俺様αアイドルと歌で発情しちゃったΩ

弓葉

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友達の助言

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 冷やし中華はとても美味しかった。麺は噛みごたえがあったし、表面はツルッとしていて喉ごしもよかった。初めての夏フェスで夏バテ気味だった身体が元気を取り戻してきた気がする。

 ちゅるちゅる、と冷やし中華を食べていればネオ様と目があった。ネオ様は僕の真正面に座っていて、頬杖をつきながら優しい目線を僕に向けてくる。

 僕は食べているところを見られているとは思わなくて、思いっきり麺をすすってしまった。酸味のあるタレが僕の喉に直撃する。変なところに入ってしまって、麺を吐き出しそうになった。

「ぶふぉ、がはっ、ごほっ……」

 鼻からもツンとした酸味を感じる。作ってくれた本人を目の前にして、さすがに吐き出せない。僕は麺を無理やり胃に流し込んだ。噛み切れなかった麺の塊でズキズキと喉が痛い。

「大丈夫かよ」

 若干引き気味の顔でネオ様は僕の背中を擦った。ネオ様の手のひらは熱くて大きい大人の手だ。撫でられた場所からじわじわと温もりが広がっていく。

 気づけば僕は泣いていた。

 安心したのか、喉が痛いからなのか分からない。ただ、流す涙はとても気持ちがよかった。目線の先には突然僕が泣き出したことに戸惑っているネオ様がいた。

 ***

「外の世界は怖かっただろう? 全く私の言うことを聞かずに飛びだしたんだから心配したんだよ」

  僕は北海道に帰ってきた。友達の内海うちみが帰ってきた僕を見るなり抱きしめてきた。

「べ、別に。怖くなかったし一人で行けた……つうか、離せよ。恥ずかしい」

 僕は内海の身体を押し返す。空港には他の利用者がいた。あまり見られたくはない。内海は僕のうなじを探るようにして髪をかき上げてきた。正直、内海じゃなかったら殴っているところだ。それほど、他人にうなじを触られたくはない。ネオ様は特別だけど。

「あ、そうだ! 聞いてよ内海。ネオ様がね、僕のことを必要としてくれているんだ!!」

 僕は興奮気味に内海に近寄る。

「……ネオって、お前が好きなアーティストだよな」

 内海は疑うような目で僕を見た。

「そうだよ! どこから話せばいいのか分からないけど、ネオ様と一晩過ごしたんだ。それでね、僕のところに来てほしいって……」

「オメガとして?」

 内海は僕の痛いところを突いた。ライブ中に突然発情した、とは言っていない。だけど、あの突発性発情がなければ僕はネオ様と一晩過ごせなかっただろう。ふと、ジュランの『嵌められた』という言葉が頭の中によぎってしまう。

「……えっと」

 僕は急に自信がなくなってしまった。自分からオメガという特性がなくなってしまえば何も残らなくなる。ただの一ファンだ。

「言っただろう。アルファは番遊びをしたいんだよ」

 内海は、ため息を吐きながら僕の腕を引っ張った。

「でも、ネオ様はそんな人じゃ……」

 僕は内海の後ろを歩きながら反論する。だけど、失った自信を取り戻す勢いはない。ぽつりぽつりと言葉がでてくるだけだ。

「いや、芸能界に入ったアルファはみんなそうさ。番ったオメガの数を競ってマウントの取り合いをしている。かわいそうに、お前もその数に組み込まれたんだろうね」

 そんな僕のことを見抜いているのか、内海は追い討ちをかけてくる。僕はまともに歩けないぐらいに、目の前が歪んで見えた。

「ち、違う。違うんだ、ネオ様はそんな人じゃ……」

「そもそも出会い方からおかしいだろ。お前の発情期はまだ先だし発情するのが変だ。ネオ側がイベントを盛り上げるためにお前を利用したに過ぎない。ファン心理を利用した悪徳詐欺師だ」

「そ、そんな言い方……ってか、なんで僕が発情したって知って……」

 内海は無言で僕にスマホを突きつけた。そこには、僕の名前が伏せられているものの夏フェスのことがネットニュースになっている。内海は知っていた。だから、番っていないか僕のうなじを確認したんだ。

「ネオがそんな人じゃないって言うなら聞いてみろよ。どうせ、連絡先を知っているんだろう? どんな言い訳をするのか楽しみだな」

 内海はバカにしたように言った。その言葉の中には呆れた感情も入っているのだろう。僕の方を見向きもしなかった。

 僕は無言で立ち止まる。自分が情けなさ過ぎて内海と一緒にいたくなかった。

「……ごめん言い過ぎた。でも心配なんだよ、お前は純粋すぎるから」

 内海は優しく僕の頭に手を置く。内海の言葉と一緒にのしかかってきた。

「わかってる」

 心配する内海の気持ちもわかるし、そこまで僕はバカじゃない。ただ、現実に気づいてしまっただけなんだ。
 
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