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紅茶の香りと決意
13話 橙の灯のもとで
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食事が終わる頃、アレクの迎えが屋敷へとやって来た。
「俺はレオニスの家に泊まる!」
そう言い張る彼を、執事たちが慣れた手つきで半ば引きずるように連れていく。
「……あいつはいつもああなんだ。済まないな」
レオニスが苦笑混じりに息を吐くと、ルシアンは小さく首を振った。
「いえ、とても明るくて……素敵な方でした」
その隣で、ユリウスとユリルクが楽しそうに手を振る。
「バイバーイ!」
「次は泊まっていってもいいですよー!」
無邪気な声に、ルシアンは思わず笑みをこぼした。
レオニスも肩の力を抜いたように、微かに微笑む。
「さて――子供たちはお風呂に入って寝る準備をしなさい」
二人が「はーい」と元気に返事をし、ハンナに手を引かれて浴室へ消えていく。
残された静寂の中、レオニスがふと声を落とした。
「ルシアン。……少し話をしよう」
静かな響きに、ルシアンは姿勢を正した。
「はい」
二人は書斎へと向かう。
夜の屋敷には、控えめな足音だけが響いていた。
━━
扉が閉じられると、外の音が遠ざかる。
暖炉の火がぱちりと弾け、橙の光が室内を優しく染めた。
レオニスは机のそばに立ち、黙ったままルシアンを見つめる。
その沈黙に、ルシアンの鼓動が静かに速まる。
「……アレクの話を聞いていただろう」
「はい。社交界に出席を、という話でしたよね」
「そうだ」
レオニスは腕を組み、視線をわずかに逸らした。
「私は君と共に出席したいと考えている。だが、この国にはまだ“男のオメガ”への偏見が残っている。君をそんな場に立たせることに、迷いがある」
彼は一度言葉を切り、静かに息を整えた。
「だから――君自身の意志を聞かせてほしい」
ルシアンは一瞬だけ視線を落とし、胸の前で手を重ねる。
橙の灯が指先を淡く照らし、長い影を壁に落とした。
「……私のような者が、男のオメガで、第2夫人という立場で……その場に立っていいのか、少し不安です」
小さくため息を吐きながら、ルシアンは目を伏せる。
「……ですが、以前レオニス様が仰ってくださいました――“君は俺の妻であり、愛する人だ”と」
その言葉を口にすると、胸の奥が温かくなる。
ルシアンはゆっくりと顔を上げ、微笑んだ。
「ですから……もし、レオニス様が望まれるのなら、私は傍にいたいと思います」
レオニスの瞳がわずかに揺れ、静かに細められる。
「……ルシアン」
レオニスの瞳が静かに揺れ、穏やかな息が零れた。
「……ありがとう。無理をしていないか?」
「無理なんてしていません。私がここにいるのは、レオニス様の隣だからです」
その言葉に、レオニスはそっとルシアンの頬へ手を伸ばした。
橙の光が二人を包み、夜の静寂が柔らかく降りていく。
━━
レオニスはルシアンの頬に触れたまま、微笑み、静かに唇を寄せた。
「……君がそう言ってくれて、本当に嬉しい。ありがとう」
柔らかな声が落ちる。
ルシアンは少し頬を染め、視線を逸らした。
やがてレオニスは静かに口を開いた。
「――もうひとつ、話しておきたいことがある」
炎の影が揺れ、彼の瞳に深い影を落とす。
「アレクが、隣国の王子に恋をしたらしい」
唐突な告白に、ルシアンが小さく目を見開く。
「その王子は……男のオメガだそうだ」
レオニスは机の縁に指を添え、低く続けた。
「この国では、まだ偏見が根強い。
だが私は、公爵家の当主として、その価値観を変えたい。
“男のオメガを正妻として迎え、堂々と隣に立たせる”姿を示すことで」
ルシアンは静かに耳を傾けていた。
暖炉の音だけが、ふたりの間を満たす。
「これは、私個人の願いでもある」
レオニスの声が、静かに柔らかく響く。
「君を――誰よりも愛し、誇りに思っている。
ルシアン。私は、君を正式に第1夫人、正妻として迎えたい」
ルシアンは息を呑んだ。
レオニスは続ける。
「母はまだ君を認めていないが、必ず説得する。君を守ると誓う」
その言葉に、ルシアンの瞳が静かに潤んだ。
「私は……とても嬉しいです。
ですが……レティーナ様は、よろしいのですか?」
部屋の空気がわずかに揺れ、レオニスは短く目を伏せた。
「……彼女はこの世界にもういないが、心の中ではずっと共にある。
そして――君のことも、愛している。
年甲斐もなく、君に恋をしているんだ」
レオニスは少し照れたように笑い、肩をすくめた。
「……こんな優柔不断な男は、嫌かい?」
ルシアンは目を瞬かせ、やがてふっと柔らかく微笑んだ。
「……いいえ。
もし、ここでレティーナ様を蔑ろにしていたら……
きっと私は、レオニス様のことを嫌いになっていたと思います」
