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番外編
一陣の風 side コリン
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コリン=イェルリンは翌日、何食わぬ顔で仕事をしていた。
内心は、まるで月が欠けたような、そんな気がした。けれどもそんなことは気の所為だと思うことに決めたのだ。
この4ヶ月の出来事は、束の間の揺りかごの中だっただけだ。
いつか、また必要とされる時がくる。その時がまた、自分の使い時だ。
「コリンさーん、エドガー団長が呼んでましたよ? 何したんですか?」
サシャが団長室から戻ってくるなり、コリンにジト目をしてくる。
きっと締切関係でコリンが迷惑をかけているとでも思っているのだろう。
コリンには身に覚えがあり過ぎたが、今回に限ってはそういうことじゃないのは分かっている。
「あー…マジか。昨日私が言うって言ったんだけどなぁ……」
十中八九、昨日の暴行未遂の話だ。
シルヴァには、エドガーに自分から言うことを伝えていたのだが、恐らく真面目なシルヴァの事だ、自分からもエドガーの所へ行ったのだろう。
「早く行ってください! 待ってましたよ!」
「えええー、行かなくても良くない?」
「良くありません! ほら! 早く!」
サシャはエドガーの事になると目の色が変わる。アーヴィンは嫉妬しないのだろうか。懐が広すぎやしないだろうか。
仕方なしに団長室に行くことにした。
あまり行きたくはないが、事務室だとサシャも居るから渋々呼び出したのだろう。
やはり団長室は入るのに抵抗がある。深呼吸してから入室した。
「はいはい、来ましたよ」
「……コリン。どうして自分から報告に来ない」
着いて早々、エドガーは叱るように言ってくる。
「あー…まぁ未遂だったし」
「未遂にしたのはシルヴァが来たからだろう。来なかったらどうするつもりだったんだ」
「上手くやったと思うけど」
「コリン」
「……あーもー、悪かったって」
投げやりに謝罪しても、エドガーの眼はコリンを許しているようには見えない。
「あの新人は謹慎させた。今後どうするかはシルヴァと相談する。……お前の意見も聞いておく」
「二度と関わらなければ良いよ。それだけ」
「分かった。あと、シルヴァと何かあったのか」
「はは、何も無いよ。別に」
エドガーはため息をついて納得してないまま吐き出したようだった。
コリンはエドガーの視線から外れようと、踵を翻して帰ろうとした。
「お前は、素直なようで全く素直じゃないな。……お前の相手は大変だろうな」
「相手なんて居ないけどね。じゃ」
団長室を出て、事務室に戻る気にもなれずそのまま外に出た。
辺境の穏やかな草原に向かうことにした。草原の真ん中でごろりと横になる。
穏やかな風が、草原の草を柔らかく倒す。 草の匂いに鼻がくすぐられ、心地よい陽気に眠気を誘われそうになる。
サシャには悪いと思うが、少しだけサボるのも許して欲しい。
あの新人騎士の父親が、コリンの重い鎖の過去ならば関わり合いになりたくない。話したくもないし顔も見たくない。
アイツさえ現れなければ、コリンはまだ揺りかごの中を漂うことが出来たのだ。
シルヴァにイヴの代用として使ってもらえていたはずなのだ。
いや、もう4ヶ月以上だ。
これ以上を望んで、嫌われるのだけは。
「ここに居ましたか」
魔法師のローブの一部が目に入る。丁寧な柔らかな声とデルフィニウムの涼やかな青い長い髪に、コリンは内心驚く。
「…どうやって見つけたの」
「外に出ていくのを見かけたんですよ」
シルヴァはコリンの隣に腰掛け、浅葱色のスフェーンが優しく見つめてくる。
「エドガーから聞きました。コリンの過去を」
「……余計なことを言ったもんだねぇ」
「その上で、僕の話をしていいですか?」
シルヴァはコリンから視線を外し、空を見上げる。
