
――レオニスのためになるなら。
そう思ったはずなのに、やはり不安は消えなかった。
鏡の前で整えられていく自分の姿を見つめながら、
ルシアンは小さく息を吐く。
細く結い上げられた銀髪に、淡い蒼の飾り布が差し込まれていく。
鏡の中の自分が、まるで知らない誰かのように見えた。
男のオメガとして社交界に立つ――。
それは自分だけでなく、レオニスの立場にも影響すること。
その重みを思うと、胸の奥がきゅっと締めつけられる。
「ルシアン様、大丈夫ですよ」
支度を手伝っていたハンナが、そっと微笑んだ。
「旦那様がついておられます。それに……本当にお綺麗です。
どうか、自信をお持ちくださいませ」
「……ありがとう、ハンナ」
ルシアンは困ったように笑いながらも、目元を和らげた。
「そうだよね。レオニス様がお傍にいてくださる……それだけで心強いから」
ハンナが柔らかく頷いたそのとき、
部屋の隅で待ちきれずにいたユリウスとユリルクが、ぱっと声を上げた。
「お母様、とっても可愛い!」
「マーマー、きれいー!」
無邪気な歓声に、ルシアンは思わず吹き出した。
「もう……ありがとう。ふたりとも」
子どもたちの笑顔に、不思議と胸の中の緊張が少しほどけていく。
窓の外では、夕暮れの向こうに王都の鐘が鳴っていた。
――いよいよ、社交界の幕が上がろうとしている。
━━━
トントン――。
扉を軽く叩く音に、ルシアンははっと顔を上げた。
「準備はできたかい?」
低く穏やかな声。
その響きだけで、胸の奥の不安が少しやわらぐ。
「……はい」
ルシアンが返事をすると、ハンナが静かに扉を開けた。
そこに立っていたレオニスは、一瞬、言葉を失ったように息を止める。
「……とても綺麗だ」
その瞳が、ゆっくりとルシアンを見つめる。
「これは……言葉では言い表せないな」
ルシアンは頬を染め、そっと視線を伏せた。
「そんな……お世辞でも、言いすぎです」
「お世辞ではないよ」
レオニスは小さく首を振り、差し出した手でルシアンの手を包む。
橙の灯に照らされた二人の指先が、やわらかく触れ合った。
その温もりに、緊張でこわばっていた心が少しほぐれていく。
「……あぁ、こんなに綺麗な君を、みんなに見せるのは嫌だな」
ふっと笑いながらも、レオニスの声には本気が滲んでいた。
「誰かに攫われるかもしれない」
ルシアンは思わず吹き出す。
「ふふ、大袈裟ですよ……」
「そんなことはないさ。本当に綺麗だ」
レオニスはそう言って、名残惜しそうにルシアンの頬を撫でた。
――その時。
「ウォホン!」
控えめな咳払いの音に、二人は振り向く。
「旦那様、ルシアン様。そろそろ出発なさらないと遅れますよ」
ハンナが少し頬を緩めながら言った。
「父上とお母様、お二人とも気をつけて行ってらっしゃい!」
ユリウスが元気よく手を振る。
ルシアンは膝を折り、ユリウスとユリルクの目線に合わせた。
「行ってきます。ユリウス、ユリルク、二人でお留守番お願いしますね。
早めに帰ってきます」
レオニスも二人の頭を軽く撫でて笑う。
「ああ、二人とも――少しの間だけ、この屋敷を頼んだぞ」
「はーい!」
「ハンナと屋敷の人たちがいるから大丈夫!」
「ふふ、頼もしいですね」
ルシアンが微笑むと、ハンナが軽く手を叩いた。
「さあ、お二人とも。旦那様たちをお見送りに下へ降りましょう」
三人が部屋を出ていくと、静かな部屋に再び橙の灯が揺れた。
ルシアンはそっと息を整え、レオニスに微笑む。
「……行きましょうか」
「――ああ。君と一緒なら、どんな夜も美しい」
レオニスの掌に包まれたまま、ルシアンは静かに笑った。
「……レオニス様と一緒なら、大丈夫、ですね」
ルシアンは自分に言い聞かせるように、静かに頷いた。
「さあ――社交界の夜が、始まる」
レオニスの声が低く、穏やかに響く。
その言葉に、ルシアンの胸は期待と少しの高鳴りで満たされていった。
二人は手を取り合い、静かに屋敷の扉をくぐる。
夜の街に広がる灯りが、これからの一夜をやさしく、しかし確かに照らしていた。
街路には華やかなドレスや燕尾服に身を包んだ人々の姿がちらりと見え、笑い声や談笑が風に乗って届く。
ルシアンの胸は、期待と少しの高鳴りで満たされていった。
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