ふたりの間に、静かな火の音だけが響く。
その夜、書斎には、未来を照らす穏やかな誓いの灯がともっていた。
「俺はレオニスの家に泊まる!」
そう言い張る彼を、執事たちが慣れた手つきで半ば引きずるように連れていく。
「……あいつはいつもああなんだ。済まないな」
レオニスが苦笑混じりに息を吐くと、ルシアンは小さく首を振った。
「いえ、とても明るくて……素敵な方でした」
その隣で、ユリウスとユリルクが楽しそうに手を振る。
「バイバーイ!」
「次は泊まっていってもいいですよー!」
無邪気な声に、ルシアンは思わず笑みをこぼした。
レオニスも肩の力を抜いたように、微かに微笑む。
「さて――子供たちはお風呂に入って寝る準備をしなさい」
二人が「はーい」と元気に返事をし、ハンナに手を引かれて浴室へ消えていく。
残された静寂の中、レオニスがふと声を落とした。
「ルシアン。……少し話をしよう」
静かな響きに、ルシアンは姿勢を正した。
「はい」
二人は書斎へと向かう。
夜の屋敷には、控えめな足音だけが響いていた。
━━
扉が閉じられると、外の音が遠ざかる。
暖炉の火がぱちりと弾け、橙の光が室内を優しく染めた。
レオニスは机のそばに立ち、黙ったままルシアンを見つめる。
その沈黙に、ルシアンの鼓動が静かに速まる。
「……アレクの話を聞いていただろう」
「はい。社交界に出席を、という話でしたよね」
「そうだ」
レオニスは腕を組み、視線をわずかに逸らした。
「私は君と共に出席したいと考えている。だが、この国にはまだ“男のオメガ”への偏見が残っている。君をそんな場に立たせることに、迷いがある」
彼は一度言葉を切り、静かに息を整えた。
「だから――君自身の意志を聞かせてほしい」
ルシアンは一瞬だけ視線を落とし、胸の前で手を重ねる。
橙の灯が指先を淡く照らし、長い影を壁に落とした。
「……私のような者が、男のオメガで、第2夫人という立場で……その場に立っていいのか、少し不安です」
小さくため息を吐きながら、ルシアンは目を伏せる。
「……ですが、以前レオニス様が仰ってくださいました――“君は俺の妻であり、愛する人だ”と」
その言葉を口にすると、胸の奥が温かくなる。
ルシアンはゆっくりと顔を上げ、微笑んだ。
「ですから……もし、レオニス様が望まれるのなら、私は傍にいたいと思います」
レオニスの瞳がわずかに揺れ、静かに細められる。
「……ルシアン」
レオニスの瞳が静かに揺れ、穏やかな息が零れた。
「……ありがとう。無理をしていないか?」
「無理なんてしていません。私がここにいるのは、レオニス様の隣だからです」
その言葉に、レオニスはそっとルシアンの頬へ手を伸ばした。
橙の光が二人を包み、夜の静寂が柔らかく降りていく。
━━
レオニスはルシアンの頬に触れたまま、微笑み、静かに唇を寄せた。
「……君がそう言ってくれて、本当に嬉しい。ありがとう」
柔らかな声が落ちる。
ルシアンは少し頬を染め、視線を逸らした。
やがてレオニスは静かに口を開いた。
「――もうひとつ、話しておきたいことがある」
炎の影が揺れ、彼の瞳に深い影を落とす。
「アレクが、隣国の王子に恋をしたらしい」
唐突な告白に、ルシアンが小さく目を見開く。
「その王子は……男のオメガだそうだ」
レオニスは机の縁に指を添え、低く続けた。
「この国では、まだ偏見が根強い。
だが私は、公爵家の当主として、その価値観を変えたい。
“男のオメガを正妻として迎え、堂々と隣に立たせる”姿を示すことで」
ルシアンは静かに耳を傾けていた。
暖炉の音だけが、ふたりの間を満たす。
「これは、私個人の願いでもある」
レオニスの声が、静かに柔らかく響く。
「君を――誰よりも愛し、誇りに思っている。
ルシアン。私は、君を正式に第1夫人、正妻として迎えたい」
ルシアンは息を呑んだ。
レオニスは続ける。
「母はまだ君を認めていないが、必ず説得する。君を守ると誓う」
その言葉に、ルシアンの瞳が静かに潤んだ。
「私は……とても嬉しいです。
ですが……レティーナ様は、よろしいのですか?」
部屋の空気がわずかに揺れ、レオニスは短く目を伏せた。
「……彼女はこの世界にもういないが、心の中ではずっと共にある。
そして――君のことも、愛している。
年甲斐もなく、君に恋をしているんだ」
レオニスは少し照れたように笑い、肩をすくめた。
「……こんな優柔不断な男は、嫌かい?」
ルシアンは目を瞬かせ、やがてふっと柔らかく微笑んだ。
「……いいえ。
もし、ここでレティーナ様を蔑ろにしていたら……
きっと私は、レオニス様のことを嫌いになっていたと思います」
ふたりの間に、静かな火の音だけが響く。
その夜、書斎には、未来を照らす穏やかな誓いの灯がともっていた。
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