「僕はまだ、イヴを忘れられません。彼のことを本当に好きでした。最初は同情からでした。傷ついて辺境にきた彼が、悪夢に魘されるほど恋人を忘れられないことに同情して、支えていきたいと思ったんです」
「そう……」
「だから、まだ僕が君を好きになるかは分かりません」
「……どういうこと?」
スフェーンが、もう一度コリンを見つめる。
「僕は厄介な癖があるんですよ、可哀想な人ほど優しくしたくなる、支えたくなる。コリン、君を可哀想だと思いました」
「…なんか言ってること酷いと思うけど?」
「そうですね。僕は酷い男です、ガッカリしました?」
問われ、コリンはエドガー以外に話したことがなく、同情されたことなんか初めてのことだった。
いつも、なんてことないフリをしてきた。
過去がこびりついて剥がれないのは、エドガーも見抜いていた。
けど、別に気にしないようにしてきた。
いい加減な自分を見せて、本心を見せないようにセーブしてきた。
誰にも、自分の内側を見られたくなかった。
「ガッカリは、しないけど…」
「私は君を好きになるかはまだ分からない。でも、君は私が好きでしょう」
「……結構な自信家だねぇ」
「君の本心を探るには、断言しないとダメだと気づきました。……君は、いつも本当のことを言わない」
草原に、一陣の風が吹いて彼の涼やかな髪が揺れる。
「イヴの代わりにするのはもう止めます。コリン、君を知りたい」
スフェーンが草原の色と混ざって、綺麗な浅葱色になる。
その先に、コリンの桜色の髪が映っている。
「……そんなこと言われると、期待するよ?」
「ええ、期待して下さい」
「やっぱり無しとかは……早めに言ってよ」
「言わないようにします」
「私、多分素直じゃないよ」
「とっくに知ってますよ」
「……結構執拗いよ」
「いい勝負かもしれませんね」
「出来れば、長く傍に居たい」
「意外に可愛らしい望みを言うんですね」
「もう長い間待ったから……早く好きになってよ」
「待たせすぎましたね。でもきっと、すぐに追いつきますよ」
ずっとこんな風に、彼の隣に居たい。
泣きたいのに、泣きたくない一心で涙を堪えた。
内心は、まるで月が欠けたような、そんな気がした。けれどもそんなことは気の所為だと思うことに決めたのだ。
この4ヶ月の出来事は、束の間の揺りかごの中だっただけだ。
いつか、また必要とされる時がくる。その時がまた、自分の使い時だ。
「コリンさーん、エドガー団長が呼んでましたよ? 何したんですか?」
サシャが団長室から戻ってくるなり、コリンにジト目をしてくる。
きっと締切関係でコリンが迷惑をかけているとでも思っているのだろう。
コリンには身に覚えがあり過ぎたが、今回に限ってはそういうことじゃないのは分かっている。
「あー…マジか。昨日私が言うって言ったんだけどなぁ……」
十中八九、昨日の暴行未遂の話だ。
シルヴァには、エドガーに自分から言うことを伝えていたのだが、恐らく真面目なシルヴァの事だ、自分からもエドガーの所へ行ったのだろう。
「早く行ってください! 待ってましたよ!」
「えええー、行かなくても良くない?」
「良くありません! ほら! 早く!」
サシャはエドガーの事になると目の色が変わる。アーヴィンは嫉妬しないのだろうか。懐が広すぎやしないだろうか。
仕方なしに団長室に行くことにした。
あまり行きたくはないが、事務室だとサシャも居るから渋々呼び出したのだろう。
やはり団長室は入るのに抵抗がある。深呼吸してから入室した。
「はいはい、来ましたよ」
「……コリン。どうして自分から報告に来ない」
着いて早々、エドガーは叱るように言ってくる。
「あー…まぁ未遂だったし」
「未遂にしたのはシルヴァが来たからだろう。来なかったらどうするつもりだったんだ」
「上手くやったと思うけど」
「コリン」
「……あーもー、悪かったって」
投げやりに謝罪しても、エドガーの眼はコリンを許しているようには見えない。
「あの新人は謹慎させた。今後どうするかはシルヴァと相談する。……お前の意見も聞いておく」
「二度と関わらなければ良いよ。それだけ」
「分かった。あと、シルヴァと何かあったのか」
「はは、何も無いよ。別に」
エドガーはため息をついて納得してないまま吐き出したようだった。
コリンはエドガーの視線から外れようと、踵を翻して帰ろうとした。
「お前は、素直なようで全く素直じゃないな。……お前の相手は大変だろうな」
「相手なんて居ないけどね。じゃ」
団長室を出て、事務室に戻る気にもなれずそのまま外に出た。
辺境の穏やかな草原に向かうことにした。草原の真ん中でごろりと横になる。
穏やかな風が、草原の草を柔らかく倒す。 草の匂いに鼻がくすぐられ、心地よい陽気に眠気を誘われそうになる。
サシャには悪いと思うが、少しだけサボるのも許して欲しい。
あの新人騎士の父親が、コリンの重い鎖の過去ならば関わり合いになりたくない。話したくもないし顔も見たくない。
アイツさえ現れなければ、コリンはまだ揺りかごの中を漂うことが出来たのだ。
シルヴァにイヴの代用として使ってもらえていたはずなのだ。
いや、もう4ヶ月以上だ。
これ以上を望んで、嫌われるのだけは。
「ここに居ましたか」
魔法師のローブの一部が目に入る。丁寧な柔らかな声とデルフィニウムの涼やかな青い長い髪に、コリンは内心驚く。
「…どうやって見つけたの」
「外に出ていくのを見かけたんですよ」
シルヴァはコリンの隣に腰掛け、浅葱色のスフェーンが優しく見つめてくる。
「エドガーから聞きました。コリンの過去を」
「……余計なことを言ったもんだねぇ」
「その上で、僕の話をしていいですか?」
シルヴァはコリンから視線を外し、空を見上げる。
「僕はまだ、イヴを忘れられません。彼のことを本当に好きでした。最初は同情からでした。傷ついて辺境にきた彼が、悪夢に魘されるほど恋人を忘れられないことに同情して、支えていきたいと思ったんです」
「そう……」
「だから、まだ僕が君を好きになるかは分かりません」
「……どういうこと?」
スフェーンが、もう一度コリンを見つめる。
「僕は厄介な癖があるんですよ、可哀想な人ほど優しくしたくなる、支えたくなる。コリン、君を可哀想だと思いました」
「…なんか言ってること酷いと思うけど?」
「そうですね。僕は酷い男です、ガッカリしました?」
問われ、コリンはエドガー以外に話したことがなく、同情されたことなんか初めてのことだった。
いつも、なんてことないフリをしてきた。
過去がこびりついて剥がれないのは、エドガーも見抜いていた。
けど、別に気にしないようにしてきた。
いい加減な自分を見せて、本心を見せないようにセーブしてきた。
誰にも、自分の内側を見られたくなかった。
「ガッカリは、しないけど…」
「私は君を好きになるかはまだ分からない。でも、君は私が好きでしょう」
「……結構な自信家だねぇ」
「君の本心を探るには、断言しないとダメだと気づきました。……君は、いつも本当のことを言わない」
草原に、一陣の風が吹いて彼の涼やかな髪が揺れる。
「イヴの代わりにするのはもう止めます。コリン、君を知りたい」
スフェーンが草原の色と混ざって、綺麗な浅葱色になる。
その先に、コリンの桜色の髪が映っている。
「……そんなこと言われると、期待するよ?」
「ええ、期待して下さい」
「やっぱり無しとかは……早めに言ってよ」
「言わないようにします」
「私、多分素直じゃないよ」
「とっくに知ってますよ」
「……結構執拗いよ」
「いい勝負かもしれませんね」
「出来れば、長く傍に居たい」
「意外に可愛らしい望みを言うんですね」
「もう長い間待ったから……早く好きになってよ」
「待たせすぎましたね。でもきっと、すぐに追いつきますよ」
ずっとこんな風に、彼の隣に居たい。
泣きたいのに、泣きたくない一心で涙を堪えた。
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